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中継その4

「ここで尾道、2人目の選手交代を行うようです。中村純選手が今コーチから指示を受けています」

「中村ですか。誰と交代しますかね」

「どうやら茅野と代わるようです」

「茅野ですか。ポジションはどうなりますかね。本来は中盤の底がメインですが」

「ここでボールが出ました。ここで尾道は2人目の選手交代、茅野に代わって中村純がピッチに入ります。鈴木さん、この交代の意図はどのようなものでしょうか」

「まず後半の頭から荒川を出してより攻撃的なフォーメーションに組み替えて目論み通りにゴールを奪いましたね。この中村という選手は非常に視野が広くてミスの少ない選手ですからね。まずはリードを守り切るのが先決ですが、カウンターの起点にもなりますからね。流れによっては3点目も狙える攻撃力も十分に備えているのでこれは面白いアイデアだと思いますよ」

「なるほど、豊橋のスローインから試合再開です」

「中村は、中盤の3人がフラットになっていますね」

「そうですね、中盤は右に今入りました中村、中央に山田、そして左に今村がほぼフラットな位置についていますね」

「今までは見られなかった形ですが、新たな戦略となるのですかね」

「オフェンスはフォワードの3人に任せるのでしょうかね。攻撃的というよりディフェンスの選手ですからね。まあ試合展開に注目ですかね」


「ところでスタジアムの空模様ですが、かなり厚い雲に覆われてきました」

「雨は、どうでしょうかね」

「雲の色はそこまで黒くはないのですが、山の上なので急に天気が変わるということはよくありますからね」

「突然風が強くなったりね」

「そういった環境の変化にも適応して戦う必要があります」

「やはり雨となったらかなり流れも変わってくるでしょうからね。ただ放り込みを多用してくるならそれはそれで尾道にとっては望むところでしょうがね」

「今年の尾道には高さがあります。このモンテーロがどっかりと君臨する尾道のディフェンスライン」

「去年までのアンドレ・シルバは縦の変化に強いタイプでしたからね、いい選手でしたが。存在感という面でも過去最高クラスじゃないでしょうかねこのモンテーロは」

「ここでシュート! しかし枠の外でした。途中交代の芳松が中盤のプレスを軽くかわしたところでミドルシュート」

「この攻める姿勢ですよね。とにかくチャンスと思えばすぐ行動に移すタイプですから、怖いですよ」

「愛知教育大学から豊橋に入団して2年目の芳松ですが、今のところスーパーサブ的に使われて7試合で2得点。いずれもビハインドを追う展開からの同点ゴールというここぞという場面で仕事をする選手です」

「プレー自体はね、結構荒っぽい部分も多いですが、それだけに迫力もあります。若い頃の荒川みたいな選手ですよ」


「宇佐野のゴールキックは有川に、そして山田に回す」

「山田はよく動けていますね」

「運動量はチーム屈指の山田から今村へ、ここでじっくりとラインを上げていきます」

「尾道で僕とプレーした事のある現役選手はもう山田と長山、それに高橋ぐらいになってしまいましたがね、山田は確か地域リーグにいた頃に入団でしょう」

「山田は2001年に鳥取県の大山西高校から当時中国リーグの、まだ尾道ジェミニFCだった時代に加入しました」

「それからJFLに昇格したのが2003年でしたっけ」

「いえ翌年となる2002年ですね。地域リーグを一気に突破していきました。JFL昇格と同時にチーム名も現在のジェミルダートに変更しました」

「あれからもう10年ほど、本当にチームを取り巻く環境はまったく変わりましたからね。レベルも全然違うでしょうに、ついていけているのは日々の練習を積極的にこなしているからでしょうね。本当に常に向上心を持って取り組んでいますから、若手やこれからプロを目指したいというサッカー少年の皆さんはよく見ておくべきですよ、この山田の姿を。ウチのクラブでも『本当に凄いのは山田なんだぞ』ってよく言ってますからね」

「っとここでヴィトール! は阻まれる! 中盤のパス回しから最後は有川、中村とつないで最後はヴィトルでしたが豊橋のディフェンダーにブロックされました」

「一枝ですね。ここまで献身的なプレーを見せていますよ。白と朴の韓国人が注目されがちですけど日本人も忠実ないい選手が多いんですよね、この豊橋は」

「尾道のコーナーキックに移ります」


「コーナーキックでは前半に1点取っていますからね、ここで突き放す1点もほしいでしょうね」

「前半アディショナルタイム直前、コーナーキックから最後は有川が頭で押し込み同点に追いついています今日の尾道」

「あの時はショートコーナーでしたが今回はどうでしょうね」

「キッカーだった金田はすでに退いています。代わりに蹴るのは今村です。ニアサイドに有川、ファーにはモンテーロとヴィトルも虎視眈々と狙っています。さあ、ホイッスルが鳴る、今村の左足から放たれるボールは、少し大きいか、豊橋クリア」

