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幻のストライカーX爆誕(仮題)  作者: 沼田政信
2013 時間は再び動き出す
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more aggressive 2

「さあ、行きましょうテルさん!」

「おう、目にもの見せてやろうぜ」


 この時期にしては比較的暖かいとは言っても山中という地理的条件もあり長袖必須な備後運動公園にキックオフを告げるホイッスルが吹き鳴らされたのは午後12時32分の事であった。先行の尾道は野口から御野、桂城、亀井と滑らかにパスを繋いでいく。アウェーとなる札幌の選手たちが繰り出す積極的なプレッシャーをかいくぐったボール回しは「さて、今日はどのように攻めようか」と値踏みでもしているかのようだ。


「やっぱり向こうもかなりアグレッシブに来ていますね」

「そりゃあ敵も必死よ。俺たちと同じように、負けたら終わりだからな」

「そうですねテツさん。さて、じゃあ俺たちもまずは、こっちから行こうかな! ヤマトさん!」


 センターライン付近でボールを持っていた亀井は右サイドへ鋭いパスを放った。それをトラップしたのが右サイドバックの竹田である。大卒1年目、本来はFWの選手だがその瞬足をバイタリティを買われてサイドバックで使うと意外にも活躍。本人も「ずっと前目のポジションしかした事がなかった。初めてのポジション」と言うように動き自体はいかにも急造だが、とにかく前へ進もうとする迫力は屈指である。チームに必要だった勢いを呼び込む選手がこの竹田なのだ。事実、竹田をサイドバックで使った4試合、すべて尾道の勝利に終わっている。


「へへっ、そんなディフェンスなら楽に抜けるぜ!」


 大急ぎでマークに向かった相手ディフェンダーをスピードで振り切り、あっという間にライン際まで到達した。ペナルティーエリアの中には野口がいるがマーカー2人をどうにか外そうと悪戦苦闘している。ならばとばかりに、竹田が選択したのはややマイナス方向に蹴り出したグラウンダーのクロスであった。ファーサイドの野口とはまったく離れた位置のボールに飛び込んできたのは桂城だった。右足を軽く振り上げてボールの一点を捉えたシュートは、しかし相手ディフェンス決死のスライディングに阻まれてゴールラインの彼方へと消えていった。スタジアムからはため息が漏れた。


「よっし、とりあえずコーナーゲット。頼みますよヤタローさん」

「おう。しかしいいなあ、今日は。こんなに観客も入ってくれてるし、一発お見舞いしてやらないとなあ

「そうっすね。絶対に勝ちましょうね」


 そもそも尾道市自体がそこまで大きな自治体ではない上にスタジアムは辺鄙な山中に建っている関係もあって、普段の観客動員数はJ2で比較しても決して多いとは言えない尾道であるが昇格の可能性がある今日に限っては話は別である。360度を見回して、どこにも人がいる。一万人を超えていても不思議ではないだろう。だから攻め込んだ際の歓声も今までより迫力がある。それが選手には心地良いのだ。


 このコーナーキックはニアポストの野口に合わせようとしたもののクリアされたが、その後もアグレッシブな攻撃を続けて観客を大いに沸かせた。そう言う意味では尾道優勢のいい流れであった。ただ一つ、前半の半分が過ぎたというのにもっとも必要なもの、ゴールが未だに決まらないことを除けば。


「ああ、惜しい! でもここまでずっといい流れで来てるし、このままのペースで行ければ」

「しかし好調なだけに不気味でもあるな」


 ベンチでは控えの選手たちがフィールド上の一挙手一頭足に盛り上がったり頭を抱えてりしていたがさすがにベテランの秀吉は冷静であった。


「どういう事ですヒデさん」

「決められる時にしっかり決めないと、流れなんてあっという間に変わってしまうものだし、不意の事故だって有り得る。クレーベルだな。いい時はもっと遊ぶようなプレーをするだろ?」

