デート④
あれから三時間が経っていた。
そう、僕がヘルコにキスをしてから三時間だ。あの後、僕は、あの感触が忘れられず、心ここにあらずという感じで、ただボーッと天井を眺めていた。
そして気になるのは、あの時のヘルコの反応だ。嫌がった様子――ではなかった。キスさせてと言ったら簡単にしてくれそうな物言い。僕はそれが気になって仕方なかった。
もしかして好かれている? この美少女に? 未だベッドで寝ているヘルコの方を見る。
もしかして、あの時ヘルコは寝ぼけていた? だから何が起きたのかよくわかっていなくてあんな回答を……目を覚ましたら僕がしたことを覚えていないかもしれない。うん、たぶんそうだ。この説が有力だ。
改めて思う。僕は何て事をしてしまったんだ。冷静になればなるほど自分のした事の愚かさを把握していく。罪悪感が、止まらなく僕の心の中を満たしていく。
そういえば、今日ヘルコとデートするんだったな。どんな顔してヘルコの隣を歩けばいいのか。何を思ってヘルコと一緒に過ごせばいいのか。何も知らないヘルコに僕は、合わせる顔がない。
「んぅー」
僕が一人でよくわからない葛藤をしていると、この事件の被害者、ヘルコが目を覚ました。
「ヘルコ、おはよう」
「ん おはよぅ」
朝の挨拶、ヘルコは普通に応じてくれた。やはり、あの事は覚えていないのだろう。
なんだろう、この感覚。まるで完全犯罪をしたような。僕の心から罪悪感が減っている? その代わりに、嫌な達成感がフツフツと湧いてきた。
目の前にいる美少女に僕は、キスをした。しかも、キスされた本人は寝ぼけていて、それを覚えていない。僕だけが知る事実。この気持ちは、なんだ? もっとヘルコに色々したい。誰にもバレずに。彼女にすら知られずに。彼女は、僕が支配している。僕だけに許される。
ああ、僕は変態なのかな。僕の中の罪悪感は、完全になくなっていた。
「あのさ、今日デートだけど、どこ行きます?」
「そんなのは悠介くんが決めるんだよ?」
「そうなんだ……じゃあ、適当にブラブラしますか」
「それはそうと悠介くんさ」
「?」
「外でさっきみたいに何も言わずキスとかしないでよ? 儂だって突然されたらビックリしちゃうからさ……それに恥ずかしいし……」
「えっと、今なんて?」
「だからー儂に了承もなしにいきなりキスすんなって事」
バレてる。完全にバレている。ヘルコは寝ぼけてなんていなかった。最初から最後まで全部知っていた。僕の顔は一気に青ざめる。後ろから拳銃を突きつけられる気分だ。息が、うまくできない。