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中継その3

「ジェミルダートナイター、今日行われた豊橋戦の前半を終えて1対1の同点」

「1点リードされたままハーフタイムになるのかなという雰囲気もありましたが、残り時間がないところで追いついてくれましたね!」

「ええ、僕も取った瞬間いつも以上に力を入れて叫びましたから」

「素晴らしいゴールでしたね。さあここでジェミルダートクリニックです。ジェミルダートクリニックでは、サッカー少年少女が抱えている悩みをジェミルダートの選手たちが直接答えてくれるコーナーです。今日はどんなお便りが来ていますか清水さん」

「はい、今日の質問は竹原市のたおくん9歳からです。たおくんありがとうございます。『こんばんわジェミルダートのみなさん。僕は自分の所属するサッカークラブでフォワードをしていますがなかなかいいゴールを決められません。どうすれば荒川選手のようにゴールを決められるでしょうか、教えてください』」

「この質問を荒川選手本人に聞いてきました。それではVTRをどうぞ」


VTR開始。練習場にて、ボールを持った秀吉が大写しになる


「こんばんはたおくん、それにジェミルダートを応援してくれるみんな。荒川秀吉です」


 子供番組に出てくる歌や体操のお兄さんのように陽気さを繕って喋る秀吉。さすがに普段からこんな喋りはしないがカメラの前なら余裕でなりきれるのも彼一流のプロ根性あってこそだ。


テロップ「ゴールを決めるコツは?」


「ゴールの決め方、かあ。うん、僕がいつも心がけているのは『ゴールを決めようと強く思い続ける事』と『諦めない事』の2つ。とにかくシュートを打たないとゴールにはならないから、打てると思ったら打つ。シュートの練習をいっぱいして、どんなところからでも打てるようにする事。実戦でいろんな状況になってもしっかり合わせられるようにね。シュートを打つ際は力よりも枠内に入れるように意識して」


振り向いて無人のゴールにシュートを決める秀吉


「そして技術以上に大事なのは、毎日の過ごし方なんだよ。例えば練習は全力でやるけど宿題もきちんとやる、お父さんお母さんやいれば兄弟とは仲良くする、女の子を泣かせない、周りの人の優しさに感謝しながら自分も優しさを分け与える。一見関係ないような事でも、サッカーって人間がやる行いだから日々の生き方全てがサッカーにつながってくるんだ。だからたおくんもみんなも、まずは格好良い人になろう。そうすれば試合でも格好良いゴールを決められるようになるんだ!」


VTR終了


「荒川選手ありがとうございました。さあ、ジェミルダート対豊橋は間もなくキックオフです」



CMを挿入してスタジアムに移動



「実況水野和久、解説鈴木徳次でお送りしていますジェミルダート尾道対豊橋アスプル、後半開始までもう間もなくです。さあ、鈴木さん」

「はい」

「ここまでの試合を見て、どうでしたか」

「そうですね。非常に緊迫した展開でしたね」

「まず先制点は豊橋でした、前半23分、ディフェンスラインがボールを奪うと素早いパス交換で一気に最前線へ。そして最後は黄山の冷静なパスから走り込んできた朝野透が冷静に流し込みました」

「これはきれいにやられましたね。相手の得意な形にはまってしまった。特に黄山は元々フィジカルが武器というタイプでしたがさすがのベテランらしい冷静さも持っていますからね。そういう相手に余裕を持ってプレーさせるとこうなるという見本でしたね」

「それからの尾道、積極的に攻めて行きましたがなかなかゴールを奪えず、そろそろ前半終了という時間にコーナーキックから、最後は有川がガツン! 土壇場で1対1に追いつきました」

「これはもう、有川の高さが生きましたね。こういった一発があるのは今季の尾道の強みですね」

「有川は今季8ゴール目。非常にいい時間に追いついてハーフタイムを迎えました」

「流れという点ではね、もう尾道に流れが来ていますよ。後半は1点を取りに来るでしょうから、どっちが次の1点を決めるかが重要になってきますね」

「さあ両チームの選手がピッチに入ってきましたが、豊橋は選手交代なしですが、尾道は」

「あれ、荒川がいますね」

「本当ですね。後半開始から荒川を投入する模様です水沢監督。交代するのは、金田です。金田と交代で荒川秀吉を入れてきました」

「金田ですか。じゃあ3トップですかね。このパターンは以前にもありましたからがあれは後半の30分以降でしたからね。そういう意味ではかなり積極的な作戦ですね」

「早速攻撃的な手を打ってきました尾道。選手たちはピッチに散らばり、今後半開始のキックオフです。エンドが変わって左に尾道、右に豊橋です」


ジェミルダート! ジェミルダート! ジェミルダート! おーのみーちー さいきょーだーわれらーとーともーにーゆーこうーおー(繰り返し)


