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幻のストライカーX爆誕(仮題)  作者: 沼田政信
2013 時間は再び動き出す
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新春記念 新マスコット誕生 下

「よし全員集まったな。さあ、これから練習開始だ。今年もあと少しで終わるが、気を抜かんように。さあ、まずはランニングからだ。締まって行け!」

「はい!」


 午前9時のグラウンドにて、水沢監督の指示に従って選手たちはウォーミングアップを開始していた。秀吉らほとんどの選手がチーム指定のジャージ姿だったが、中にはプロ入りを目指す学生や他のクラブから契約満了を提示されて尾道のテストを受けている選手もおり、そういった選手たちは違う服をまとっている。


 それを見つめる熱心なサポーターやライターはまばらながらも存在する。彼らの視線に囲まれて選手たちはランニングから柔軟体操、ボールを使ったパス練習など基本的な動きを続けている。例の2人はまだ来ていないようだった。


「こっちよ! 急がなきゃ、もう完全に遅刻よ!」

「待ってよ姉ちゃん。ああ、でもまずったなあ。この公園が思った以上に広かったから迷いかけるなんて、観察員の名折れだなあ」

「調べた所9時どころか10時に近いわね。でも大丈夫よ、多分。あの人たち優しそうだったし」

「そうだといいけど」


 尾道の選手たちがアップを終えてより実戦的な練習に突入しようとしていた合間、時間で言うと9時より10時のほうが近いあたりの時間に朝と同じ服を着た2人はグラウンドの付近に走りこんできた。選手のほうもいつもと違う訪問者にすぐ気付いた。


「おいおい、あれ見てみろよ。ほら、あそこの子供。凄い服着てるなあ」

「うわあ本当だ。そろそろ12月だって言うのに元気いっぱいだな」

「まるで小学生の頃の俺みたいだな。結構な事よ」

「どうしたんだカメ、タクト、ユーマ? ああ、あの子達か。良かった、ちゃんと来てくれたんだな」

「知ってるんですかヒデさん?」

「ああ、今日の朝ちょっと出会ってね。9時から練習あるから見に来てねって言ったけど、練習開始してからも姿を見せなくてちょっと心配してたわけよ」

「へえ、そうなんすか。で、朝からあんな服だったんですか?」

「おうよ。まあ、手は打ってあるからさ。これよ」


 そう言って秀吉はユニフォームを2着、バッグの中から取り出した。背中にはJリーグに参戦してから誰も着用した事のない背番号12が縫い付けられた、真新しいレプリカを持って2人のいる所へ走った。


「やあ君たち。本当に来てくれたんだね」

「荒川秀吉さんですね。こんにちは」

「本当はもっと早く来る予定だったのに、遅れてしまってごめんなさい」

「そんな事気にする必要ないって。むしろちゃんと来てくれた事にこっちが感謝しなきゃいけないほどさ。そうだ、感謝の気持ちとしてこれをあげるから今すぐにでも着てみなよ」

「わあ! 新しい服ですね!」

「そうさ。そしてこれは単なる服じゃない。着れば君たちも僕らの仲間になれる、そんな素敵な服さ。さあ、どうぞ」

「ありがとうございます! 早速着てみます」


 少し大きいユニフォームを羽織った2人は、まごうことなきサポーターの姿に成り代わった。いや、やっぱり兜を被っている様は不自然だが、一応チーム名は双子の戦士という意味だけにむしろ普通より適任なのかも知れなかった。あと、ユニフォームを羽織る時は普通に兜を脱いでいた。秀吉は内心で「あの兜って外せるんだろうか」「まさか兜が本体なんて事はないよな」などと心配していたが、まったくの杞憂に終わった。まあそれはどうでもいいとして、2人はユニフォームを気に入ってくれたようだ。


