more aggressive 1
秋の終わりも間近の11月24日に2013年J2の最終節が行われる。案の定とでも言うべきか、関西を本拠地に置き開幕前から昇格の大本命と目されていた2つのクラブがまったく順当にJ1昇格を決めた今シーズンであったが、むしろ後1つの枠をめぐる戦いにその熱気は集中していた。それにしてもJ1も降格3クラブは早々と決定、優勝もほぼ決定的な差がついているので必然的にJ2の残り1枠という部分がクローズアップされるものではあるのだが。
3位から6位までの4クラブが小さなトーナメントを戦って昇格を争うプレーオフ制は昨年から導入されたが、昨年はいきなりシーズン6位の大分が昇格を決めて、ある意味目論見通りの展開となったのは記憶に新しいところである。その大分がJ1で苦戦して残念ながらすでに降格まで決まっているのは、根本的にそれまでも3位昇格のクラブが苦しんできた過去を鑑みると妥当と言わざるを得ない部分もあるのだが、とにかく財政の問題もあって当分は無理だと思われていた大分でさえJ1の桧舞台に復帰できたのだから、我こそはと目をぎらつかせるJ2クラブも増えるというものである。
その中で尾道。水沢監督5年目となる今シーズンは、その水沢監督自らが過去最高と断言する布陣で臨んだ。GKにはユース出身で積極果敢なプレースタイルが雄々しい宇佐野が元日本代表のベテラン玄馬を押しのけてレギュラーに定着。センターバックは巨漢モンテーロに経験豊富な港、バランス感覚の良い橋本、フィジカルとロングキックに定評がある朴と卒のないメンバーがポジションを争った。
サイドバックは、左はパワーのあるマルコスで確定したが右は大いに混乱していた。当初は深田や小林といったサイド専任の選手が置かれていたがやや存在感がなく、怪我から復帰の小原も基礎能力の高さは見せたものの本職は左であり定着したとは言い難かった。シーズン終盤には茅野や竹田を抜擢するなど、今季の尾道の泣き所となった印象は否めない。
中盤の底には相変わらずタフな山田に加えて亀井が急成長。頭脳的なプレーが特徴で、パスコースを読んでのカットなど相手から嫌がられる選手に成長しつつある。途中加入のクレーベルは「なんでそこが見えるんだ」とため息をつきたくなるほどの視野の広さから繰り出されるパスが攻撃においては魅力的だったが守備は穴が大きく、攻守のバランスが崩れかけた時期もあった。結局クレーベルは一列前に置いたら安定した。新人の岡は穴の小さい選手で出場機会を得た。
水沢監督が「今季の補強の目玉」と言ったのが、金田の抜けた司令塔のポジションを埋めるどころか大いに盛り上げた桂城である。野心的で常にぎらついた目をしているが頭の中はあくまでクール。時に強引なまでのドリブル突破からのシュートでゴールをもぎ取ったかと思えば一歩引いて味方を活かすプレーに走ったり、その時その時の状況判断の的確さが光った。
御野はかねてから得意だったドリブルに磨きがかかっただけでなく、自他共に認める課題であったシュート精度がシーズン途中から大いに改善してきたので相手にとってはかなり怖い選手へと成長を遂げてきた。ついには最前線での起用も見られるようになったが、それに応えて第39節の群馬戦ではあわやハットトリックの活躍を見せるなど今までにない面を見せるようになってきた。
そしてFWは、ユース出身の野口が成長した。昨年は基礎体力の違いもありプロのレベルに戸惑う部分もあったが見事に克服して本来のフィジカルと得点感覚を発揮した。最終節を残してチーム得点王を独走中である。その野口を支えるのが荒川秀吉である。彼もまた得点感覚に秀でた生粋のストライカーであるがそこはさすがのベテラン、楔となって野口や桂城にパスを送るなど見た目以上に技術の引き出しが多いと証明してみせた。
