デート
「じゃあ明日楽しみにしとくからねー」
結論から言うと、負けてしまった。僕が負けたのだ。いや、この場合勝負にならなかったと言ったほうが正しいだろう。それほどまでにヘルコが強かった。瞬殺である。始まった瞬間、ヘルコはいきなり僕の知らないコンボを繰り出し、それに対処しきれず、次から次へ技を決められ、あっという間に僕のキャラは、地面をベッドにすやすやと寝ていた。最中、ヘルコの表情は勝負が始まる前と変わらずニコニコと楽しげだった。それに対し僕はというと、一秒、二秒と時が流れると同時に、にこやかな表情から絶望の表情へと崩れ落ちていた。
そして、負けたということは、ヘルコのお願いをひとつ聞かなければならなくなったのだ。一体何をお願いされるのだろうか。死んでくれ、なんて言われたらどうしよう。ヘルコなら、死神のヘルコなら言いかねない。むしろ、それ以外に何のお願いがあるというのだ。死の恐怖に怯えている僕を見てヘルコはこう言った。
「明日デートするよ」
そうだよな、死神がお願いすると言ったらデートだよな。くそう、明日に備えて今日は早く寝るか……って、あれ?
「……デート?」
「そうだよ」
デート……だと? deadじゃなくて? ヘルコは何を言っているのだろう。もしかしてデートの意味を間違って覚えているんじゃないか? うん、きっとそうだ。そうじゃなければおかしい。だって僕だぜ? 霧夜悠介22歳、年齢=彼女いない歴のこの僕だぜ? そんな僕がデートに誘われるなんてしたら、宇宙の法則が乱れてしまう。
「あっ 別に儂が悠介くんとデートしたいとかじゃなくてー! ほらっ! あまりに悠介くんが可哀想だから夢みせてあげようかなーって! そんなんだから勘違いしないでよね?」
どうやら本当にデートするらしい。というか、なんでヘルコは顔を真っ赤にしているんだ。目線もどこを見ているのかわからないし、本当、よくわからない奴だ。
この場に居づらくなったのか、ヘルコは僕の部屋を飛び出し、一階のリビングへと駆けていった。そして、今に至る。
――それにしても
僕は、ゲームの電源を切り、先ほどの出来事を思い出していた。デートだなんて、もちろん僕はそんな経験はない。僕にとってこの言葉は非現実的すぎる。よって、まだヘルコの発言に混乱しているのだ。
デートとは一体なにか?
何をすればデートなのか?
何をすればいいのか?
ヘルコは何を求めているのか?
もうなにがなんだかわからなくなっていた。一つだけわかるとしたら、明日、僕はヘルコと生まれて初めてのデートをする、という事だけだ。
静まり返った部屋。そこには、カチャカチャとキーボードを叩く音と、少女の可愛らしい寝息だけが、それだけが、それ以外の音は遮断されているようだった。もちろん、その可愛らしい寝息を立てているのは、死神のヘルコさんだ。そしてキーボードを叩いているのは僕。ふと、時計を見てみると時刻は、一時三十分を指していた。そろそろ寝なくてはいけない時間だ。
そもそもなんで僕がこんな時間まで起きてパソコンとにらめっこしているのかというと、理由は単純で、明日のためである。いや、もう今日になってしまっているけど。
『デート 初めて』『デート 場所』『デート 服装』このようなワードをひたすらネット検索していた。だけど検索すればするほど、デートというものを知れば知るほど、よくわからなくなってしまった。結局僕は、何をし、何を与えればいいのか。何もわからないままパソコンの目の前で眠りについてしまった。