「あは! 暖かいや! ありがとうございます!」

「ははは、どういたしまして。でもそれまでの服はやっぱ寒かったのかい?」

「そりゃあもう、こっちではこういう服が当然って聞いたんですけどね」

「(やめなさい! それ以上言うとぼろが出るわよ)ええ、まあ、この服もとっても素敵だなあって」

「そうかい。何にせよ気に入ってくれたなら嬉しいな。じゃあ、もう監督が呼んでるから戻るけど、これから実戦形式の練習に移るから見ていて楽しくなると思うし、好きなだけ楽しむといいよ」

「はい、そうします」

「何から何まで本当にありがとうございます荒川秀吉さん」


 スタジアムの脇に陣取って練習を観戦するユニフォーム姿の小さな2つの体。ちょうどこれから尾道は練習試合を始める。しかしこの2人、サッカーを見るのは初めてなのだ。当然ルールなど分からないのでフィーリングで「多分こういう事なんだろう」とか思いあいながら見ていた。兜にはテレパシー装置も組み込まれているため、しゃべらなくてもある程度会話ができるのだ。


「赤い服を着たチームとその上に緑のベストを着込んだチームに分かれたわ。演習開始のようね」

「荒川秀吉さんは黄色いほうにいるね。深田光平さんもだ」

「山田哲三さんと御野輝さん、それに宇佐野竜さんは赤いほうね。それ以外にも同士は大勢いるようだけど、全員で22人だから一部隊は11人になるのかしら」


 審判役の佐藤コーチが試合開始を告げるホイッスルを鳴らした。先行は緑のほう、つまりビブスを付けたチームの野口が秀吉にボールを渡した。秀吉は中盤の底にいる亀井へパス、亀井はセンターバックの練習生へとボールを戻した。ここから左サイドへ広がるように走る深田にパスを出そうとしたが御野にカットされた。


「よっしゃ取った! 一気に行くぞ!」

「よしナイスカットテル! 自分で持ち込め!」

「中を切れ! スピードを殺してシュートさせるな! ハッシーは中央をケアしろ!」


 すでに公式戦の全日程を終えている中での練習試合だが、選手たちは本番さながらの迫力ある動きと声で戦いを繰り広げている。


「いよいよスタートね。ううん、見たところあの球体のある所を中心に兵士が群がっているわね。あれが何か重要なものなのかしら」

「でも足蹴にしてるしあんまり大事なものでもないんじゃない?」

「そうかしらね。あっ、球体を横に広い門へ蹴り込んだら前にいる兵士が手で受け止めたわ」

「あれまあ! でも他の兵士は足ばかりなのに、本当は手を使ってもいいのかなあ? いや、でもやっぱり他の兵士は手を使ってないし」

「それはね、ほら見て! 今手を使った人、手袋をしているでしょう」

「本当だ! 手袋をしていれば手を使えるという決まりなのかも」

「そうね。ああ、今度は緑のほうが球体を保持しているわ。それにしても足で蹴りながらよくもまあうまく受け渡せるわね」

「それが訓練の結果って事なんだろうね」


 2人も始めて見るサッカーでありながら、大体のところは順調に理解したようだ。さて、試合はビブス組がパスを回してディフェンスを翻弄しつつ、最後は深田のクロスに反応した秀吉のダイビングボレーが炸裂して1点先制した。ストライカーの面目躍如と言える鮮やかなシュートにギャラリーは沸いた。


「おお、この歓声は! やはりあの球体を網の付いた門に入れれば良いんだ!」

「大体見えてきたわ。つまり、基本的には足を使ってあの球体を入れあうという規則ね」

「なるほど。これなら直接的な戦いではないから不要な犠牲者を出さなくてすむという寸法か。この星の住人もよく考えたもんだなあ」


 2人は周りの流れに合わせて拍手をしつつ、サッカーという競技そのものに大きく関心を寄せていた。故郷の星においては重力の問題などもあってこのようなゲームは発達していなかったからである。なおも試合は続く。