「ええ、練習中は俺も全然読めない攻めをしてきますし」

「気負い過ぎかな。今日はそうじゃない」


 仲真は秀吉の指摘を頭の中にセーブしておきながらクレーベルのプレーを見たが、なるほど確かに普段と比べてドリブルやパスなど一つ一つのプレーが直線的になっているように感じられた。確かに試合のムードは極めて熱い。肉体的なぶつかり合いも激しく、もう30年前にもなるがまさしく格闘技さながらのバトルがフィールドの各地で繰り広げられている。


「しかし流れのままってのは危険だからな。何が起こるか分からんよ」

「でもそこはシゲさんもいますし、大丈夫じゃないですかね」


 今、ボールは尾道の最終ラインとボランチの選手たちによって回されている。放っておけば無限大までヒートアップしかねない試合を意図的に冷ますような慎重さである。亀井にパスをしたが相手の猛烈なチェイスにあわやボールを奪われそうになる程であったが、亀井がうまく体を入れて身を翻したのでそれは避けられた。こうして前半30分、尾道に決定機が訪れた。亀井が左サイドへ蹴り込んだロングボールがオーバーラップしていたマルコスに渡ったのだ。この急襲にディフェンスライン構築がやや遅れたのを見逃すはずもなく、トラップがてら前に進むと素早く低い弾道のクロスを上げた。


「よし、チャンス!」

「行けタクト!」


 ニアポストに走り込む野口のマーカーはわずか一人。競り合いを制したヘディングはGKが必死に伸ばした右腕の横をすり抜け、しかしネットを揺らすには至らなかった。白いポストは無情にもボールを弾き返し、相手ディフェンダーのクリアによってゴールラインの彼方へと消えたのだ。


「うああ入らないのかよ! 完全に一点ものだったのに」

「ぐぬぬ、しかしまだコーナーだ。今のうちに何とかゴールを」


 しかしまたも無情が尾道を襲った。コーナーキックのクリアボールから縦へ一本のパスが入り、それを受けた相手FWが港を突破して宇佐野と1対1になってしまったのだ。決死の覚悟で前進した宇佐野をあざ笑うかのようにボールは横へスライドさせ、そこに走り込んでいた相手FWは難なくゴールネットを揺らした。ずっと攻めていたのは尾道だと言うのにゴールはなく、逆に今のが1本目のシュートだった相手は、それが先制のゴールとなったのだ。


「やはり厳しいな、サッカーって奴は。しかし決まったものは仕方ないんだし、切り替えていけよ!」

「そうだ! まだ前半も終わってないんだ! これからこれから!!」

「ガンガン行こうぜ! こうなったらゴールしかないんだから!!」


 カウンター一閃で先制された瞬間、スタジアム全体を失望のため息が覆い、それはベンチも同様であった。しかししょげてばかりはいられない。秀吉はこういう時だからこそ、率先して声を張り上げ、芳松や茅野もそれに従った。しかし情勢はいかんともし難く、相手はこの先制ゴールで明らかに勢いづいていたし、尾道は守勢の場面が増えた。しかし港を中心に組織的に粘り、追加点を奪われるという最悪の展開だけはどうにか避けられそうだった前半終了間際、さらなる打撃が尾道を襲った。


「よっしゃシゲさんナイスクリア! ……あれ、ど、どうしたんです、シゲさん!?」

「ぐうっ……」


 右サイドから放たれたクロスを頭で弾き返した港であったが、FWと競り合いつつの着地の際に崩れ落ち、しかもその痛がり方は尋常ではなかった。今シーズン、港は右足首を痛めるなど怪我の多いシーズンとなった。秋にはその傷も癒えたと思われていたが、最悪の時期に再発してしまったのだ。結局、港は自ら手でバツ印を作った。尾道は早くも交代カードを一枚切らざるを得なくなった。


「アップも出来てないよな。まさに緊急事態だが、頼むぞ仲真!」

「ふふふっ、とんでもない出番が来ちゃいましたね!」

「しっかりやれよ! 今は前半41分だし、追加含めて5分ってところだろうが、とにかく集中で」

「任せてください! まさか俺がこんな美味しい場面で試合に出られるなんてついてるぜ。全力でぶつかってやりますよ!」


 水沢監督としては間違いなく計算が狂った末の交代であり、動揺しないはずがなかったがそれを押し隠して代わりのセンターバックである仲真に声をかけたが、まったく物怖じしない、むしろ笑ってさえいる仲真の肝の太さにむしろ励まされるようであった。そしてその言葉通り、仲真は積極的なプレーを披露した。結局0対1で前半戦を終えた。


