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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ねこねこねこね

作者: うたた寝 楽

猫。それは、私にとって命の次になくてはならないモノ。

顔を見るだけで疲れは吹っ飛び、頬を撫でれば癒しに包まれ、肉球をむにむにすれば悶絶する。フミフミされようものなら昇天出来る。

衣・食・住・猫!!3Cならぬ4C!!!

皆に平等に癒しと安らぎを与えてくれる、それが猫。

そして、一年にたった一日だけ、元日にも勝る実におめでたい日がこの世には存在する。

その日は街中が猫で彩られ、どこの店を見ても溢れんばかり猫グッズで埋め尽くされる。

右を見ても猫左を見ても猫、四方八方猫猫猫……そんな素晴らしく尊い日それが…


二月二十二日!にゃんにゃんにゃんの日=猫の日!!


最高か?天からの贈り物か??こんな素晴らしい日は他にない。

あぁ御猫様、猫神様。どうか今年もたくさんもふもふ出来ます様に。


スパァン!!

後頭部に衝撃が走る。突然の奇襲に受け身も取れないまま、床目掛けて顔面ダイブ。

「……いったぁーい」

赤くなった額を押さえながらゆるゆると身体を起こした新奈は、涙目で背後を振り返る。

そこには、エプロンを腰に巻き腕組しながら見下ろしてくる女性の姿が。右手にはおたまではなくスリッパが握られている。

普段、自分の方が身長が高いため見下ろされることに新鮮さを覚え始めていた新奈の頭上から、冷静な言葉の槍が降り注ぐ。

「五月蝿い、それ聞き飽きた。あと長い」

くるっと踵を返し手に持っていたスリッパを履き直すと、小柄なその女性はまたキッチンへと戻っていった。その後を、身軽な様子で立ち上がった新奈はパタパタと追いかける。

「だってぇ~、一年にたった一回しかない唯一無二の尊い猫の日だよぉ~菜緒にゃん」

言いながら、再び料理を開始する菜緒の後ろに回り込み、菜緒の柔らかい頬をむにむにする。

「知るか。それに私は猫じゃなくて犬派だから」

振り返ることなくバッサリと言い切った菜緒は、新奈の手から逃れようと顔を反らす。が、新奈は気にした風もなくむしろご満悦そうにむにむにし続けてくる。

はぁ、と溜め息を吐いた菜緒は呆れた口調で呟く。

「あのねぇ、そこは肉球じゃないから」

「ん~、目を瞑っていれば肉球と大差ないよぉ」

ゆるい口調で返した新奈は、頬だけでは物足りなかったのかピッタリと身体を密着させてくる。

あー、動きにくいことこの上ない。

痺れを切らした菜緒が、卵を溶きながら告げる。

「…新奈、いい加減にしないと焼くよ?」

溶き卵を流し込んだフライパンがジューッと大きな音を立て白煙を上げた。かなり熱そうである。

が、新奈は動じた風もなく、そのまま菜緒の顎のラインを撫で上げ、耳元で甘く囁く。

「冗談。肉球を触ってるのと同じくらい、菜緒のほっぺもきもちイイってこと」

ぶわっと、菜緒の顔が真っ赤に染まる。何かを訴えようとしているが言葉にならず、口がパクパクと動いている。

ーーかーわいい♡

そっと、身動き一つ取れない様子の菜緒の胸元へ手を伸ばす。

ドスッ!

新奈のみぞおちに菜緒渾身のエルボーが綺麗にキマった。新奈、その場に崩れ落ちる。

「ばばばば、ばっかじゃないのッ!?!」

微かに顔を上げると、耳まで真っ赤になった菜緒がフライ返しを武器に戦闘体勢に入っている。

フーッフーッといったその息遣いは、まるで猫の威嚇そのものだった。

「ちょ、ちょっとタイム」

「闘いにタイムもクソもあるかぁ!!!」

バッと掲げられたフライ返しが、空中で煌めく。

腹部に手を添えやっとの思いで上体を起こした新奈は、菜緒の背後をスッと指差す。

「………焦げてる」



「いただきまーす!!」

目の前の食卓には豪勢な魚料理がずらっと並んでおり、微かに湯気を立てている。大きく息を吸い込むと、食欲をそそる良い匂いが鼻孔から全身にくまなく広がっていく。そのあまりの出来映えによだれが垂れそうになる。

ちなみに新奈は、料理に関しては全く手出しをしていない。

これは全て、調理師である菜緒の手料理だ。

それにしても、祝い、といった手前、流石の品数である。加えて中身も最高だ。猫の日だから魚料理がいい、といった新奈の我が儘を叶えた上で、彩りや栄養バランスまで調整されている。恐るべし。

「焦げた方は新奈のだから」

本日のメインディッシュであるオムライス。の、玉子が焦げた方を新奈の前に差し出す。

「えぇーっ」

「えぇーっじゃない。アンタが料理中邪魔したんだからね」

責任はちゃんと取りなさい。と、菜緒は静かに告げる。

「はぁーい…」

ショボくれモードの新奈だったが、次の瞬間その表情は満面の笑みに変わりキラキラと輝いていた。

新奈の目線の先、オムライスの表面に猫の顔がケチャップで描かれている。

「菜緒~~~~♡♡」

抱きつこうと腕を伸ばすが、テーブルを挟んでいるため届くはずもなく、新奈の腕は虚しく空を掻く。

「五月蝿いなぁ、早く食べないとその猫塗り潰すよ」

ハッとした表情を浮かべた新奈は、直ぐ様オムライスを懐に隠そうとする。

「わかったわかった、やらないから大人しく食べて。こぼすから」

警戒しつつもソッとテーブルにオムライスを戻した新奈は、改めて目を輝かせスマホで写真を撮りまくっている。

そればっかり撮られてもなぁ、と呟き苦笑を浮かべる菜緒。と、急にスマホのレンズがこっちを向く。

パシャ!