「ヴィトル、有川、荒川と3トップでじっくりとボールを回しています」

「この3トップは面白い形ですよね。特にヴィトルと荒川が時にはワイドに開いてウイングになったり、あるいはシャドー的な動きも出来ますからね、相手ディフェンスにとっては非常に捕まえにくいですよ」

「荒川について水沢監督は『フォワードとして鋭い感覚を持っている。ここぞの場面で仕事が出来る選手』と語っています」

「まさにそうですね。途中交代で時間がない場合でも最善のプレーが出来るタイプですから。得点がほしいなら獰猛ですし、守りきるための交代ならその通りにしますからね」

「荒川から茅野、今村と回して、ヴィトルが抜け出した! が、オフサイドでした」

「この形ですね。尾道はこうした裏抜けを続けるべきですよ」

「裏を取るというと荒川はもう得意ですからね」

「ヴィトルもスピードがありますし、何より中央に有川というタワーがあるのでやりやすいですよ」

「ターゲットとして申し分のないサイズの有川です」

「この有川という選手もね、はっきり言って伸び悩んでいましたけどついに一皮剥けたようですね」

「横浜では3年で21試合に出場、2得点でした。そして今季尾道に期限付き移籍で尾道に加入したところすでに8得点と実力を発揮しています」

「ユース時代から注目されていましたからね。それに技術もありますから、これが自分の形というものを見つけたように思えます」

「得点ランキング1位は甲府のデビの10得点ですが、有川は現在2位につけています」

「これは本当にいい補強でしたね」


「さて、豊橋のゴールキックから黄山、佐々木、サイドを駆け上がる原とつないで攻撃を仕掛けてコーナーキックを得ました。後半は初の、この試合では豊橋4本目のコーナーキックとなります」

「キッカーは奥山ですからね、案外ショートコーナーとかも使ってくるかも知れませんよ」

「笛が鳴って、ニアサイドを狙ったが宇佐野パンチング! セカンドボールを拾ったのは豊橋、いきなりクロスを上げてくるが、モンテーロ弾く!」

「一気に攻めてきますね」

「またボールを拾ったのは豊橋藤倉がここからシュート! ポストの上!」

「3トップになったことで尾道の守備力はマイナスありますからね、攻撃陣を乗らせる前に叩いておきたいという考えでしょうかね。この藤倉という選手はそういうところを見逃さないクレバーさがありますしプレーも性格ですからね。今のように一歩間違えると危険なシーンをどう守り切るかが重要になってきます」

「積極的な豊橋の攻めでしたが最後はゴールキックとなりました」


「ゴールキックは有川からヴィトル、そして有川に戻して荒川から茅野へ」

「非常に柔らかいパス交換ですね。ここからどう怖い展開に持っていくか」

「左サイドの深田がオーバーラップしてきたが、ここでサイドチェンジ、山吉に、ボールが渡った!」

「これはいい形ですね」

「山吉は中央を突破するか、マークにつく豊橋の選手をかわして、クロス、いやシュートか! これはポスト!」

「ああ惜しい、今のは枠内にボールを入れて、クロスでもシュートになるように狙っていましたね」

「さあ、弾かれたボールをキープするのは荒川だが、バックパスから茅野シュート! 外れました」

「この形は非常に攻撃のバリエーションが増えますからね、積極的に攻めていってほしいですね」

「早速3トップが有機的な攻撃を見せましたが、ここは豊橋のゴールキックで試合再開です」


「ここで両監督ハーフタイムの談話が入ってまいりました。まず尾道の水沢監督は『いい時間に追いついた。この流れを保って後半は逆転しよう』『ディフェンスは個人技を防ぐためスペースを消して行こう』の2つです」

「残り時間がほとんどないところから追いつきましたからね。この流れに乗って一気に勝負をつけたいということですね」

「一方豊橋の野山監督は『パスを素早く回して相手を揺さぶるように』『ディフェンスはもっと前への圧力を意識して』『次の1点が大事になる』の3つです」

「先制点の場面ではシンプルな攻撃が出来ていたのですが、それ以降はちょっとスピードがね、遅くなっていましたから。パスを回すだけでなくやはり前へ進む流れと言いますか、怖さがないと次の得点は難しいですよ」

