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Proxy War   作者: will
1:見出された者
3/5

邂逅

若根少年はいつもの帰り道を何気なく歩いていた。いつも通り高校からの道のりを音楽を聴きながらのんびりと歩いていた。

「しかし、今日の僕の冴え渡る第六感はどういうことなんだろう」

考えたところで答えなど見つかるはずもないのだが、ついつい考えてしまう。

今日の数々の偶然は本当に偶然なのだろうか。それとも何か理由があるのだろうか。あるとしたら、いったい……

若根少年はスマホを取り出して検索サイトに”第六感”と打ち込み検索する。

「類義語……勘・インスピレーション・霊感……ESP? なんだこれは……超能力の一種……ふーん」

と、彼は第六感についてどうでもいい知識を得るのに夢中になっていたため、前から歩いてくる男の存在に気がつかなかった。そのままその男にぶつかってしまった。

「あ、すみませ……」

「動くな」

「へ?」

言われて男の顔を見る。続けて視線を下げると、男の手には不気味に光るナイフが握られていた。

「……え」

突然のことで、言葉が出ない。人間本当に驚いたときには、何も言えないのだと若根少年は学んだ。

「そのまま後ろを向いて、俺の指示通りに動け。騒いだら殺す」

若根少年は首肯する。そして男の指示通りに人気のない方へと歩いていく。そしてとうとう雑居ビルの間にある狭い路地に入ったところで足を止めた。

ここが僕の死に場所か、と諦めるにはまだ早かった。何とかして活路を見出さんと若根少年の頭はかつてない程の回転数を見せていた。どうにかしてこの死地を切り抜けねば、というかこんな所で殺される意味もわからぬまま死ぬのは御免だと少年の本能が訴えていた。

「あ、あの……すみません、1つだけ質問しても構いませんか」

「……なんだ」

男は数瞬の間を置いて口を開いた。

「え〜と、あの、その、ぼ、僕はなんであなたにナイフを向けられているのでしょうか」

「そんなの決まっている。お前も“見出された者”だろう?」

「“見出された……者”?」

若根少年は聞き慣れぬ言葉に首を傾げた。

「ああ、特別な力を手に入れた者のことだ。その様子だと何も知らないようだな。道理で“光”も隠さず歩いていた訳だ」

「え、ぇえと……」

若根少年にとって男から発せられる言葉は、異言語に近かった。1つ1つの単語は知っているのだが、男がどのような意味で使っているのかがわからない。これでは会話にならないと困惑したのも束の間、男がいきなり少年の口に手を当てた。すると彼の口に何か小さなものが滑り込んできた。

「飲め」

突然のことに驚いた若根少年は男が飲めと言うと同時に何だかわからないそれを飲み込んでしまっていた。

「俺はナイフなんてもので人を殺すのは趣味じゃないからな。コイツでお前を殺すことにする」

そう言って男がポケットから取り出したのは、

「鍵?」

「そうだ。今お前が飲み込んだものだ」

「……」

少年はなんだか気持ち悪くなってきた。誰が好き好んで誰ともわからない人間の触った鍵を飲み込まなければならないのか。

しかし、今それはさしたる問題ではない。妙なことがある。少年が飲み込んだもの、鍵は彼の喉をすっと通過してしまう程小さなものであった。恐らく市販の風邪薬と大差ない程の大きさである。男が見せたものとは全く大きさが違う。第一鍵で人を殺すだなんて、どうするのか見当もつかない。一体どういうことなのか。

彼の抱いた疑問は、次の瞬間解決した。

男の握っていた鍵が男の掌でみるみる内に小さくなっていったのだ。

「おお……」

若根少年は驚きの声を漏らした。

続いて男の持つ鍵はさっきとは逆にどんどん大きくなっていき、遂にはちょうどよく振り回せる鈍器のような大きさになった。

「これが俺の力だ」

男は少年に向けていたナイフを引き、懐にしまった。

「もしお前が逃げ出したなら、さっき飲み込んだものが腹を突き破って出てくるぞ」

少年は悟った。自分が男から逃げることなどできないということを。彼の頭にはとりとめもないことが走馬灯のように廻っていた。さながら人が死ぬ間際に見るというそれのように。

「さて」

男は少年の肩に手を置いた。「ああ、ここまでか」少年が全てを諦めたその時、少年は後頭部に爆発音と共に大きな衝撃を感じた。彼はあまりのことにそのまま前に倒れてしまった。

「ぐわぁぁぁ!!!!」

男の悲鳴が辺りに響く。少年は倒れたまま発声源を見ると、男が声にならないうめき声を漏らしながら顔を両手で押さえながらうずくまっている。

「あらあら、まあまあ、どんな奴かと思って来てみたら、大したことはない小物じゃないか」

少年の正面から声が聞こえる。少年は顔を上に向けた。そこには学ランを着た男子高校生の姿があった。彼は左手で指を鳴らしながら、徐々に若根少年と男の元へと近づいてくる。

「何だッ!!お前」

言いつつ男は立ち上がろうとするが、

「おっと、まだ戦意があるのか」

正体不明の学ラン少年は右手でパチンと指を鳴らす。すると男の周囲で先程よりも大きな爆発が起こる。

「うわぁぁ!!」

若根少年は思わず顔を伏せ、凄まじい爆風から身を守る。そのため若根少年は気がつくことができなかったのだが、風に乗って彼と学ラン少年のもとへ飛んでくるものがあった。

「ん?」

それに学ラン少年が目を遣る。

「鍵?」

その一言に若根少年はハッとする。先程男が見せた不思議な光景が頭をよぎったからだ。

「それ、大きくな――

若根少年の言葉が終わる前に頭上に爆音が轟いた。そして案の定巨大化した鍵は爆風によってどこかへ吹っ飛ばされていった。

「おっと、危ない危ない。あんた、変わった能力をもっているんだな。まあ、差し詰め“支能力”ってところだろうが。明らかに戦闘向きじゃないもんな」

学ラン少年は倒れて動かなくなった男の元へと歩いていく。

「さて、悪いけどあんたは連れて行かせてもらうよ」

彼は男を担ぎ上げ、そのままスタスタとどこかへ行こうとする。

「あっ!ま、待ってください!あの、い、今のは一体……」

若根少年の問いに学ラン少年はアゴで行く道を示すことで答えた。それが「ついて来い」という意味だと読み取った若根少年は急いで立ち上がり、彼の後ろについて歩き始めたのであった。

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