デート⑤
雲一つない晴天。心地いい風が僕の全てを包み込むようだ。気候、気温から見ればとても過ごしやすい環境だろう。そんな中、僕の体は不自然に熱くなっていた。熱でもあるのか? いや、違う。僕はこの感覚を、ここ最近何度も味わっている。
左手が、汗ばむ。ヘルコと繋いでるこの手が。
「儂みたいな美少女と手を繋げるなんて悠介くんラッキーだねぇ」
自分で美少女って言っちゃうんだ……だけど、それは否定出来ない事実なので文句は言えない。僕は今、誰もが羨む美少女とデートをしている。
それにしても、ヘルコは嫌じゃなかったのだろうか。普通に考えたら、寝てる隙にキスされた相手とデートなんか絶対に出来ないはずだ。デートどころか、目も合わせたくないだろう。だけどヘルコは、普通にデートし、僕に手繋ぎを強要した。もしかして死神にとってはキスなんてのは、それほど重要な事ではない? いや、しかし――
「おーい? 生きてますかー?」
「あ、ごめん……」
こんな事考えてたら駄目だ。とりあえず今は、デートを楽しもう。生まれて初めてのデートを。
「そうだ、お腹空きません? とりあえず、近くにファミレスあるからそこ行きましょう」
家を出たのが昼になる前だったので、そろそろご飯の時間だ。僕は繋いだ手をしっかり握り、ファミレスに向かって歩き出した。ヘルコは嬉しそうな顔をしながら、僕に付いてきてくれる。
段々、繋いだ手に違和感を感じなくなってきた。緊張がほぐれ、いつもの僕に戻った気がする。ヘルコとこうやって手を繋いでいたら、どこまでも歩いていける気がした。今の僕に目的地は必要ない。ただ、一緒に歩くだけで幸せだから。そんな事を思っていた。
そんな時――
「あれ、悠介じゃね?」
僕たちとすれ違った男三人の内一人が、そんな事を言った。僕の名前を知っている? 振り返ってみてみると、ガラの悪そうな、どう見ても育ちがいいようには見えない若者の姿があった。そいつらは、僕の知っている顔だ。嫌な思い出が急に溢れ出す。
アイツ等は、僕を虐めていた。『虐めてた』なんてのは言い過ぎかもしれないが、僕からしたらそう思えたのだ。僕はアイツ等を憎んでいる。未だに、寝るとき、急にアイツ等の事を思い出して一人でムカついてる事もある。いい思い出は覚えていなくても、嫌な思い出は鮮明に覚えている。
ヘルコが不思議そうな顔をしている中、僕はあの頃に戻ったかのように、動けず、固まってしまった。