俺と狐の嫁入り
第一話~俺と狐の嫁入り~
「ん……ここは…何処だ?」
俺は今焦っている。
目を覚ますと見知らぬ場所にいた。
辺りを見るが見渡す限りの森である。
ここが何処だか分からないが自分が身に付けていた物があるので拐われたと言うことでは無さそうだ。
今は昼ぐらいなのか暖かい日射しが木々の隙間から漏れている。
「取り敢えず明るい内に、何か無いか探してみるか。」
俺は、立ち上がった。
少し歩くと木にけもの用の罠が数個仕掛けてあった。
「おいおい、危ないことするもんだな。」
罠は、どれも危なそうに見える。
しかし殺傷力は特に無さそうに見えたが時折トラバサミ等があるからケガは確定だが…
俺はその罠を少し観察していると。
ふと、何処からかガサゴソと何が聞こえてくる。
「クゥーン」
獣でも捕まったか…
俺はその罠の所まで行った。
そこには一匹の狐が捕まっていた。
狐は俺の方を向いて興味深そうに見ている。
俺はその狐が捕まっている罠を観察した。
幸いもに先ほどあったトラバサミではなく縄によって捕まえる罠であった。
俺は狐に話しかけた。
「狐よ。今罠を外してやるから少しだけ待ってな。」
狐は、驚くような表情をしていた。
俺は狐の罠を持っていたナイフで外してやった。
罠が外れて狐が俺の方に寄ってきた。
狐は捕まっていた脚をケガしているのかひょこひょこと歩きづらそうにしている。
俺は狐に自分の名前が刺繍してあるハンカチを脚に巻いて治療した。
「少し歩き難いだろうが治るまでの辛抱だ。」
狐は、クゥンと鳴いていた。
そして、後ろの藪に逃げて行った。
俺は狐の逃げて行った藪を見ながら地面に腰を下ろした。
ふと、考えてみる。
ここは…何処なんだろうか。
罠や森といった今の現代だと確実に無いはず物があり。
古き時代の罠が自分の時代では、無いことを語ってきている気がした。
物思いに更けているとトコトコと何かが走ってくる音がした。
とっさの事で身構えることもしなかった俺に行きなり顔に何かがぶつかった。
俺は焦った。
顔にふわふわした何かがしがみついているからだ。
隙間から見えている黄色い毛皮が俺の顔に触れている部分がくすぐったい。
「どうしたんだ。さっき助けた御礼でもしてくれるのか?」
俺は狐に話しかけた。
狐はクゥンと鳴いた。
「そうか。どうせ、御礼でもしてくれるのなら俺と一緒にいないか?」
その言葉を聞いて狐は、俺の顔から離れた。
俺は狐に言った。
「俺も、1人で寂しいから一緒にいてくれるやつがいると安心するからさ。」
狐は目を輝かせて話を聞いている。
俺は、最後に狐に言った。
「お前がもし俺と一緒にいるなら俺の嫁にでもなるか?」
この一言が俺の今後の人生を変える切っ掛けになるとも知れずに言ってしまった。
「なんて……俺の言葉が分かるわけが無いよな……」
すると………
狐は、コンと頷いた。
そして、俺は狐と歩き出した。
狐と一緒に歩いていると道に出たのだが……
俺はその道を見て絶句した。
あり得ない筈の物がいたのだ。
「馬…だと……嘘だろ」
周りには田んぼと数人が農作業していた。
「おいおい、本当に何処なんだよ……」
俺は農作業していた1人に話しかけた。
俺が話しかけた時周りにいた人達も動きを止めて此方を見ている。
「道を尋ねてもよろしいかな?」
作業をしていた人が動きを止めて笑いながら言った。
「ここは、美濃の国の外れの山道だで」
おいおい、今この爺さん何て言った。
美濃の国だと…岐阜県じゃなくてか?俺は東京から戦国時代にタイムスリップでもしたと言うのか?