「まだチャンスはありますよ」

「セカンドボールは尾道、中村が放り込む! これも弾かれる! 山田!」

「最後はシュートで終われたのはいいですよ」

「最後は山田がミドルシュートを放ちましたが外れました。豊橋のゴールキックから試合再開となります。時計はすでに後半の33、から4分になりました」

「次の1点ですね。まだ試合は動くと思いますよ」


「さあ豊橋のゴールキックから試合再開です。やはり中盤でじっくりと回してきます」

「これがもう豊橋のベストフォームですからね。野山監督もこだわりが強いタイプですし、かなり浸透して来ていますよ。去年だと焦ってロングボールを蹴ったりしていたでしょうが」

「尾道のディフェンスラインには高さに強いモンテーロもいます」

「モンテーロは縦と比較して横の変化には弱いですからね、攻略方法としては間違っていませんよ」

「両チームとも、3人目の交代をどう使いますかね」

「うーん、その辺も含めてこれからの勝負でしょうね」


「佐々木から一端後ろに戻して、おおっとロングボールから芳松抜け出した」

「ああ、危ない!」

「オフサイドはない! 1対1! シュートは、弾いた!」

「いい反応!」

「ゴール前1対1の局面を作ってしまったジェミルダート、しかしこの男が控えていました宇佐野竜! シュートを右手で弾き飛ばした!」

「しかしまだわかりませんよ」

「ボールは奥山が保持しているが山吉がチェイスに行く、クロスは上げられるか」

「大分ペナルティーエリア内に選手が集まってきました」

「もう尾道の選手が4人中にいます、奥山は後ろに出すしかないか、おっとこれはトラップミスでタッチラインを割りました。尾道ボールのスローイン」

「木野下焦りましたかね、最後はラッキーでしたね。しかし宇佐野の反応ですよ」

「同点になってもおかしくない、危険な場面でしたが防ぎきりました若き守護神宇佐野!」


「さあスローインから試合再開です。中村から山吉、山田、そしてヴィトル」

「中には有川もいますよ」

「ヴィトルは中央へのドリブル突破は、できないか。ここは後ろに戻しました」

「ここは焦ってゴールを無理に狙う展開ではありませんからね、冷静ですよ」

「中盤でパスをつなぎながらっとここからシュートか? ああっと入った! ゴール! 尾道3点目!」

「おお、いいシュートですね。威力もありました」

「決めたのは途中交代の中村純! 今季1ゴール目は豊橋を突き放す決定的なゴールとなりました」

「うーん、リプレイを見ても分るようにゴールキーパーがちょっとここで飛び出していましたね、これをよく見ていましたね。この時点でもう狙っていますね」

「ここで荒川が外に逃げるような動きをしていますね。これでディフェンダーを引きつけてスペースを確保した面もありますね」

「これは試合を決定付けるゴールでしょう。後半39分、中村純が値千金のミドルシュートを豊橋ゴールに叩き込みました」


「さあ豊橋のキックオフで試合再開です」

「ただまだ時間はあります。6分とロスタイムで2点差は全然ね、追いつけない数字ではありませんよ」

「まだまだ警戒が必要です尾道。豊橋は、中盤の底でじっくりと試合を作ります」

「焦りませんね。あくまで自分たちのサッカーに徹している」

「藤倉から朝野兄でパス交換を繰り返します。荒川のチェイス」

「この動きですよね。荒川の。途中交代選手のできる事をこなしている。特別に運動量が多いタイプではない分、非常に勘所の良い効率的な動きをするんですよ。さすがは海外で揉まれただけあるなという、生きた知恵ですよ」

