死神
「どしたの?」
「死神ごっこはもうおしまい。早く自分の家に帰りなよ。ね?」
ちょっと冷たく言いすぎたか。家に入れといてこんな事言うなんて自分でもおかしいと思うが、このままだと逮捕される可能性があるのだ。どうか許して欲しい。
「ごっこじゃないよ? なんで信じてくれないの?」
「まだ言うか。じゃあ証拠見せてよ、死神っていう証拠をさ」
少し意地悪な事を言ってしまった。だが、ここで彼女はどんな行動をするのか、そこに興味があった。どんな事をして死神の証拠を僕に見せるのか。どんなでたらめな事をして誤魔化すのか。それとも何も出来ず、ただ黙るだけなのか。彼女の行動に興味が沸いた。けれど、彼女の行動は僕の予想をかすりもしなかった。
「しょうがないなあ」
言うと、彼女の目の前にいきなり、なんの脈絡もなく大鎌が現れた。それを彼女は当たり前に、さも当然のように片手で掴むと、僕の胸元めがけて刃を突き立てた。刃の先端が僕に触れている。ギリギリで彼女は止めたのだ。僕は声にもならない声を漏らしながら腰を抜かしてしまった。腰を抜かすなんてはじめての経験だ。ここで初めて僕は死の恐怖を実感した。
「これで信じてくれるかな?」
「……わ、わかった。わかりました。信じるから、その物騒なものを離してください」
信じるしかなかった。こんな禍々しい大鎌を、なにもない空間から出されたら誰だろうと信じるしかないだろう。彼女は言われたとおり僕から刃を離し、その大鎌を床に、乱暴に置いた。いや置いたというより握っていた手を離したと言った方がいいのかもしれない。僕の部屋に大鎌が、まるで読みかけのジャンプのように無造作に放置されている。シュールにもほどがあった。だけど、そんな事より……
彼女は死神。
嘘偽りのない本物の死神。
人間じゃ……ない
頭の中が混乱する。彼女が僕の家の前で僕を待ってたこともかなり混乱したが、その比じゃない。明らかに非現実的な事が僕の目の前で起こっている。可愛いとか呑気な感想してる場合じゃなかったのだ。そうだ、彼女の年齢。彼女は僕より年上だとか言っていたが、あれはたぶん嘘じゃないだろう。それも、下手したら何百歳という可能性も否定出来ない。彼女に直接聞けば分かることだが、そこは怖いので聞かないでおこう。僕より年上。それだけわかってればいい。
「えっと、あなたが死神なのはわかりました。だけど、なんで僕に死にたいなんて聞くんですか? 死神だったらその大鎌で何も言わずに殺せるんじゃ……」
自分でも怖いこと言ってるなと思う。これで彼女が「ああ!そういえばそうだね!」なんて言って、問答無用で僕を殺しにくるなんてのはない話ではない。そんな天然さを彼女は持ってる。これは直感だけれど。
「それがさー死神は死にたいって思ってる奴じゃないと殺せないんだよんねー」
「えっ、どういうことですか?」
「だからぁー」
彼女は床の大鎌を拾うと思ったら僕の胸元、心臓あたりに向かってさっきと同じように刃を突きたて……いや、さっきとは違う。寸止めなんてしていない。大鎌は僕の心臓を貫いていた。――が、痛みがない。出血もしていない。なにも感じない。胸元を見てみるが、やはり大鎌は僕の体を思い切り突き刺して背中まで貫通している。
「どういう事だ……?」
「この大鎌は生きたいって思う人間には干渉出来ないのだよ今の悠介くんみたいにねー」
「ちょっと待って! という事は僕が生きたいって思ってなかったら今殺されてたって事ですよね!?」
「いや悠介くんが死なないのはわかってたよ儂は死神だから見ただけでそいつが死にたいかー生きたいかーわかるからねーすごいでしょ?」
? 見ただけでわかる? じゃあなんでわざわざ僕の目の前に現れたんだ? 死神の世界というものが仮にあるとすれば、そこからは見てわからないのか? というか、そもそも死神は人間を殺して何の得になるんだろうか。さっき僕を殺すまで帰れないとか言ってたけど……
「あのー、すごいのはわかったんですが、いつまでここにいるのでしょうか?」
「悠介くんが死にたいって思うまで」
「そんな事思いませんよ?」
「じゃあ思うまで一緒にいる」
「え?」