もしここが本当に戦国時代なら今俺の着ている服は可笑しいはずだ。
だが、取り合えず……
俺は爺さんにカマをかけてみることにした。
「爺さんや、この国の国主はご健勝かな?」
爺さんは、何をバカの事を言っていると笑っていた。
俺はもう一度聞いた。
「斎藤道三様はご健勝かな?」
爺さんは、呆れたように笑っていた。
その後、爺さんからこの山道を進むと何処に行くのか聞いた。
爺さんの話だとこの山道を進むとこの国の殿様、安藤伊賀守守就様の城に着くとのことだ。
俺は少し動揺していた。
しかし、隣で狐がクゥと鳴いたので心配させないように気を引き締めた。
俺は、わかりました。と告げ爺さんにお礼を言い歩き出した。
少し歩くと、〔※時間にすると三十分〕その庵はあった。
外からその立派な庵を見ていると声がする。
俺は戸を叩いた。
中から二人程の声がする。
「すみませんがここの庵に偉い人がいると聞いて来たのだか会ってはもらえませんか?」
数秒後戸が開いた中から綺麗な顔立ちの青年が出てきた。
「ここは、竹中半兵衛の庵だが?」
俺は驚きを顔に出さずに話をした。
俺は内心ではわかっていたのだこの庵が竹中半兵衛の庵ということに。
外の柱には護符それもドーマンセーマン陰陽の護符が貼られていたからだ。
青年は、笑顔のまま中に入れてくれた。
中には、この国の城主である安藤伊賀守守就らしき老人がいた。
「私は旅の者でございます。村人に聞いたらここに偉い城主様がいると聞いて参りました。」
その言葉を聞いてこの老人は、俺に言った。
「ワシがここの城主だが?旅の者と申したか?お主は何の旅をしておるのだ?」
俺は咄嗟に言った。
「私は怪異収集の旅をしております。」
それを聞くと青年が意地悪そうに笑みを溢し言った。
「それはそれは、今までどんな怪異収集をなさったのかな?」
俺はどう言えば良いのかわからずに無言でいると青年から笑い声が聞こえた。
「くっくっくっはっはっはっー」
俺はその笑いに顔をしかめていると青年が言ってきた。
「すまん。すまん。俺の名は前鬼という。俺は竹中半兵衛の式神だ。」
安藤伊賀守守就が焦りながら
「ぜ、前鬼殿!!!」
続くように前鬼は言った。
「俺も輩の夫に嘘はつけんのよ‼」
輩の夫?俺は誰とも結婚などしてないが?
前鬼は、隣の狐に向かって言った。
「姿を見せても大丈夫だぞ!!」
狐は、目を丸くさせてコンと鳴いた。
その瞬間ドロンと擬音が付き添うな感じ九本の狐の尻尾を着けた少女になった。
俺は目を見開いて。
「よく、わかったな、わらわがこの男の妻だと。そしてこの男がわらわの夫ってことが‼」
前鬼は、笑いながら言った
「流石にわかるさ、同族の狐なのだからそれにお前は九尾の姫様。お前から結婚の儀式を終えたばっかりの印が見えたからな。」
俺は頭を押さえながら聞いた。
「お嬢ちゃん。誰の妻だって?」
少女は、面倒そうに指を指しながら言った。
「わらわは、」
少女は、自分を指で指した
「お主の」
次に少女は、俺の事を指で指した。
おいおい俺の後ろには誰もいないぞ。
「妻じゃ‼」
そして、また少女は自分を指で指した。
アウトー‼
マテマテいつから俺はこんな少女と結婚したんだ?
俺は聴いた。
「俺はいつ結婚した?」
ひとしきり笑った前鬼は、笑いを止めて俺に質問してきた。
「自分の名前がついている物をあげなかったか?」
名前が刺繍してあるハンカチをあげた。
「次に、この狐が顔にしがみついて来なかったか?」
しがみついて来た。
「最後に、一緒にいろなど嫁にするなどの言葉を言わなかったか?」
言った。両方とも言った。
「この条件がすべて揃った今二人は晴れて夫婦と言うことだ。」
前鬼は、笑いながら古式儀式の内容を言ってきた。
頭を抱えている俺に少女が言ってきた。
「わらわの名は、鈴蘭。この男の妻じゃ‼これからよろしくの主様。」
そお言うと鈴蘭は、俺に抱きついてきた。
そして、抱きつきなから……
「ずっと一緒じゃぞ。離さないのじゃ。」
俺は血の気が引いていく感じがした。
現代だと確実に逮捕物である。
しかし、俺は心の何処かでワクワクしていた。
自分の事を壊してくれるような出来事を、常々思っていたからだ。
俺は覚悟を決めて鈴蘭の方を向いて鈴蘭を抱き締めて言った。
「俺も、離さないからな。」
それを聞くと鈴蘭は、顔を赤くしながらコクと頷いた。
目の前で二人の誓いを見ていた前鬼殿と安藤殿はほのぼのとしながら笑っていた。
そして、前鬼は言った
「せっかくだ。ここで会ったのも何かの縁だ‼ささやかだが二人の祝言を開いてやろう。」
安藤殿もそれは、言い考えだと手を叩いていた。
俺はそこまで贅沢は出来ないと言ったら前鬼殿が
「最強の九尾の狐の姫様と結婚するんだ。少しぐらい贅沢したってバチは当たらんさ。」
現代だと指輪などあげるが昔の結婚式など分からない俺はどうするか考えていると、鈴蘭が言ってきた。
「主様は未来の世界から来たからの~この時代がわからんのじゃろうな」
前鬼殿と安藤殿が驚いていた。
俺も驚いた。
「どうしてわかるんだ?」
俺は驚きを顔に出さずに鈴蘭に質問する。
鈴蘭は、もったいつけようともせずに胸を張りながらどうしてわかったのか言ってきた。
「わらわは、九尾の妖孤。それも、その中のお姫様なのじゃ。わらわ達妖孤は結ばれた人の記憶を共有するのじゃ。」
前鬼殿は、知っていたのかクスクスと笑っている。
「そうやって、妖孤は知恵を蓄える。知恵を蓄えた妖孤は、また強くなっていき最強の一族になっていく。」
俺は、納得した。
しかし、鈴蘭は狐だが前鬼殿も狐なのか?