「前半終えて0対1。しかしこの試合は勝つしかない。勝つには攻めるしかない。後半からは荒川を出す。1点では足りない。最低2点だ。やってくれるな」


 ハーフタイムのロッカールームにおいて、水沢監督の口調はあくまでも冷静さをたたえていた。はっきり言って水沢監督にとってもこれが狙い通りの展開とは言えない、むしろ誤算に次ぐ誤算で激昂して叫んでも誰も不思議に思わない流れであった。しかし最後まで勝利を狙っているのはいつになく早い交代からも明らかだ。指名を受けた秀吉も「もちろんです。俺はやるぞ!」と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべてそれに従った。


「生き残るには勝利以外ない。情熱的に戦え! モア・アグレッシブだ!!」

「おう!」


 監督の激もいつになく熱く、それに呼応する選手たちも圧倒的に情熱的だ。後半はクレーベルと交代でピッチに送り出された秀吉はもちろん最前線に位置しているのだが、御野が中盤の位置に下がったのでフォーメーション自体は前半と変わらない。


「いい風が吹いているな。肌に刺してビリビリするのが心地良いだろうタクト」

「言われてみるとそうですね。重く感じるよりもそっちのほうがずっといい」

「45分だ。命を賭けようぜ」

「おう!」


 センターサークル付近で今まさに最後の戦いに赴こうとする男二人が唇を止めた瞬間、後半開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。相手は自陣でパスを回すが秀吉たちは監督の言う通りアグレッシブに奪おうとチェイスをかける。しかし相手は攻めるでもなく守るでもなく、パス回しを繰り返している。やはり相手にもプレッシャーはある、人の心があるがゆえの迷いだってそこには漂っている。尾道はもう勝つしかないのだが向こうは引き分けでも滑り込みセーフとなるのだから、選択肢が多い分、思考に余計なノイズがかかりやすいのだ。


 後半もそろそろ10分という頃合、相手のスローインから始まるパスを朴がインターセプトした。この瞬間、一気に尾道オフェンスのギアが全開となる。朴は自慢のロングフィードで即座に相手陣内へとボールを運ぶ。低く鋭いボールを胸でトラップした桂城は素早く反転して、左サイドのマルコスへパスを送った。


 怒涛のようなドリブルで一瞬のスペースを確保するとすかさずペナルティーエリア中央付近でディフェンダーとポジションの主導権争いを繰り返す野口の姿を確認した。


「上げるべきか。しかし相手のDFもきついしGKだっている。かくなる上は」


 心の中、一瞬で思考をまとめたマルコスはややマイナス方向に低いクロスを上げた。かなり鋭いクロスだが野口のいるポジションとはややずれている。それも当然、マルコスの狙いは野口ではなくその奥から猛烈な勢いで侵入する御野だったからだ。


「追いつくぞ!」


 クロスをトラップする暇も惜しいとばかりに左足を振り込んだ御野のポジションは完全フリー。強烈なシュートはしかしGKの守備範囲内であった。伸ばした右腕の拳は確かにボールを捉え、前方へと弾き出した。転々とするボールに、白いユニフォームから突き出た足が伸びる。しかし誰よりも速くボールにたどり着いたのは赤と緑のユニフォームを身に纏う背番号9の男であった。


 熱気が延々と増す試合の中、ここから先のシーンはもはや言葉もいらないとばかりの静かさであった。小さく振り抜かれた右足の運動エネルギーによって動き出したボールは、真っ直ぐネットを突き刺した。後半10分、尾道は同点に追いついた。

100文字コラム


途中加入のクレーベルはバイーア出身なのでカポエイラを習熟している。鋭いキックの源はそこかと考えた朴が教えを請うたところ「君の国にはテコンドーがあるだろう」と躱された。なお朴はテコンドーの経験一切なし。

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