「また荒川秀吉さんが門の近くで球体を操っているわ!」

「そして門の中に、蹴った! ああ! 今度は止められた!」

「あの手袋をはめている人が横っ飛びで進入を防いだわ! ほとんど間合いがない中で素晴らしい反応! あれは宇佐野竜と言ったかしら。兵士の鑑だわ」

「逆に今までピンチだったものが今の阻止以来、今度は赤いほうがよく球体に接することが出来るようになってるよ。本当に少しのきっかけで全然流れが変わってくるなあ」

「そうね。今度は赤いほうがいつ門に球体を入れてもおかしくないわ」

「でも緑のほうも門の前にいっぱい人が集まっているから、赤いほうはどうやって門に近づくのかな」

「ああ! 奥のほうから走ってくる兵士が! そっちに球体を送ったわ!」

「速い! 一気に蹴り込むところまで行けるぞ! 行け! 行け! 蹴れ! ああ、外れた!」

「でもいざ打ち込むというところで緑の兵士がうまく球体と門の間に身を寄せていたわ。あれはよく守ったって事よ」


 知らず知らずのうちに熱中していった2人。ゲーム終了のホイッスルが響き、ようやくはっと気付いて時計を確認すると1時間近くが溶ける様に消えていた。この練習試合が終わるともう今日の練習メニューは終わりと言って差し支えない。選手たちはクールダウンすると解散した。


「やあ、練習を見てどうだった? 楽しめたかい?」

「あ、荒川秀吉さん!」

「はい! とてもためになりました。これがサッカーなんですね!」


 興奮気味にまくし立てた。他の星ではこのようなゲームは発達しておらず、初めて見た競技にすっかり心を奪われていたのだ。その姿はまるで無邪気な子供そのもので、秀吉も嬉しくなって自然と頬が緩んだ。


「ふふ、それなら良かった。練習は12月の途中まで続くから、時間があったらいつでも来てよ」

「はい喜んで!」


 この言葉通り、2人は毎日のように練習場に押しかけた。見た目は子供でも頭脳はもっと上なのでサッカーのルールもあっという間に覚え、12月になる頃にはオフサイドやらフォーメーションやらも理解できるようになった。もはや単なる観察の域を超えて、サッカーにすっかり魅了されてしまったのだ。


 12月16日は尾道の全体練習最終日だった。この日もまた2人はレプリカを着こんで練習場に繰り出し、目を皿にして練習に見入っていた。後ろから男が一人近づくのも気付かずに。


「やあ、君たちですね。毎日のように練習を見学してるって子供たちは」

「うあっ!?」

「あ、あなた誰です?」

「驚かせてしまったようですね。ええ、改めて、私はこのクラブのGMをやっている林淳一と言うものです。まあ、とりあえず偉い人ですよ」

「そうですか。私はジェミーです。で、こっちはルディー」

「とりあえず何と言うべきか分かりませんが、よろしくお願いします」

「それは荒川君から聞きました。そんなに硬くならなくていいんですよ。ところで、折り入ってお願いをしたいのですが、君たちに私たちのチームのマスコットになってほしいんです」


 林GMの突飛なお願いにはさすがの2人も驚いて二の句が継げなかった。ただどうやら冗談などではない本気の申し出だと悟ったので、困りながらも「もっとこのサッカーというゲームを観察したい」という素直な想いに正直になるべきだと考えた。


「私はいいですよ」

「僕もです。サッカーはとても好きになったし、これからももっと知りたいって思っていますから」

「そうですか。それは良かった」

「ただ、その前に……」


 サッカーのために、尾道のために頑張るのはやぶさかではない。しかしそれをするためにはどうしても告白せねばならぬのが自分たちの素性である。驚くだろう。もしかすると拒絶されるかも知れない。しかし、自分の心に嘘をついたままではいられなかった。意を決して2人は言葉を続けた。