俺は、前鬼殿に聞いてみることにした。
「前鬼殿?前鬼殿は、鈴蘭と同種の狐なのか?」
前鬼はこの言葉を聞くと顔を俯かせて考える。
考えが纏まったのか顔を上げた。
「俺は、式神。そこの、姫様とは似て非なる物さ。それでも妖孤と一緒で知恵を蓄える事はやめないけどな。」
安藤殿と俺は目を見開いて説明を聞いていた。
説明が終わると後ろの戸が開くような音がした。
「前鬼さん。どうして式神だってバラしたのですか?」
後ろを向くと陰陽師の格好をした少女がへたりこむように座っていた。
俺は、不思議に思いその少女に近づいた。
少女は、俺の顔を見るとプルプル震えていた。
俺は、挨拶をしようと声をかけようとした。
その瞬間…ビクッと動き前鬼殿の後ろに隠れた。
「すまんな。うちの主人は、人見知りでな。初めての人だと大抵こうなるのだ。」
主人?え?前鬼殿の主人?
俺は聞いた。
「もしかして、この少女が……」
「あぁ……俺の主人の竹中半兵衛だ……」
嘘だろ…竹中半兵衛が少女……おいおい現代の歴史が間違いを犯してたのか……
俺が考えている間に少女…竹中半兵衛が首を傾げながら聞いてきた。
「あの~…このお二人は?何方でしょうか?」
前鬼殿と安藤殿が焦ったように説明を始めた。
説明が終わると自己紹介しなけらべいけなくなったようだ。
鈴蘭が胸を張りながら声をあげた。
「わらわの名は、鈴蘭。そして、この男は、わらわの主人の……」
俺は鈴蘭が俺の名を言おうとした所を手で遮った。
「お三方。俺の名前は、九桜雨乃と申します。」
俺の名前を聞いて安藤殿が首を傾げながら言った。
「女子のような名前をしておるの~」
俺は愛想笑いをしながら言った。
「俺の一族は、昔から男子でも女子の名前をつけて自分の身の回りを危険に曝さないようにするのです。」
安藤殿は、それを聞くと、納得いったのか頷いていた。
俺は危険が去った安堵の気持ちでで息を吐いた。
色々あったが前鬼殿が話を戻した。
「話を戻すが、二人の祝言を開こうじゃないか。狐の嫁入りなどあまり見れるものではないからな。」
俺は内心諦めたので話に乗ることにした。
「鈴蘭。祝言を上げよう。」
俺は普段からブレスレット等を身に付けているので自分の指から指輪を取った。
俺は鈴蘭の顔を見ると顔を赤くしながら緊張したような固い笑顔をしている。
鈴蘭の指を見る幼い外見に似合わず細くてしっかりした指をしている。
俺は鈴蘭の薬指に指輪をはめた。
そして、鈴蘭の柔らかそうな唇に自分の唇を落とした。
「おぉ~それがお主のいた時代の祝言というものか。」
安藤殿は、俺達のした事を見て笑みを溢した。
それから俺達5人は少し雑談等をしていた。
「日も暮れて来たし、そろそろおいとましますかな?」
俺がそう言って腰を持ち上げると…
「せっかく知り合った仲なんだ、どうだろうか今日はこの庵に泊まって行かないか?」
前鬼殿がそう言うと、安藤殿もそれは良い考えだと頷いている。
まだ半兵衛殿は、慣れていないのか少し考えている。
前鬼殿は、笑いながら半兵衛殿を抱え半兵衛殿を説得した。
半兵衛殿は、決心がついたのか前鬼殿から離れて俺の方に体の向きを変えた。
「何もない所ですが一晩どうぞ……」
俺は、胡座を正座に直して深く頭を下げた。
俺の横にいる鈴蘭にも頭を下げさせた。
半兵衛殿の後ろにいる前鬼が笑いながら言ってきた。
「初夜だからってハメを外しすぎるなよ。半兵衛の教育に関わるからな。」
俺と鈴蘭は顔を真っ赤に染めて否定した。
そうして俺のいた時代の話等をして夜になった。
俺は、寝るために鈴蘭と蒲団に潜った。
鈴蘭は、人と寝るのが初めてなのかフルフルと震えていた。
俺は、鈴蘭が寝るまで少し話をした。
話が終わって俺も眠くなってきたので鈴蘭を見るとトロンとした顔をして瞳を閉じかけていた。
俺は、そんな鈴蘭がかわいく見えて鈴蘭の柔らかい唇に唇をつけてキスをした。
「おやすみ。鈴蘭。」
二人して幸せな顔をして眠り始めた。
こうして俺達の結婚初夜が終わり俺達の怪異収集の旅が始まった。