第一次キャンプレポート 前半
「ハッシーもっとハードに寄せろ!」
「パスならパス突破なら突破でもっと判断を素早く!」
「ナイスボール! コーヘー!」
竹鶴島は瀬戸内海の中央に浮かぶ小島である。瀬戸内海らしい温暖な気候に加えて尾道港から船で10分ほどという交通の利便性もあり、今年もまたこの小島でJ2ジェミルダート尾道の第一次キャンプが開催されている。開始は昨日からだったが、本格的な練習は今日21日からスタートとなっている。
水沢威志監督が尾道に就任してから5年、冒頭で聞かれたような選手が発する声は年々その音量を増している。「ウチは毎年所属選手の入れ替わりがあるクラブ。早い段階でコミュニケーションを構築するのは大事」と指揮官は語る。また、試合中にネガティブな空気がフィールドを覆った時、選手たちの気持ちを盛り上げるのも声が持つ力である。ましてや今年はJ1でも実績のあるG大阪の降格などで「例年以上に厳しいシーズンとなるだろう」と見られているので、その重要性はますます高まってくる。
さて、肝心の新加入選手でひときわ目を引いたのがFWの竹田大和である。高校時代、「陸上部に頼まれて」出場した競技会で100m10秒89という快記録が計測された事からも分かるように優れたフィジカルの持ち主である。新任の神田フィジカルコーチが組んだ体力テストにおいてもルーキー内のみならずチーム全体においてトップに立つという快挙を成し遂げた。
その竹田がポジションを窺うFWには昨シーズンは途中出場がメインでありながら10ゴールと抜群の得点感覚を見せた荒川、その荒川に憧れるガッツマンの芳松、期限付き移籍から復帰の春野、ユース出身の野口といったライバルがいる。この中で軸になりそうなのは、やはり実績十分の荒川であろう。
エースストライカーを示す背番号9を今年から背負う事について、「やはり特別な意識はある。つまりゴールを期待されているという事なのだから。去年と一緒ではまだ足りないくらい。チームの中心に立って引っ張っていく選手になるという自覚がないと」と覚悟十分。体力テストでもなかなかの数値を見せており、今シーズンはスタメン起用が増えるだろう。
移籍加入の芳松もなかなか面白い。彼もまた前所属クラブではスーパーサブメインの起用が多かったが、それは彼のあまりに高いバイタリティを活かすための手段であり、体力的にはむしろチームの中でも屈指の高さを持っていた。「まだ荒削りだがハートの強さと身体能力の高さはかなりのもの。打てば響くと言うのか、鍛えれば鍛えるだけ強くなるタイプ」とは中島コーチの評。
しかし昨シーズンのチーム得点王であった有川は横浜に復帰、ヴィトルは中東に引き抜かれてしまった。この事実を鑑みるに得点力に関してはダウンと言わざるを得ないが、荒川を中心に効果的なフォーメーションを確立できれば面白いメンバーが揃っているだけにゴール量産も期待できるだろう。また、「(第二次キャンプを張る)宮崎で外国人のFWをテストする事になっている」と水沢監督が述べたように、まだ選手が加わる可能性がある。
中盤の選手では御野が順調な成長を見せている。尾道においてはユースからトップチームに昇格した「一期生」もすでに3年目。昨シーズンは38試合に出場するなど主力として頭角を現してきた。「オフは山間を徹底的に走りこみました」と胸を張るように、今年は一段と下半身が太くなった。また、10得点を目標にシュート練習にも精を出したと言い、実際キックの精度も高まっている。
金田が栃木に移籍した事で空席となった司令塔のポジションは2009年以来の復帰となる桂城やユース出身ルーキーの栗山によって争われている。背番号10を与えられた谷本はまだ全体練習に合流できていないが「焦るよりも万全な状態に戻る事だけを考えてほしい」と水沢監督が語るように、余裕を与えて復帰に取り組む。
ボランチで面白いのは2年目の亀井だ。体力がついてきた事で持ち前のサッカーセンスをより発揮できるようになった。「カメはスペースの把握能力が高い。向いていない方向にも目があるみたいだ」と山田が舌を巻く。その山田も相変わらずのタフネスで、今シーズンはこの2人によるコンビが基本線となりそうだ。
100文字コラム
野沢コーチの隠れた特技がクラリネット演奏だ。「音色が好きで小学生の頃に習ったんだ。現役時代はご無沙汰だったけど引退して久々に触れるとやっぱり良かった」とブーム再燃。音楽教室に通い腕を磨いているようだ。




