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居候

 僕は毎朝、午前四時頃に起床する。それはなぜか。バイトがあるからだ。早朝のバイトなので余裕を持って起きなければいけない。このバイトを始めてから、極めて健康的な生活サイクルになっているのを実感している。昔の、というか、高校生の頃の僕は毎日深夜二時頃に寝ていたのに。人間、やれば変われるものだ。

 そんな早起き人間になった僕は今日もいつものように午前四時に目が覚め……いや、目が覚めたのではなく、ずっと起きていたのだ。すなわち一睡もしていない。僕は寝るのを諦め、その場に立ち上がる。僕の部屋にはベッドがある。いつもならもちろんそのベッドに寝るわけだが、今そのベッドの上にはとある美少女がすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

 彼女は、その肩のあたりまで伸ばしている綺麗な黒髪をぐしゃぐしゃにしながら、時々意味不明な寝言を発していた。こうやって見れば、普通の可愛い女の子にしか見えない。が、彼女は普通ではない。そう、今僕の部屋のベッドで寝ているのは、昨日出逢った死神さんだ。

 昨日の事を思い出す。




 彼女は、僕が死にたいと思うまで帰らないと言った。いくら帰れと言っても聞く耳を持たない様子だった。どうやら帰らないというのは冗談ではなく、本気の本気で言っているようだ。その後僕は、帰らせるという事をひとまず諦め、両親にどう言い訳するか必死になって考えていた。

 今まで彼女の一人も作れず、ずっと家にいた息子が、いきなりこんな可愛い子を連れ込んだと知ったら……しかも、その女の子は見た目中学生と知ったら……犯罪の匂いしかしないこの状況を、何と言って両親に説明すればいいのか。「この子本当は僕より年上なんだ!」こんな事を言ったところで、信じてくれるわけがない。「実は彼女死神なんだよ」これは完全に、頭がおかしくなったと思われる。僕が困り果て、悩み果てている姿をよそに、彼女は勝手に部屋にある僕のゲーム機にスイッチを入れ、RPGゲームを始めていた。

 死神ってゲームするんだ……


「悠介くんコレおもろいね」


 どうやら気に入ったようだ。彼女は目を輝かせ――いや、輝いていない。死んだ魚の目でゲームをやり続けた。見た目からは全く面白さを感じていないように見える。僕も傍から見ればこのような姿でゲームをしていたのだろうか。なんだか悲しくなってきた。

 それから彼女はひたすらRPGゲームをやり続け、気がついたら両親が帰ってくる時間になっていた。死神の集中力は恐ろしいもので、朝の九時頃から十八時頃まで休憩なしのゲーム三昧だ。僕はその姿を後ろからぼーっと眺めているだけだった。こんなちょっと廃人っぽくて、可愛い女の子が死神だなんて――この事実をまだ受け入れられない自分がいた。そんな事を考えていると玄関の開く音と共に、「ただいま」と言う母親の声が聞こえた。

 どうしよう、ついに帰ってきてしまった。なんて言おうか。この状況どう説明すればいいのか。僕の部屋にずっと彼女を隠しておこうか。ご飯を食べ終わってから紹介しようか。色々な考えが僕の頭の中をぐるぐるしている。――ふと、彼女の方を見てみると、そこには雑に放ったらかされているゲームのコントローラーがあった。

 彼女の姿がない。

 あれ? もしかして帰ったのか? と思ったその時、家の中に話し声が。僕の部屋は二階だが、話し声はどうやら一階から聞こえる。嫌な予感はしたが、恐る恐る声のする方へ向かうと、やはり嫌な予感は的中していた。僕の母と死神さんが楽しそうに、二人共笑顔で談笑していた。


「あの子にこんな可愛い彼女がねー」


「そんな可愛いなんて本当の事言われたら照れちゃいますぅ」


「「アハハハハ」」


 あの子あんな笑う子だっけ? いや、そんな事より僕と死神さんは付き合ってる事になってるのか? 正直なところ、嬉しいという感情が真っ先に僕の体を駆け巡っていた。だけど、それはすぐ偽りの言葉だと気づく。僕の家に住み着くために僕の彼女だという嘘をついているのだろう。僕は一人落ち込みながら「おかえり」といつものように母に言った。


「ちょっと悠介、この子あんたの彼女って本当なの?」


「ま、まあね」


 肯定した。


「すごいじゃない、こんな可愛い子どこで見つけたのよ! あ、ちょっと気になっていたんだけど、彼女何歳なの? 随分若く見えるけど」


「じゅ、十八歳だよ。去年高校卒業したんだ」


「そう、中学生ぐらいに見えたからちょっと心配しちゃった。」


 納得してしまった。こんなあっさりと。どうやら母から通報されるという最悪の事態は避けられたようだ。僕が安心していると彼女が、「あの……」と母に話しかけていた。


「これからしばらくお世話になりますっ」


「あー、もうずっとウチにいてくれていいのよ? なんだったらこの子の嫁になってみない?」


 母が笑いながら彼女に言った。嫁とか言っちゃって。彼女が死神と知ったらどう思うだろうな。というか、やっぱり僕の家に住み着くって話になっていたのか……

 それから間もなく、父も帰ってきた。どんな反応をするかと思えば「おお!ずっと居てくれていいからな!っていうか、居て!」とても喜んでいらっしゃった。

 その後、家族全員で食卓を囲み夕食の時間、もちろん死神さんも一緒だ。そこでの会話は、僕と彼女の馴れ初めや、いつ好きになったかなどの質問攻めにあったが、彼女が器用に、その場の思いつきで答えていった。初めて会ったのは、僕のバイト先のコンビニで、レジをしている僕に一目惚れとかなんとか言って。両親は、その言葉を信じたようで「お前コンビニでバイトしてて良かったなあ!」なんて言ってた。なんだかその場に居づらくなって僕は食事を終わらせた彼女を連れ、自分の部屋に逃げ込むように駆けていった。

 彼女は僕の部屋に入るやいなや、いきなりベッドへダイブした。


「疲れたーおやすー」


 それだけ言い残すと彼女は夢の世界へ飛び立ってしまった。「風呂入らないんだ……」小さく呟き、僕は一人、お風呂を済ませ、自分のベッドに寝れないので床に布団を敷き、そこで寝ることにした――のだが、寝れない。なぜか。興奮してだ。僕の部屋には、僕の横には、僕のベッドの上には、どっからどう見ても可愛い美少女が寝ているのだ。興奮して寝れるわけがない。

 そして――





 今に至る


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