その他控えにはアグレッシブな茅野や芳松、あらゆる意味で荒削りだがスピードはワールドクラスの竹田、驚異的な高さを誇るが怪我もありシーズン途中で引退したシュヴァルツなど強力な選手が多く、得点には困らないシーズンとなった。
そんな尾道は現在、最後の1試合を残してリーグ7位というまったくもって微妙な位置にいる。このままではプレーオフにすら進出できずにシーズン終了となるのは言うまでもない。しかしこの試合に勝てば逆にプレーオフ進出に近づく。なぜなら、今日の試合の対戦相手はプレーオフ圏内につけているものの尾道都の勝ち点差は2。つまり、勝てばその順位を逆転できるのだ。
「今シーズンだけではない。私が尾道の監督に就任してからの5年間、その全てを賭ける試合になる」
試合前日、水沢監督はインタビューの最後に決意を込めた声でこのように語った。負けるのはもっての外として、引き分けでもプレーオフ進出の望みは絶たれるという厳しい状況。しかし尾道はここまで5連勝中、引き分けを含めると9試合連続で負けはないという好調さ。シーズン途中には二桁順位まで落ちて「もはや尾道は脱落かな」と言われもした。しかしここまでどうにか立て直せたのは5年の時をかけて築き上げてきた水沢サッカーの底力であり、水沢監督を慕う選手たちの底力であると言える。
J2最終節は各地で12時30分、全試合が一斉にキックオフとなる。尾道にとってはまさに運命を左右する、勝つしか道のないクライマックスの試合に臨むスタメンは以下の通りとなった。
スタメン
GK 20 宇佐野竜
DF 16 竹田大和
DF 22 朴康信
DF 5 港滋光
DF 2 マルコス・イデ
MF 17 亀井智広
MF 6 山田哲三
MF 7 桂城矢太郎
MF 28 クレーベル
FW 8 御野輝
FW 18 野口拓斗
ベンチ
GK 23 松井正武
DF 15 小原伸平
DF 21 仲真勝大
MF 13 岡慎一郎
MF 19 茅野優真
FW 9 荒川秀吉
FW 27 芳松昇治
まず気になるのはセンターバックの二人である。これは橋本は右太腿の故障によってここ2試合は欠場となっているのに加えて、モンテーロがカードの累積で出場停止となったのが原因である。しかし逆に考えると今シーズンは怪我もあって若くスピードも豊富な橋本に押され気味のシーズンとなってしまった港、覚悟を持って加入したものの控えにとどまる試合の多かった朴にとっては一世一代の大チャンスと言える。激情的な朴は言うまでもなく、港も普段より口数が少ない様子からはこの試合にかける並々ならぬ意気込みが伺えるようである。
それ以外のメンバーはシーズン終盤の連勝を支えた顔ぶれ。JFL以前を知る唯一の現役選手、クレーベルの加入によって一時的にスタメンを奪われながらもしぶとく復活してきた山田はお馴染みの柔和な笑みの中に野獣の眼光を秘めてクラブ最大の舞台に立つ。一時期は「戦犯」と名指しされながらも正しいポジションを得たクレーベルも俳優かくやの美形から「必ず勝たなければならない。これはプライドの問題だ」と力強い言葉を吐き出す。
控えには茅野、荒川、芳松という研ぎ澄まされた三本の矢が今か今かと出番を伺っている。その様子はさながら今にも噴出せんと煮えたぎるマグマ。センターバックの控えとして入っているルーキーの仲真もなかなか面白い選手で、まるでベテランのように堂々とした落ち着きっぷりは将来のディフェンスリーダーとしての資質を感じさせる。
戦いの時は今。見知らぬ扉が開く瞬間、そこには新たな世界が広がっており、その光景がどのようなものかは今は誰も知らない。
100文字コラム
尾道の練習場とクラブハウスの完成を記念する式典が先日執り行われた。最長在籍選手の山田は「これで練習場を転々とする必要がなくなったと思うと感慨深い。設備は完璧。後は選手の仕事」と悲願の昇格達成を誓った。