「ここで李! かなり強引な体勢からミドルシュートに持っていきましたがゴールの上」

「しっかりマークがついていましたからね。ここで山田が。こうも密着されると枠内に決めるのは難しいんじゃないでしょうか」


「宇佐野のゴールキックから、茅野が持って、今村、山田、今村に戻して」

「右が空いていますよ」

「その右にパス、山吉! ヴィトルが寄ってきてボールをつなぐ、ここでゴール前にボールを出す! 荒川! センターバック一枝との激しいぶつかり合いでした、ボールは深田から、ドリブル突破も、ラインを割った。尾道ボールのスローインに切り替わります」

「荒川がうまくペナルティーエリア内に侵入しましたね。いい動き出しが出来ていますね。非常に雰囲気がある選手ですよ」

「しかし一枝は察知していました。さあ、スローインから試合再開です」


「豊橋はこの一枝がディフェンスをよく支えていますね」

「一枝は名古屋ユースから京南大学を経てC大阪に入団し、2シーズンは主に控えで過ごしましたが豊橋に移籍してレギュラーに定着しました。プロ5年目の26歳です」

「普段のプレーはクレバーですがここぞという場面では熱いですからね」

「身長も184cmとありますからね」

「J2としてもかなりのレベルですよね。移籍の話などあってもおかしくないような気もしますがね」

「そういった話は豊橋のサポーターにとっては気が気でないところもあるでしょう」

「まあそれは尾道も同じですけどね。有川やヴィトル、それにモンテーロもJ1クラスじゃないでしょうかね」

「人材の流動性が高いサッカー界ですが、予算に限りがある地方クラブはそういった傾向はさらに強くなります」

「それだけに毎年毎年異なった選手をよくまとめて、戦力にするという作業が必要となってきますからね、水沢監督はそういった手段が非常にうまいですよ」

「おっと、ボールがタッチラインを割りました。豊橋ボールのスローイン。水沢監督はテクニカルエリアに今村を呼んで何事かをレクチャーしています」

「そろそろ試合が動いてくるかも知れませんね。今は尾道がいい流れですし、ここらで一発を期待したいですね」


「スローインから豊橋はボールを中央に送って、おっと山田が奪った」

「今のパスは山田を見ていなかったか、不注意でしたね」

「後半もある程度時間が進んできました。疲れというものも出てきたのかも知れません。ボールは山田から一端後ろに下げて港、深田、港。ディフェンスラインで回しています尾道」

「いつギアを入れてくるかでしょうね」

「中盤の山田に回して、おっと倒されたが尾道素早いリスタートで今村に」

「おっ、スピードアップしましたね。もう今村と茅野が走っていますよ」

「ボールは茅野、ヴィトル、茅野から今村につないだ」

「サイドですかね、右はスペースが空いていますよ」


「今村からここで右に大きく開いた! 追いつくか山吉、追いついた!」

「中には2人いますよ」

「ターゲット有川もペナルティーエリア内だが、右足のクロスから、落として荒川飛び込んだ! ゴーーール! 逆転! 2対1!」

「来たあ!」

「山吉からのクロスを有川が落としてダイレクトで荒川! 頼りになる男荒川がゴールに押し込みました」

「さすがと言いますか、非常にジャストなタイミングで飛び込みましたね。ディフェンスの隙間の点を突く、彼らしいゴールですね」

「荒川はベンチに走ってリザーブメンバーたちと喜びを分かち合っています。後半13分、ジェミルダート、逆転!」

「非常にチームが一体となっている、空気のよさが尾道にはありますよね。それも強さですよ」


「2対1となって豊橋から試合再開。今後試合はどう展開しますかね」

「まあ表面上はそう極端に変化はしないでしょうね」

「と、いいますと?」

「豊橋はポゼッションサッカーを志向していますからね、負けているからといってスタイルを変えるタイプのチームではありませんし、まだそういう時間でもありませんから」

「荒川のゴールは後半18分、アディショナルタイムを含めて後30分ほどでしょうか」

「まあその中でも前がかりになってくるでしょうから、うまくカウンターを決めれば試合を決める事ができそうですが。それと豊橋もそろそろ選手交代するでしょうから、そこにも注目ですね」

「試合前に鈴木さんが名前を挙げたのは芳松選手でしたか」

「ええ、彼が入る事で豊橋は変化してきますからね、よく警戒しないといけませんよ」


すっすめーすっすめーすっすめーすっすめーすっすめー わーれらーのーほーこりーだーおーのみちー(繰り返し)


