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命のリサイクル

 もうそろそろバイトに行かなければいけない。だが一睡もしてないのに大丈夫なのか? いや、大丈夫なわけがない。僕は体が弱いから無理して行ったらどうなるかわからない。――そう自分に言い聞かせ、気づいたら携帯を取り出し、バイト先の店長に今日は休ませてくれと連絡していた。

 僕は昔からそうだった。少しでも辛いことがあると、そこから逃げ、自分に甘え、しょうもない屁理屈を並び立て、傷つかず生きてきた。今のもそうだ。何の抵抗もなく、休んでしまう。そんな僕を見透かしたように声が聞こえた。


「だから悠介くんはダメなんだよなー」


 死神さんだ。どうやら目覚めていたらしい。彼女は「ふぅぁー」っとあくびをしたかと思うと突然僕をハグしてきた。頭を僕の胸元に押し付け、彼女の両腕はしっかりと僕の体を包み込んでいた。

 頭の中が真っ白になる。寝ぼけているのか? だけど、もう少し、もう少しこのままでいたい。僕は何も言えずそう思った。その時、彼女の口が開く。


「この先もさーこうやって逃げて逃げて逃げ続けるんだよ悠介くんはさーというかいつまでアルバイトしてる気ぃ? まさかこれで十年二十年と生きていけると思ってるの? だとしたらそれは幻想だよ? 生きていけるわけないじゃん 楽したいならさー死ぬのが一番手っ取り早いしそれがキミに一番合ってるよ」


だから――と、彼女は僕を抱きしめた状態のまま、僕の顔を見上げ、真っ直ぐな目をし、とても優しい声でこう言った。


「儂のために死んでよ」


 思わず、「いいよ」と言ってしまいそうだった。優しい声。言ってる事はとんでもない事だが、僕はなぜだか彼女の事を愛おしく思ってしまった。つまり魅了、されてしまったのだ。このままだと本当に彼女のために死ぬ選択肢を選びかねない。そう思った僕は、彼女の肩を掴み、無理矢理引き離した。彼女に抱きしめられていると理性がどこかへ逝ってしまいそうだったのだ。

 そして僕はハッキリとこう言った。


「僕は死ねない。死にたいとも思わない」


「なんで?」


 そんな事聞かれても困る。死にたくない理由なんて、死にたくないからに決まっているじゃないか。当たり前だ、生き物ってのは死に恐怖するもの。それが常識だ。

 というか、そもそもの話なんで死神は僕を殺す必要があるんだ? 肝心な事をまだ聞いていなかった。


「それより教えてください。死神さんが人間を殺す理由ってなんですか?」


「あれ?まだ言ってなかったっけ? まぁ簡単に言えば『命のリサイクル』ってのが目的だね」


「命の……リサイクル?それって、どういう事ですか?」


「えっとね儂たち死神は今の悠介くんみたいに生きてるんだか死んでるんだかわけわかんねー人間の所へ行ってその無駄遣いしてる命を獲らせてもらうわけ それでその獲った命をこれから生まれてくる生命に分けてやってるんだよ 無駄に生き何も生み出さないような命をこうやって使うんだ 合理的でしょ? 儂のためってのは命を獲る毎に儂の死神界での評価が上がるんだよねー」


「……」


 何も言えなかった。普通、自分の事をこんな無駄な命だなんて言われて怒らない奴はいないだろう。だけど、僕は何も言い返せなかった。それは、その通りだと自分が一番よく分かっているからだ。毎日何も生み出さず、将来を捨て、その日暮らしで生きている。そんな命、生きてるなんて言わない。それはただ、息をして動いているモノだ。そんな命を再利用するなんてとっても合理的で素晴らしいじゃないか。だけど、僕は――


「ごめん死神さん、やっぱ僕は死ねないや」


「えー? じゃあ悠介くんはずっとこんな生活を送って無駄に生きていくの? いやこの場合生活じゃなくて死んだような活動で死活か」


「死活はもうおしまいだよ。」


「ん?」


「僕はこれから生きていくんだ」


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