偶然の再会⑨
「じゃ、私たちそろそろ帰るね、またねー」
どうやら特に用があったわけではなく、たまたま目に付いたから話しかけてくれたようだ。僕としてはもう少しアンナちゃんを見ていたかったが、立ち止まらせる理由も特に思いつかなかったので「またね」と言うしかなかった。あー、これでまた何年も会えなくなるのか。いや、もしかしたらもう会えなくなるのかも、同窓会などにも参加したがらない僕ならあり得ることだった。そんな事を考え、一人気分が下降していると、可愛らしい声が聞こえてきた。
「亜希、ごめんだけどちょっと先行っててくれる? 私お手洗い行ってくるからさ」
「ああ、うん、わかったー」
小走りでファミレスのトイレに向かうアンナちゃん。久しぶりに聞いたこの声、可愛らしく、愛らしい。
それはそうと、これはチャンスかもしれない。連絡先を聞き出すチャンス。僕の作戦はこうだ。数分後、アンナちゃんはトイレを済まして出てくる。当然帰ろうとするので出口へと向かう。出口まで行くには僕たちのいるテーブルの横を通り過ぎなければならない。僕の近くに来たら、精一杯のキメ顔でこう言うのだ。「待ってアンナちゃん! 久しぶりだね、その……ここで会えたのも何かの縁だし、よかったら連絡先交換しない?」するとアンナちゃんは二つ返事でこう答える。「うん! いいよ!」よし、完璧だ。この作戦で行こう。そうと決まれば得意の脳内練習だ。僕はそっと瞳を閉じイメージする。まず、アンナちゃんが僕に近づいてきて
「悠介くん……?」
そうそう、この可愛らしい声で……ってあれ? 突然耳に入ってきた囁くような声に驚き、脳内奥深くにダイブしていた意識を現実に戻し、パッと目を開ける。すると、僕のすぐ近くにアンナちゃんが恥ずかしそうに、もじもじしながら立っていた。ここで二つの疑問が発生した。一つ目は、トイレから出てくるのが早すぎるという所。アンナちゃんがここを離れてから一分も経っていないんじゃないか? トイレが満室だったのか? いや、それにしたって普通はトイレの前で待つのではないか? 二つ目の疑問は、何故アンナちゃんは僕の側で顔を赤らめながら立ち止まっているのかというところだ。わからない、わからないが、取り敢えずアンナちゃんを無視するわけにはいかない。
「なに……かな? アンナちゃん……」
あまりの緊張で見事な震え声になってしまった。我ながらかなり情けない。だけど、そんな僕の想いとは裏腹にアンナちゃんはキョロキョロしていた目線を僕の目に定め、嬉しそうにこんな事を言ってくれた。
「憶えてくれてたんだ……私の事……」
それはこっちのセリフだよと、心の中で僕は思った。




