デート⑨
そういえば少し気になることがあった。それは、死神の食事についてだ。
ヘルコは僕の家で普通に、慣れ親しんだ食事のように、僕の母親の料理をおいしそうに食していた。そう、当たり前のように、だ。
果たして、この当たり前はヘルコにとって、本当に当たり前なのか。ヘルコは死神だ。人間とは生きる世界が違う。そんな異世界からきたヘルコが、こちらの世界の食べ物を食べていいものなのか? いや、それ以前に死神ってのは食事する必要があるのか? 少し、気になる。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「ん? なにかな」
僕のこと好き? じゃなくて。いかんな、ついつい聞きたくなってしまう。僕は周りに聞こえないよう、ヘルコに近づき小声で聞いた。
「死神も普段こういうもの食べてるの?」
「いや食べないよ。というか普通何も食べないよ」
「え? じゃあなんで、ヘルコは今まで普通に食事してたの?」
「だっておいしいんだもん」
だもんって言われたら仕方ない。つまりあれだ、生きていくためには必要ないが、我欲のために食べていると。某猫型ロボット的な。
「お待たせしました」
そんな事を話していると、店員さんが料理を運んできてくれた。僕がチーズハンバーグ、ヘルコは和風ハンバーグ、どちらもおいしそうだ。二人用のテーブルなので、ライスも入れればもう置き場所がなくなってしまう。
アツアツの鉄板の上にポテト、ブロッコリー、ニンジン、小さな容器に入ったソース、そして見るからに美味しそうなハンバーグ。僕みたいな現代人にとって、見慣れたファミレスの一品だけど、見てるだけでよだれが出てきそうだ。今、僕の目の前にいる人物からよだれを啜る音が聞こえた気がしたが、気にしないでおこう。
さぁ、いよいよこの一品が一番輝きを放つ時がやってきた。僕はおもむろに鉄板の上に置いてある小さな容器を手に取る。その中にはソースが入っている。それをゆっくりと、ハンバーグに満遍なく掛ける。そして掛けた瞬間。あの食欲を湧かせるジュージュー音、白煙が立ち上り、ハンバーグが姿を消す。それと同時に匂いが直に鼻に来る。ここだ。この瞬間こそ、こいつが一番輝く時だ。
少し経ち、白煙が消えるとハンバーグが再び姿を現した。一見普通のハンバーグ。だが、これはチーズハンバーグだ。一つ切ってしまえばその中から、とろりとアツアツのチーズが顔を出すだろう。
「今のスゴイ!」
ん? 何やらヘルコが目を輝かせて僕の方を見ている。それにスゴイって……今のソース掛けの事か? やたらハンバーグ推していたから、こういうのは知っていると思っていたけど違ったのか。
「儂もやってみるから見てて見てて!」
ヘルコはさっき僕がやったのと同じように、ゆっくり、慎重にソースを掛けていった。ジュージュー音と共に白煙が立ち上る。白煙がヘルコの表情を隠した。そして白煙が消え始め、隠れていた表情が露わになる。それはとても子供っぽい――見事なドヤ顔だった。