デート②
「ふぁあぁ」
生気が抜けるようなあくびで僕は目を覚ました。時計をみるとまだ四時半だった。という事は三時間ほどしか寝ていない。そのせいか少し疲れが残ってしまっている。
バイトは今日休みだが、いつもの癖でこんな時間に目覚めてしまう。窓の外はまだ太陽が出ていなく、夜と言われても信じてしまいそうな暗闇だった。そしてなにより、寒い。冬の朝なのだから当然だ。顔を触ってみると、ひんやりしていて冷凍みかんみたいに冷たくなっていた。しかもパソコンの前で寝落ちしてしまったため、布団もなにもかけておらず、全身冷凍みかんになってしまった。僕は急いで部屋のストーブの電源スイッチを押し、その前で震えながら正座待機をしていた。しかし――
いつまで待ってもストーブは点かなかった。
「なんだよこんな時に……!」
苛立ち、思わず呟いてしまう。一体どうして点かないのか。故障か? いや、これはそんな古い物でもないし……
「あっ」
僕は昨日の晩、母が言った言葉を思い出した。
「今家に灯油ないから明日になるまであんまりストーブ点けるんじゃないわよ?」
しまった。昨日の夜はガンガン点けてしまっていた。僕はストーブの蓋を開け、灯油の残量を確かめてみる。が、思ったとおり無くなっていた。これが原因だったのだ。
どうしよう。これじゃあ寒すぎて凍え死んでしまう。そこにふと、僕のベッドで気持ちよさそうに寝ているヘルコに気がついた。ああ、あのベッドの中暖かいだろうなあ。気持ちいいだろうなあ。僕はゆっくりとベッドへ近づいた。そうだ、これは僕のベッドなのだから入っても問題ないのでは? 危険な思考が僕を支配し始める。少しだけ、ヘルコはきっとまだまだ起きないから、一時間ぐらいは大丈夫だ。うん、きっと大丈夫なんだ。
普通に考えれば、床に布団を敷き、一人でその中に入ればいいのだが、この時の僕は目の前のオアシスしか頭に入ってこなかった。
そうと決まれば、善は急げだ。僕はまず、自分の入るスペースを作るためヘルコをゆっくりと慎重にベッドの端へと動かす事にした。ヘルコの体に優しく触れる。――柔らかい。とても柔らかく、軽い。こんな風に女の子の体を触ったのは生まれて初めての経験だったので驚いてしまった。女の子の体ってこんなに気持ちいいものなのか。と、そんな事を考えてる場合ではない。僕は正気に戻りヘルコをベッドの端へ追いやることに成功した。
ここまで来ればあとは、僕がこの空いたスペースに入って体を暖めるだけで任務完了だ。僕は「ふぅ」と一息付くが、一体誰からの任務なのだろうか。
「よしっ」
僕は気合を入れなおすと、素早く、そして音を立てずにベッドの中へと体を潜り込ませた。
「missioncomplete……!」
僕は小さく呟いた。我ながら気持ち悪い。
これで凍え死ぬ事はなくなった。だけど、どうしよう。さっきからドキドキが止まらない。これはちょっと、幸せすぎる状況だ。
ひとつのベッドに、それも一人用の決して大きくないベッドに、美少女とふたりで密着して寝ている。僕の体温が上がっていくのがわかった。これは、ベッドの中が暖かいからとか、そういう事ではない。このすぐ横にいる美少女が原因だ。肩と肩が軽く触れている。それだけで、僕と彼女は繋がっている、そんな気がした。そんな時。
「んぅー」
ヘルコが急に僕の方へと寝返りをしてきた。僕は仰向けで寝ていたが、ヘルコはそんな僕に覆いかぶさるような形で寝返ってきたのだ。ヘルコの柔らかい部分が僕に押し付けられている。それでもヘルコは起きる様子はなかった。