「その前に聞いてほしい言葉があります。驚かないで下さいね」

「実は私たちは宇宙のはるか彼方からこの星に降り立った、あなたたちからすると宇宙人なんです! そして本当の姿とは……」


 二人は変身を解除した。白を基調に赤と緑でデコレーションされたような体毛が瞬く間に二人を覆った。これこそ二人が異星人であるという動かしようのない証拠である。


「ふっ、そんな事だろうと思ったぜ!」

「あっ、その声は!」

「荒川秀吉さん!」


 2人が振り向くと、そこには秀吉だけでなく尾道の選手監督コーチが全員集まっていた。


「どこで生まれたとかそれまでがどうとか関係ないぜ! そこに愛があればみんな俺たちの仲間さ!」

「そう、このチームを愛して、心の奥から応援してくれるなら、それだけで大きな力になるんだ!」

「ジェミーちゃん、そしてルディーくん。君たちはもう僕たちと同じジェミルダートファミリーだ。さあ、こっちへおいで。そして兄弟の契りを確かめるために固い握手を交わそうじゃないか!」

「はい! 皆さんこれからよろしくお願いします!」

「勝利のために、どこまでも応援して行きます!」

「よーし、2013年からは頼むぞ! さあ胴上げだ!」


 わっしょいわっしょいと2つの小さな体が尾道の寒空に舞った。ふわふわと宙に浮かぶ2人の笑顔は、空の青さよりも澄み切っていた。






­-第一部完-






「とまあ、こんな感じでどうですかね!」

「あのねえ、高橋君。君にとっては現役を引退して最初の仕事だから張り切るのもわかるけどね。別にそんな長ったらしい設定は必要ないんじゃないかな。要は科学的な化け猫って事だろう?」

「いえいえ甘い、甘いですよ社長! 今の時代、マスコットも単に動物をそれっぽく仕立て上げるだけではアピールできませんから」

「ふーむ、そんなもんかねえ。まあ、Jリーグでもマスコットがいないクラブは少数派で、ようやくうちも今年から導入となるわけだからね。その辺は後発の強みを生かして色々分析したらしいが、どう反映されているのかね?」

「まずは単なる動物ってだけではなく由来も説明しておく! それに尾道といえば猫のイメージがあるのでそのフレーバーもまぶして地元感アップ! 名前は安直と言われようが分かりやすく! まあ大体こういった感じですね」

「そうか。まあ長々と説明しても絵がないとどんなものか1/3も伝わらないという現実はそこに横たわっているわけだが。しかしノートの端に鉛筆で書いた下手なイラストを全世界に晒すのも考え物だからな」

「情緒は中学生、技量は小学生、そして羞恥心だけは人並みですからね。まあそこは心の中でイメージを補完したほうがむしろ美しくなるって寸法ですよ」

「マスコットの天地は複雑怪奇ってところか」




まとめ

・2012年のオフにやってきた異星人の双子の姉弟で、2013年からマスコットに任命される

・今は尾道のどこかに住んでいるらしい

・本性は猫みたいだが兜を被った人間そっくりに化けることも可能

・サッカーが好きでジェミルダート尾道の熱狂的なサポーター

・背番号はふたりとも14番




ジェミーちゃん

地球を観察するために宇宙の彼方から送られてきたが、今は尾道でマスコットをしている双子の姉。サッカーが好きで、特にGKなどディフェンス方面に興味を持っている。陽気な性格。真っ赤な髪をまっすぐ切り揃えている。緑色の瞳。


身長/体重

145cmぐらいだが地球に来た事で成長中という噂もある/秘密


特技

踊ること




ルディーくん

地球を観察するために宇宙の彼方から送られてきたが、今は尾道でマスコットをしている双子の弟。サッカーが好きで、特にFWなどオフェンスの選手はかっこいいなと憧れている。真面目な性格。緑色の髪でヘアスタイルはあまり気にしてなさそう。真っ赤な瞳。


身長/体重

姉と同じぐらい/30kgぐらい


特技

逆立ち

100文字コラム


ついに誕生した尾道のマスコット、ジェミーちゃんとルディーくん!「ふたりは異星人なので地球の常識と異なる部分も持っています。それらの秘密は今後少しずつ明かされます!」と今年から広報に就任した高橋は語る。

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