画面を確認する新奈。目を見開いたままこちらを凝視している菜緒の姿がしっかりと写っている。

「よしっ隠し撮り成功!!」

「待て待て待て!!」

ご機嫌な新奈の手からバッとスマホを奪い取る。

「どこが隠し撮りだ!!思いっきりバレてるわ!!」

ええー、と抗議の声を漏らし、両の人差し指同士をツンツンと突き合わせる。

「バレてても~撮れちゃえばこっちのモン♡」

パチンッとウインクしてみせる新奈。

「消す」

新奈のスマホの電源ボタンを軽く押す菜緒。ロック画面へ。パスワードは四桁の数字。勝った。

「二・二・二・二」

開かない。

「なぜだーーーッ!!!」

向かいでは新奈が腹を抱えてケラケラ笑っている。

「そんな安直なパスワードにするわけないでしょ~」

ひー可笑しい、と息も絶え絶えになりながら笑い続けている。

悔しい、絶対開けてやる。てか何でこんなに猫オタクなのに、にゃん・にゃん・にゃん・にゃんじゃないんだよ!!猫に謝れ!!

猫じゃなければ、新奈自身の誕生日…

「ブブーッ」

ガクン、と机に崩れ落ちる。

「はぁい、あと一回♡間違えてロック掛かっちゃったら携帯ショップまで行って直してきてね♡」

満面の笑みで告げる新奈。何だか尻尾が見える気がする。それも左右に大きくブンブンと振りやがってる。

でも事実、チャンスはあと一回。ここで引き下がって奴に一枚くれてやるか、明日の手間が増える覚悟で勝負に出るか…

頭を抱え込んでしまった菜緒。その目の前で、さも面白そうにニヤニヤと口許を歪ませている新奈。

数分が経過する。完全にド壺にハマり硬直状態となってしまった菜緒に、仕方なく新奈は救いの手を差しのべることにした。

「迷ってますなぁ迷探偵。そんなに深く考え込まなくても、その人以外の誰かの誕生日なんてパスワードにする?」

疲労の色を浮かべた瞳がじぃっと目の前の人物を見つめる。

「………まさか」

菜緒はスッと目線を手元のスマホに戻し、丁寧に自分の誕生日を入力する。

開いた。

「ピンポーーン!!正解は、大好きな菜緒にゃんの誕生日でした~~~♡」

脱力。そんな使い古されたネタあるか。

「……あのねー、今時彼女の誕生日がパスワードだなんて、こんな分かりやすかったら簡単に誰かに」

「ハイハイ、細かいことは気にしな~い!」

菜緒からスマホを奪い返した新奈は、あっという間に菜緒の隣まで駆け寄り、インカメラにして頭上に構える。

「ハイッチーズ!!」

急にツーショットを求められ慌ててピースを構えようとする菜緒。が、予想に反し、新奈はチュッと音を立てて菜緒の唇にキスをする。

パシャッ!

画面には綺麗なキスショットが鮮明に写し出されている。

「なっ…な…」

突然の出来事に菜緒は口をパクパクさせている。

その傍らで、新奈は楽しそうに自らの唇をペロッと舐めた。

「いただきました♡」

新奈は満面の笑みを浮かべる。

やっと状況が脳に達した菜緒は、バーっと頬を紅潮させると、音を立てて椅子から立ち上がり指差しで叫んだ。

「何っ急に、ばっかじゃないの!!」

真っ向から指を指された新奈は、すーっと目を細め不敵な笑みを浮かべる。

「ふふふ、だって最近私の可愛い仔猫ちゃんがお拗ねだったようだから、お姉さんが甘やかしてあげようと思ってね」

いつになく艶っぽい声音で囁く新奈。その音が菜緒の鼓膜から背筋までをゾクゾクと刺激する。

「な、何のことだか…」

先程の勢いはどこへやら。じわじわと頬が更に熱を帯びていくのが分かる。

恥ずかしくなり顔を背ける菜緒。その隣に、ゆっくりとした調子で新奈が歩み寄ってくる。

「ふふ、分かってるクセに」

新奈の吐息が耳にかかり、菜緒の小さな身体が小刻みに震える。初めてではないとはいえ、新奈の放つオーラを受けて緊張でかなり力が入っているのだろう。

新奈はそっと、菜緒の唇に自分のそれを重ねる。

触れ合う程度の、優しいキス。

それを繰り返すことで、徐々に菜緒の身体の緊張がほぐれていく。

新奈の綺麗な長髪がハラリと顔にかかった。ふわっと、菜緒の大好きな匂いが鼻先を掠める。

「……ン」

菜緒の唇が緩み吐息が漏れる。新奈は更に深いキスを求めた。菜緒もそれに応える。

二人の舌が絡まりあった時、新奈の指がそっと菜緒の太ももに触れた。

「ーーーーッ」

その時だ。突然弾かれたかの様に、菜緒が新奈を精一杯の力で押し退けた。

「………なお…?」

訝しげに様子を伺う新奈。

一方の菜緒は、顔を腕で隠したかと思うと、バタバタとその場から逃げ出していった。



to be continue……

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