2014年 尾道の戦力を占う
監督が交代するとキャンプの雰囲気も当然の事ながら変わってくるものであるが、それは尾道にとっても例外ではなかった。いつも通り竹鶴島で迎えた第一次キャンプであるが、その雰囲気の違いを見るだけでも新指揮官がチームに求めるものが何であるかを明確に感じ取る事が出来るほどであった。
「去年までとは全然違いますね。ちょっと経験にないぐらい疲れてます」
練習終了後のインタビューにて、深田光平がこのように語った。深田だけではない。どの選手も練習が終わると息も絶え絶えとなっているほどのトレーニングが連日課されているのだ。「今まで尾道は一年を安定して戦い抜いた事がない。それを克服するためにも今まで以上に走ってもらうつもり」という正岡監督の信念が言葉だけではないと、こういった点からも読み取れる。
もちろんフィジカルトレーニングばかりがキャンプではない。練習終了後にはこれまた連日のようにミーティングが開催され、正岡監督の目指すサッカーの方針を選手たちの頭に叩き込んでいる。こうして肉体だけでなく頭脳も酷使しているキャンプだが、それでいてなお選手たちの表情は一様に明るいのもまた特徴である。「監督の目指す方針は明確ですから、そこにどれだけ近づけるかが大事」と橋本俊二が語ったのが象徴的である。
では、正岡監督の目指す方針とはどこにあるか。それはまず第一に前線からの追い込みをそれまで以上に重視するようになったという点である。それだけに全てのポジションにおいてアグレッシブに動ける選手をスタメンに抜擢される確率が上昇したと言える。
また、フォーメーションについてもそれまでとは異なる動きが見られる。水沢監督は基本的にバランスのとれた4-4-2を愛用していた。正岡監督は練習の中で3バックを採用するなど多彩な方向から実験を繰り返しているが、その中で一番多く試されているのはいわゆる4-2-3-1のフォーメーションである。そこで、今回はこのフォーメーションでシーズンに突入すると仮定した上でどのような選手が使われるかを占っていきたい。
まずはGKについて。昨シーズンは宇佐野がほとんどの試合に出場した。二番手としては松井が多くベンチに入り3試合に出場。ベテランの玄馬はまったく出番がなくなりシーズン途中で移籍、そのまま退団となったがそれでも問題ない程度には層が厚くなったと言えるだろう。
宇佐野の特徴は若さに任せた積極的なセービングと、それを支える驚異的な反射神経である。アウェー岡山戦においてモンテーロ退場以降、怒涛の猛攻に晒されながらもファインセーブを連発してスコアレスドローを勝ち取った姿などはまさに守護神と呼ぶにふさわしい大活躍であった。
しかし乗っている時は驚異的でも気分がいまひとつ乗らない時となると急にしゅんとしてしまうのは悪い癖である。また、本来キャッチしてしかるべきシュートをファンブルしてしまい相手に詰められるなど軽率なプレーが時折顔をのぞかせるあたりもまだまだ未熟。確かに素質はあって大いに成長している選手ではあるが無条件にポジションが与えられるレベルには到達していない。
そこで獲得したのが蔵侍郎である。蔵は宇佐野とは対照的なプレースタイルを持つGKで、派手なセービングは多くないがどっしりと安定した構えからミスは少ない。また若いDFが口々に「ジローさんは本当に視野が広くてフィールド全体が見えている。指示が的確なので守りやすい」と話すなど、豊富な経験に裏打ちされたコーチングも武器となる。もちろん松井も成長中。例年以上に白熱したGK争いが見られるだろう。
センターバックは、その圧倒的なフィジカルでポジションを不動のものとしていたモンテーロが移籍した。また、ベテランの港も昨年は怪我が相次いだことで試合出場が減り、衰えを実感させるシーズンとなってしまった。その港滋光からディフェンス陣のリーダーを禅譲された感のある橋本俊二がセンターバックの中心となる事は間違いないであろう。
橋本はスピードとテクニックに優れた選手であり、正岡監督の目指すサッカーに一番近いタイプである。「今シーズンは全試合出場を目指す」と本人も意気盛ん。その橋本と組む選手で評価急上昇中なのがルーキーの布施健吾である。身長はそれほど高くないがビルドアップされた肉体は競り合いにも屈しない力強さを誇る。スピードもあるためサイドバックの起用も考えられるが、今のところはセンターバック候補としてかなりのアピールを続けている。
2年目の仲真勝大も面白い。昨年は数試合に出場したのみに終わったが度胸とガッツは既に一級品。布施と並んでグラウンドでもっとも声を出している選手でもある。読みの鋭い鈴木美春やロングフィードが武器の朴康信も虎視眈々とポジションを狙う。
サイドバックは、まず左に関しては今年もマルコス・イデで何の問題もないだろう。強引なまでのドリブル突破で幾度となくチャンスを演出した男は今年新たに守るべきものが出来た。オフに日本人の愛美さんと結婚したのだ。愛する新妻のためにもJ1昇格を叶えたい。一方で右サイドは昨年固定できず、15試合と半分に満たないながらも一番起用回数が多かった小原伸平は退団。このポジションこそが尾道最大の懸案と言える。