「さあ、ボールは佐々木、この選手のドリブルは要注意ですがおっと深田が抜かれた」

「かなり強気なドリブルですね。ただ中には人がいない」

「エリア内に豊橋の選手は1人尾道は3人います。クロスを、上げられない。いったん後ろに戻す」

「逆転した事で尾道は余裕が生まれましたね。逆に豊橋は早く攻めたいという考えといつものポゼッションサッカーを貫こうという考えでちょっとちぐはぐな部分がありますね。ここは監督がどのようなメッセージを送るかですよ」

「野山監督はテクニカルエリアに出て回せ回せと大声で指示を出しています。そして、豊橋は選手を代えるようですね。芳松が入るようです」

「ここで芳松ですか。尾道は警戒しないといけませんね」


「ここでボールが出た。豊橋が選手交代です。2人一気に代えます。まず左サイドバックの平良に代えて背番号25番の木野下が入ります」

「この木野下という選手はスピードがあって攻撃力が特徴のタイプですね。ややひょろっとしていますが身長も十分にあるのでターゲットマンとしても使えますし」

「そして朝野透、先制点を挙げた朝野弟と代えて背番号19の芳松を投入です」

「もう追いつく事だけを考えた選手交代ですね完全に」

「この芳松は鈴木さんが試合前に注目と言っていましたが」

「まずスピードがありますね、ドリブル突破は脅威ですし、チームを乗せるのもうまいと言いますか、かなり豊橋の攻撃を活性化させる選手なので怖いですね」

「さあ豊橋の猛攻に気をつけたい尾道。左サイドの深田から、今村、山田、今村」

「じっくりと回せていますね。非常に冷静です」

「ここでロングボール、右サイドの山吉には、合わなかった。豊橋のスローインです」

「アイデアは良かったですけどね」


「さあ、豊橋のスローインからとなります。原から朝野兄、藤倉、また朝野に。鈴木さん、交代はありましたがそれほどテンポを変えていないようですが」

「そうですね、そこはチームとしてのコンセプトが統一されていますからね。チャンスを作るまではあくまで慎重ですよ」

「ここで最終ラインにボールを下げました豊橋。ここからどう展開していくか」

「交代で入った2人はスピードがありますからね、それを生かした展開をしてくると尾道にとってはやっかいですよ」

「一枝から一気に前線にロングボールを送った。黄山とモンテーロの競り合いはモンテーロ、こぼれ球は山田が拾いました」

「今のボール、こぼれ球を芳松が狙っていましたね。山田がよくカバーに入りましたが」

「こういった方法も出てきます豊橋」

「とにかくこの芳松を乗らせたら危険ですよ」


「さあボールは尾道、山田から今村へ。ここはじっくりとゲームを作っていくようです」

「逆転していますからね、ゲームプランにも多少は余裕が生まれていますね」

「今村から、左サイドに深田が上がっているが、山田に戻すようなパス。あくまで慌てません」

「今はサイドよりも中央で回して突破していこうという考えですかね」

「山田から茅野に渡った。この茅野はドリブルがありますが、おっと倒された。フリーキックです」

「茅野の積極的なドリブル突破が誘発したファールですね。らしい攻撃でしたよ」

「さあ、ゴールからはやや距離があります尾道のフリーキック」

「とりあえずゴール前に放り込んで、後は前線でどうにかできる面々ですからね」

「最前線にはターゲットとなる有川、そして俊敏なヴィトルと荒川も相手にとっては怖い存在ですからね。さあ、笛が鳴って今村の左足から放たれた」

「少し短いですかね」

「頭で弾かれる、セカンドボールは尾道山吉、深田にパス! クロス上げられるか! 相手に当たってコーナーキックです」

「追加点のチャンスですね。時間はもう後半の30分近いですからね」


「コーナーキックを蹴るのは今村です。前線にはモンテーロも上がってきてファーサイドにいます」

「有川はニアですね」

「ホイッスルが鳴った、ファーか! キーパーパンチング! まだボールは尾道、山田から山吉へ! クロスは頭で弾かれる! しかしまたボールは尾道」

「セカンドボールを拾えていますね。いい流れからもう1点といきたいですね」

「茅野が、ミドルシュート! しかしキーパー正面!」

「うまくディフェンスの間を抜きましたがね」

「これで後半5本目のシュートです尾道」

100文字コラム


尾道一の犬好きが鈴木。いや、彼の場合好きを通り越してほとんどプロの域に達している。「子供の頃から近所のケンネルによく通ってたから自然に覚えたよ」と鈴木。引退後はペットショップを開く夢を持っているとか。

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