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晴れ、時々軍師  作者: 石田かりん
第一章
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「城、夏にして」その5

「まさか六日で完成するとはね……」

リンユーは双眸に驚きを湛えながら、完成した城壁を見る。

「俺も予想以上でした」

葵の表情にも驚きがあふれている。

「まぁいいさ。あんたの功績だ。胸を張んな」

これほどまで早くに城壁修理が終わったのにはわけがある。

変化があったのは、班分けをした二日後のことだった。

脱水症状で倒れた職人が回復し、現場に復帰したのだ。

「若いの、世話になったな。礼を言うぜ。俺ぁよぉ、若いの。倒れて家で寝ている間、ずっと考えてたのよ。おめぇさんには命を助けてもらった。命の礼だ、決して安くねぇ。だがよぉ、俺には金も何もねぇ。どうやったらおめぇさんに礼をできるか、困っちまってたのよ。そしたら仲間たちが、おめぇさんがこの修理の責任者になったって言うじゃねぇか。俺は職人だ、だったらてめぇの腕で返したらいいじゃねぇかって思ったのよ。そういうわけで若いの。俺をばんばん使ってくんな」

そう言うと、獅子奮迅、八面六臂。これまでの分、いや、それ以上の働きを見せ、彼の加わった班は倍以上の速さで修理を進めていった。

それを見たほかの班も、病み上がりに負けるわけにはいかねぇ、と、さらに速度を増し。そうして気が付いたら六日で完成していたというわけだ。

「ところであんた。この後どうするつもりだい?」

もともとロホウに依頼された仕事だ。それが終わった今、葵は再び無職になってしまった。

「(いつまでもロホウさんの世話になってばかりもいられないよな)」

でもまぁ、なんとかなるだろう、そう思えるくらいには、葵もこの修復工事を通し、多少の自信をつけていた。

「(まずはロホウさんに報告しないとな)」

そう思った葵は、「何とかしますよ」と、リンユーに別れを告げロホウの屋敷へと向かった。

「まぁいいさね。アタイとしてはその知恵でリンシア様を助けてもらえると嬉しいんだがね」

そんなリンユーのつぶやきが葵に聞こえることは無かった。



時は少しさかのぼる。

リンシアはその家宰であるロホウからの報告を受けていた。

「恐れながら、あの者をお召し抱えくださいませ。必ずやリンシア様のお役に立ちましょう」

「くどい。一度追い出しておきながら、能力を見せたから連れ戻す。そんな恥知らずな真似をしろと言うのか?」

「はっきり申せばそうなります。こちらの都合で勝手に追い出し、こちらの都合で勝手に呼び戻す。しかし! 今回ばかりはそれをやっていただきます」

ロホウのもとにも、葵がわずか六日で城壁の修復を終えたとの情報が入っていた。そもそもこの仕事を依頼したのはロホウである。葵の報告を待たずとも、その程度の情報は入るようになっていた。

「(まさかあの若人が、これほどまでの能力を持っているとはの)」

ロホウとて、全く期待せずに依頼したわけではない。リンシアは常日頃から清廉であることに努め、虚言を弄すはずもない。そうは思っていても、突然人が現れたというリンシアの言を俄かには信じがたいのも事実であった。

故にロホウは、葵がリンシアの屋敷にいる間、観察を続けてきた。あやかしの類であっては困る。そう思っていたが、どうも違うらしい。むしろ、凡百とそう変わらないのではないのか、そう考えるようになっていた。

だが、リンシアの言もある。ものは試しと、葵に仕事を任せてみれば、こちらの予想をはるかに超える結果を出してきたではないか。

「(あの若人はこの国にとっての天佑やもしれぬ。何としても引き留めておかねばなるまい。こちらの都合で振り回すのはワシとて本意ではない。だが今はそうも言ってられぬ)」

そう思い、リンシアに葵を召し抱えるよう進言に来たのだが、どうも無理そうであった。

「(リンシア様の清廉さは確かに得難い資質であることは間違いない。ワシもそれを好ましく思っておる。だが、ときにそれが頑迷さにつながっておるようじゃ。なんとかせねばのぅ)」

ロホウは一旦リンシアの御前より下がり、葵が報告に来たというので、自分の屋敷に戻ることにした。

「(今がこの国にとっても切所よ。なればこの老骨、今一度鞭うつことにするかの)」

ロホウの目には、確かな決意が映っていた。

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