「さあ、ここからどう展開するか豊橋。藤倉から、最終ラインに一端戻します。そして左の木野下へ」

「この木野下の攻め上がりがここまで少ないですね。本来の仕事をさせてもらえていないと言うか」

「それは何が原因なのでしょうか」

「まあよく山吉が封じていますよ。それに中村純もスペースを消している」

「木野下が不調ということではなく尾道のディフェンスがよく機能しているという事ですね」

「私にはそう見えますね」


「ここで豊橋が最後のカードを切るようです。佐々木と交代で背番号7のアランを投入する模様です」

「アランですか」

「今季から豊橋に加わってこれまで7試合に出場、1ゴールを決めています。パワーのあるフォワードです」

「ここまでまだチームにフィットしていないんですけどね。ただ非常に一発がありますからね、ディフェンス陣にとってはやっかいかも知れません」

「ゴールは第11節の京都戦で、3対0とリードされた状況から途中交代で出場、ドリブルで京都のディフェンス陣を翻弄して最後は右足の強烈なシュートを叩き込んでいます」

「個人技は本当に文句なしですがね」

「ここで試合が切れました。アランがピッチに向かいます」

「もう後半41分ですからね」

「尾道のスローインから試合再開、芳松とアランは積極的にボールを狙います」

「奪われないようにしたいですね」

「今村が前線に回しますがこれは有川につながらず」

「ちょっと焦ったんですかね。やらなくてもいいボールでした」


「そして尾道も3枚目の交代枠を使います。山吉に代えて橋本を投入しますね」

「橋本ですか。このまま試合を締めようという言う事ですね。しかしどこのポジションにつくのでしょうか」

「おっとここで接触がありました。奥山が山田に倒されてファールとなりました」

「ここで選手交代ですね」

「今橋本がピッチを駆けて行きます。豊橋のフリーキックから試合再開、橋本は最終ラインあたりにいますね。藤倉が大きく前線に蹴り上げますが、これは伸びすぎた」

「藤倉らしからぬいささか粗雑なプレーでしたが、疲れに焦りもあるので難しい状況ではありますからね。しかし尾道からするとまず助かったなというプレーでした」


「宇佐野のゴールキックから試合再開です。時計はもう44分を回っています。アディショナルタイムの目安は3分と表示されました」

「橋本は、中盤の底にいますね」

「山吉の抜けた右サイドには今村がいます。今村は様々なポジションをこなす万能タイプ」

「去年はよく左サイドで使われていましたが、右サイドでの起用はあまり記憶がないですね」

「さあ、尾道は橋本がボールをキープしています。橋本は身長もありますが、なかなかボールタッチも器用です。今季仙台から完全移籍で加入しました。本職はセンターバックですが、今日は中盤で出場しています」

「ただセンターバックとしてはちょっと線が細いように思えますがね。技術的には確かなものを持っていますし身長も及第点、港のプレーを身近で見習いながら確かに成長している一人ではあるんですが、プレースタイルからすると今の中盤という位置のほうがむしろ生きるかも知れませんね」

「橋本から右サイドの今村にパス。今村は、急ぎません。じっくりボールを奪われないように展開させていきます」

「うまい時間の使い方ですね。元々若くしてかなり冷静な判断力のある選手でしたが、今年は一層磨きがかかっています」


「ここでアディショナルタイムに突入しました。尾道はあくまでも慌てない、じっくりとパスを回して余計な失点をしない方針です」

「ここまでは順調ですね」

「今村から橋本、山田、橋本。豊橋の選手は積極的にボールに向かってきますが」

「もうこの時間ですからね、尾道は焦る必要もないですよ」

「じっくり中盤でパスを回して、そして前線に鋭いパス。荒川が受けましたが、中村とじっくりパスを交換しています」

「それでいいですよ。向こうに渡さないように」

「有川が倒されたが笛は鳴りません。ここで豊橋ボールになった」

「ちょっと微妙なタイミングでしたね今のは」

「観客席からはブーイングも多少聞こえてきます」


「しかしこうなると豊橋にも意地がありますからね、何としても1点でも返そうとなるでしょうね」

「しかしあくまで慎重です豊橋、奥山と藤倉がパスを回します」

「パス回しもいいんですがこの間にもう尾道の選手は戻っていますからね」

「すでにゴール前に5人います尾道」

「やりたいサッカーはわかりますが時にはそれを崩すぐらいしてもいいとは思いますよ」

「ボールは奥山から木野下へ。ここもしっかりマークがついていて前へ進めない」

「今村がよく封じていますよ」

「おっとここでバックパス、拾ったのは芳松、ドリブルを仕掛けていく、これは危ない!」

「シュートコースが空いてますよ」

「ここでシュート! 宇佐野弾いた! 見たかと言わんばかりに吠える!」

「いやあ今のは1点ものでしたよ。しかしよく止めましたね今のシュートを宇佐野が」

「スピードに乗った芳松の突破からディフェンスの隙をついて打たれたシュート! コースも右端の絶妙な位置でした」

「これ枠に入ってますからね、セーブがなければ1点でした」

「まさに宇佐野のスーパーセーブ、後半アディショナルタイムに飛び出しました!」


「これがおそらくラストプレーに近いでしょう豊橋のコーナーキック。奥山から、ニアに鋭いボール! 弾く! セカンドボールは、ジェミルダート! 中村から一気に前線に送って、ここで試合終了の笛が鳴り響く! 3対1でジェミルダート尾道が豊橋アスプルを下しました!」