そこで結木千裕の獲得という手を打った。スピードとテクニックは折り紙付きの選手で、正岡監督もレギュラー候補一番手として大いに期待している。まだ弱冠20歳という若さも魅力。対抗するのは深田か。小気味よいドリブル突破が武器だが左右器用にこなす技術ゆえに便利屋的起用がなされる嫌いもあった。今シーズンは右一本で勝負。また、布施や鈴木もサイドバックをこなすので場合によっては彼らの出番もありそうだ。
ボランチに関しては背番号10を与えられた亀井智広と、途中からレギュラーを外されたものの持ち前のタフネスで終盤には再びスタメンに返り咲いた山田哲三の二人がやはり今年も有力候補である事は間違いない。その対抗馬は鈴木か岡慎一郎ぐらいしか見当たらず、ルーキーの堀尾大将もまだまだ素材でありやや弱い印象を受ける。しかし正岡監督は周到にも隠し球を用意していた。
キャンプ地を訪れたサポーターは不思議な人物がいるとたちどころに気づくはずだ。その男は身長がおそらく190cm前後あり、周りと比較しても突出している。ナチュラルな茶髪に彫りの深い顔は日本人とはまるで異なっている。そして彼は様々なポジションで起用されているが、その中でも最も多く起用されているのがボランチの位置である。
彼の名はイアン・グリーン。尾道の入団テストを受けているオーストラリア人である。年齢は近いうちに27歳になるという事である。このグリーンに対する正岡監督の評価は「今いる選手にないものを持っている」と上々で、近いうちに正式な入団が発表されるだろう。場合によっては放り込み要員としても使えそうだ。
攻撃的MFはそれまでと様相を変えている。まずはサイドハーフから見ていきたい。これまでで多く起用されているのは右が竹田大和、左が御野輝という布陣である。切れ味鋭いドリブルが持ち味の御野は言うまでもないが、2年目の竹田は抜擢と言えるだろう。
その身体能力の高さに疑いを持つ者はいなかった竹田であるが、技術となるとまったく不安定なものであり、それゆえに出番が限られており、サイドバックで起用されるなどした。これについて「今までにやった事のないポジションだったので最初は正直抵抗もありましたけど、ディフェンダーの考えも分かったしいい経験でした」と語る。しかしあくまでも狙うは前線のポジション確保。肝心のテクニックは昨年と比較してもかなり上達しており、練習熱心な性格がうかがえる。2009年以来の復帰となる川崎圭二は抜群のテクニックでポジションを狙い、身体能力の高い茅野優真もそろそろ勝負といきたいところ。
中央には桂城矢太郎が君臨する。昨年はパスを出すだけでなく自ら積極的なドリブル突破を披露してチャンスを切り開くアクティブな司令塔として活躍したが、その役割は今シーズンも変わりそうにない。また、怪我のため一度は退団が発表されたもののその後再契約となった谷本将も「今年こそは」と燃えている。そのセンスは間違いないだけに昨年の二の舞にならぬようより慎重な体調管理が重要となるだろう。
そしてワントップ。昨年のチーム得点王であった野口拓斗は和歌山へ移籍という現状、一体だれがこのポジションに座るのかまったく読めない。まず候補として浮上するのが昨年15ゴールのベテラン荒川秀吉であろう。その高い得点感覚と経験に裏打ちされた駆け引きのうまさは間違いなく武器となる。ただ正岡監督はスーパーサブとして使いたい意向があるとされている。
ルーキーの河口安世も面白い。いきなり背番号11を与えられた逸材は高身長であるが、高さとパワーで空中を制圧した野口とは異なり足元の技術に秀でたタイプである。ポストプレーは巧みで、大学時代は正岡監督の下でプレー経験があるのもプラスとなるだろう。案外彼がFWの一番手と言えるかも知れない。
他には身体能力とガッツに定評のある芳松昇治や大学ナンバーワンストライカーと呼ばれた事もある森本剛もポジションを奪えるだけの力がある。特に芳松はチームのために走り回る事を厭わない、正岡監督が好みそうなタイプだけにチャンスは多そうだ。その他には竹田やグリーンの起用もありそう。
総じて言うと、全体的な選手層が地味ながらも例年になく厚くなったのが今シーズンの尾道の特徴であると言える。この戦力を新指揮官はどのように使いこなすか。「目標は自動昇格」とは正岡監督のみならずあらゆる選手が口を揃えるところであるが、それもまったくの夢物語ではない。ましてや今シーズンは昨年のG大阪や神戸のようにやっかいな降格クラブも少なく、これもまた尾道など大きなチャンスとなるであろう。正岡監督は初年度にしていきなり勝負の年となる。
100文字コラム
チーム始動初日、クラブハウス前に目出し帽の男が出没。すわ強盗かと慌てさせたが正体は仲真。沖縄出身で「広島すら寒い」との事だが「全身黒だと推理漫画の犯人にしか見えないと言われた。今後はしない」と小反省。




