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Proxy War   作者: will
1:見出された者
4/5

酒場

狭い路地を迷うことなく進んでいく学ラン少年の後を若根少年は黙ってついていく。質問したいことが山程あるだろうが、前を歩く少年の背中から漂う「何も言うな」という気配が若根少年の口を開かせない。

10分程歩いたところで前を歩く少年が足を止めた。そこは狭い路地に居を構える小さなバーだ。彼は男を担いだまま扉の向こうへと消える。若根少年も後に続いて店へと入る。カランコロンと扉についたベルが小気味いい音をたてる。

店内に人影はない。カウンターの上にイスが並べられているあたり、まだ開店していないのであろう。

「マスター!!いるかい?」

学ラン少年は担いでいた男を床に下ろすと店の奥に向かって呼びかけた。するとカウンターの奥の扉が開き、中から眼鏡をかけ、口元に髭をたくわえた初老の男が現れた。

「ほうほう、ハヤトか。どこぞで誰かに殺されたかと思っとったが、生きとったか」

「その台詞、そのままお返しするよ」

ハヤトと呼ばれた学ラン少年と初老の男、マスターは互いに手を握り合った。

「ちょっとそこで暴れていた奴を見つけたもんで、ここに連れてきたんだ」

ハヤト少年は床にいる男をカウンターの上へと引き上げた。

「最近出回る手配書に顔はなかったと思うから、そんなに大物ではないと思うんだけど」

「ふむ、こいつは……そうじゃ、結城の下で動いとった下っ端じゃな」

「下っ端か~、じゃあ大した額にはならなそうだね」

「まあ、相場50くらいかのぉ」

「おっけー、じゃあいつもの通りよろしく頼むよ」

「わかった。 して、そちらさんは?」

マスターの視線が男から若根少年へと移る。

「ああ、この下っ端にやられそうになっていた子だよ。えっと、名前は」

「わ、若根です。若根ヒロキです」

「だ、そうだ」

「ほうほう、して君も“見出された者”のようじゃが、その不用心な“光”は一体どういうことかな?」

マスターの眼光が一瞬鋭くなる。不意を突かれ動揺するも若根少年は自身の状況について説明する。

「あ、あの、何を言われてるかさっぱりで……それに何でこんなことになっているのかも。僕はただ普通に学校から家に帰っていただけなのに、突然その人がナイフを突き付けてきて「一緒に来い」と脅されたんです。で、言われるがままあそこにつれていかれたと思ったら、彼が……」

「ハヤトだ」

「え?」

「俺の名前さ。よろしく」

ハヤト少年が手を差し出す。

「あ、ど、どうも……」

若根少年はその手を握る。

「そしたらハヤトさんが来てくださって、僕を助けてくれたんです」

「いやいや、助けただなんてそんな。結果的にそうなったってだけだから、気にしなくていいよ」

ハヤト少年は笑いながら手を振った。

「そうじゃな、此奴には一片の恩義も感じんで大丈夫じゃぞ」

「いやいや、そこまでは言ってないよ。老ぼれ」

「いやいや、若根君に誤解のないようワシからも言ってあげただけのことよ。のぉ、“ゴミ”よ」

マスターの言葉が終わるや否や、ハヤト少年はこめかみをひくつかせながら少々語気を荒げて言った。

「だ、か、ら、イントネーションが違うって言ってるでしょうが!!!!俺の名前は“ゴミ”じゃなくて、“五味”なの!!!!わかった!?何度も同じこと言わせないでね、ジジイちゃん」

「ほっほっほ、お前さんの言う通りジジイちゃんだからか、最近物覚えが悪くてのぉ。これからも同じことを言うかもしれんが、勘弁してくれよ」

字面だけ追うと二人の仲は最悪だが、実際にはそこまで険悪さは感じられない。むしろ良いものに感じられる。じゃれついているかのようだ。これは二人の挨拶のようなものなのだろう、と若根少年捉えた。

「というか、そろそろ本題に戻ろうよ」

ハヤト少年は再び若根少年に向き直して行った。

「そうじゃの、おふざけはここまでにしとくか」

マスターも若根少年を見る。

「じゃ、まずは訊かせてもらおうかな。若根君といったかな。君は何も知らないんだよね?」

「はい……何が起きたのか、僕が今なんでこんなことになっているのか、さっぱりです」

「何も知らん、というのは妙じゃな。君、昨晩変わった夢などは見んかったかい?」

「夢、ですか……」

若根少年は首を捻る。そして、昨日の夢を思い出す。

「うーん…………あ、そうだ!! そういえば、確かになんだか変わった夢を見たような」

「どんな夢だったんだい?」

「え〜と……なんか、キラキラした感じの夢でした。あと、誰かいたような……羽?みたいなのも見えたような。あと、何か言われました。“加護”がどうだの、“悪魔”がどうだのと」

「他には何か言っとらんかったかの?」

「いや、他には……特に思い出せないですね」

「……こいつは困ったな。マスター、彼に“加護”を授けたのはとんだいい加減な“天使”みたいだ」

「そうみたいじゃな。まさか授けた能力の説明もしておらんとは……」

二人は互いに顔を見合わせ弱り顏だ。

「あの、一体どういう……」

ハヤト少年は若根少年の方に振り向き、彼の身に降りかかったどうしようもない災難を告げた。

「残念だけど、君は戦争に巻き込まれた。今から殺し合いをしなくちゃいけないよ」

「……は、ぇ、ええええ!?!?!?」

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