「先制点は奪われましたが終わってみれば見事な勝利でしたね」

「尾道はこれで9勝3敗3分となりました。では今日の試合のハイライトをご覧いただきましょう。まず豊橋の先制点は前半の24分、最終ラインでボールを奪うとシンプルな縦パスから最後は朝野透」

「これはいい攻撃でしたね。しかし今日の豊橋はこういったシンプルな攻撃がこれ以降は出来ませんでした。ちょっとパスを回しすぎかなという攻撃が多かったように思えました。野山監督が目指す方向性は間違ってないと思います。ただビハインドの展開でどこまで崩していくべきかという部分はまだ課題として残っていますね。個人技のあるアランが馴染んでくるとまた違ってくるでしょうが」

「そこから前半44分、このままハーフタイムかという時間帯にコーナーキックを得ました。金田、深田、今村と回してクロス、最後は有川!」

「さすがの有川の強さですよね。クロスも対応しにくい角度でしたがうまく合わせました」

「そして後半は開始から荒川秀吉を投入して何としても得点を奪うという意気込みを見せた尾道、その願いが実ったのは後半13分、山吉のクロスから有川が落として、最後は荒川がジャンプしながらゴールに押し込みました! これで2対1、逆転!」

「これぞ荒川という、泥臭い、体ごとねじ込むようなゴールでしたね。この気迫はさすがですよ」

「これで流れを掴んだ尾道、3点目はこれまた途中交代の中村が、ここからのシュートを決めました」

「冷静ですよね本当に。豊橋の気持ちが攻撃に向いていてディフェンスの寄せが甘くなっていたところをうまく狙い打ちました」

「そしてこのまま試合終了のホイッスル。3対1でジェミルダート尾道が豊橋アスプルを下しました。そしてヒーローインタビューです。今日のヒーローは後半13分に逆転ゴールを決めた荒川選手です」


「放送席、放送席、今日のヒーローは途中出場から後半13分に値千金の逆転ゴールを決めた荒川秀吉選手です。荒川選手おめでとうございます!」

「ありがとうございます。やっとこういうゴールを決められたのでほっとしています」

「後半の頭から出場でしたが、どのような気分で試合に臨みましたか?」

「監督からはとにかくゴールをと言う事だったので、ヴィトルとうまく連動して相手のディフェンスを撹乱させるようにと心がけました」

「そのヴィトル選手、有川選手と組む3トップの威力は抜群ですが、どのようなところが良いのでしょうか?」

「ヴィトルもキヨシもね、非常に頭がいいですからね。普段の練習でも色々な形のコンビネーションを考えたりしていますが、その成果が出ているのが結果につながっているんだと思います。特にキヨシ、今日も決めたでしょう。今はオフェンスの中心としてキヨシがどっしりと構えてくれているから自分やヴィトルみたいなタイプが自由に動けてるし、そこはチームとしての攻撃がうまく機能しているなという手応えはあります」

「そして後半13分のゴールにつながりました」

「もう決めようと。ただそれだけですよ。サイドからいいボールが来てキヨシがいいところに転がしてくれたんで、最後押し込むだけでした。ゴールにおける自分の割合は10%ぐらいのものですがまあヒーローっぽくなって。まあ外さなくてほっとしましたよ」

「次節からアウェーで連戦となりますが、ファンに一言お願いします」

「ここまで9勝でいい流れなんで断ち切らないように、またチーム全体で奮い立ってね、結果を残したいですね。自分はゴールを奪う事がとりえなんで、そういう形でチームにこれからも貢献していきたいですね」

「ありがとうございました。荒川選手のヒーローインタビューでした」




「さあ、今日の試合結果はご覧の通り、我らがジェミルダートが豊橋を3対1、見事な逆転勝利で下しました!」

「田口さんはこの試合をご覧になってどうでしたか」

「いやぁー、まあやっぱり先制点を取られてからは不安でしたけど、いい時間に追いついて。後半はもう尾道がよくペースを握っていましたね。はっきり言って強いですよ」

「そうですね。さて、来週の第16節はアウェーで湘南戦となります」

「この順位ですと本当に一戦一戦が決戦みたいですね」

「本当に、今まで以上にドキドキしていますよ」

「今季の目標となるプレーオフ圏内の6位という目標に向かって、これからも邁進してほしいですね」

「ジェミルダートナイターでした。それではまた来週お会いしましょう」

「来週も勝つぞジェミルダート!」

100文字コラム


九十六年、同じく尾道が本拠地のレッドウォーリアーズと合併。好敵手への敬意からチーム名は双子を意味するジェミニへと、チームカラーも現在と同じ赤と緑の二色に変更された。この合併で備後屈指の強豪に成長した。

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