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中継その1

「さあ今日も始まりましたジェミルダートナイター、司会の柳浩一郎と」

「清水加奈子です」

「いやぁ、ここまで絶好調ですねジェミルダート」

「本当にそうですね。毎週新聞のスポーツ欄を見るのが楽しいですから」

「いやいやまだシーズンはこれからが長いですよ。さて、その好調ジェミルダートですが、今日は特別ゲストとしてチームを裏からサポートする、皆様おなじみこの人に来てもらいました。さあ、どうぞお入りください」

「ジェミルダアアアトオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オノミチィ!」

「この声に聞き覚えのある方も多いでしょう。ジェミルダートホームでスタジアムDJを勤めていらっしゃります、ミッキー田口さんです。田口さん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


「それにしても凄い迫力! 見事な声でいつもスタジアムを魅了していますね」

「ええ、でもスタジアムでサポーターの皆さんの声はもっと凄いですからね。僕も負けてはいられないと言う事で、本当に試合のある日はかなり気合入れてやってますよ」

「毎試合スタジアムでジェミルダートの戦いをサポートしている田口さんから見て、今年のジェミルダート躍進の理由みたいなのはあるでしょうか」

「そうですねえ、まあ僕が見たところ非常にこう、走れていますよね。何と言いますか、今までよりタフになったと言いますかね」

「なるほど」

「まあこのペースが続いたら本当に、ね、こう上をもう狙えるんじゃないかなあと、ええ、思いますよ」


「そうですね。さて、田口さんはジェミルダートがJリーグに昇格した2008年からスタジアムDJとして活躍されていますが、どういったきっかけでスタジアムDJになられたのですか」

「ええ、元々は福山のラジオ局でDJをやらせていただいていたのですが、サッカー好きなディレクターの方から『今度尾道にあるサッカークラブがJリーグに上がるので、スタジアムDJをやってほしい』と言われましてね。僕は中学高校と野球をやっていましたがサッカーは初めてで、でもスタジアムでのDJはやってみたいと思っていたので、もう即決でした」

「なるほど。さて、ここまでのジェミルダートは14試合で8勝3敗3分、勝ち点27の6位と、プレーオフ圏内につけています。首位は勝ち点31の湘南ですから、自動昇格も十分に狙える距離となっています」

「本当に、J1が現実的な目標となっていますね」

「前節、アウェーの横浜戦は前半12分に御野のドリブル突破がPKを誘い、ヴィトルが落ち着いてゴール右隅に決めてジェミルダートが先制。後半32分には途中交代の荒川のパスから、山吉、そして最後は有川がヘディングでゴール。2対0で勝利しました」

「攻撃もこう、つながりがいいですね」

「ゴールデンウィークの連戦では途中勝てなかった時期もありましたが、再び勢いを取り戻してきそうな快勝でしたね」

「さあ、ここから連勝といきたいジェミルダート、本日の対戦相手は豊橋アスプルでした。さあ、スタジアム映像をご覧下さい」




「まるでここ数日は夏が先走りしたような好天が続いている備後運動公園陸上競技場です。J2リーグ第15節、ジェミルダート尾道対豊橋アスプルの一戦をお送りします。選手たちが入場して、今記念撮影を終えました。実況は私水野和久が、解説は現役時代に名古屋、福岡、尾道などで活躍し、現在は福山市にある少年サッカークラブ、ローゼンリッターの監督を務められておられます鈴木徳次さんでお送りします。鈴木さんよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「さあ鈴木さん」

「はい」

「ここまで非常に好調を維持しているジェミルダートですが、その要因は何でしょうか」

「そうですね。ここまで見ていて非常に組織的な部分がしっかりしていますね」

「と、いいますと」

「特にディフェンスラインはキャプテンの港を中心に非常にコンパクトにまとまっていますし、これは簡単には突破できないですよ」

「なるほど。では攻撃面ではどうでしょう」

「やはり有川ですね。去年まではあまり高さのあるチームじゃなかったですけど、有川が前線でどっしり構える事でチームに一本の固い柱が出来たと言いいますか、非常にそういう意味ではしっかりしてきましたね」

「ここまでの14試合で得点は19失点は10と非常に良い数字を残しています」

「今の調子をどこまで保てるかですね。ここまでは非常に良いだけに、選手や監督コーチ含めたチームの総合力が試されるようになって来ますよ、これからは」

「アスプル豊橋はここまで4勝7敗3分です。前節は千葉と対戦して1対1の引き分けでした」

「4月は苦しい戦いですたがゴールデンウィークあたりからようやくチームとしてかみ合ってきたように見えますね。特に藤倉の復帰が大きいですよ」

「さて、本日の審判は主審に岡田和夫さん、副審に川口直人さんと中村仁志さん、そして第4の審判に金子幸秀さんです。両チームのスターティングイレブンとリザーブのメンバーは、まず尾道は以下の通りです」


スタメン

GK 20 宇佐野竜

DF  3 山吉貴則

DF  4 モンテーロ

DF  5 港滋光

DF 26 深田光平

MF  6 山田哲三 

MF  7 今村友来

MF 10 金田正和

MF 19 茅野優真

FW 16 有川貴義

FW 11 ヴィトル


ベンチ

GK  1 玄馬和幸

DF  2 長山集太

DF 12 開田伊多智

DF 21 橋本俊二

MF 13 中村純

FW  9 王秀民

FW 27 荒川秀吉


「累積のため出場停止の御野に代わって茅野。また、左サイドバックの小原は足に違和感があるという事で欠場となっています」

「それは心配ですね。何事もなければ良いのですが。ただ深田も力ある選手ですし、リザーブでも開田あたりは十分にこなせる選手なのでうまく埋められればといったところでしょうね」

「続いてアウェーの豊橋アスプルはご覧のようなスターティングイレブンとなっています」


GK  1 白大順

DF  2 原直樹

DF  5 一枝雄平

DF  4 朴昇烈

DF 17 平良康介

MF  6 藤倉光義

MF  8 朝野智

MF 21 佐々木文武

MF 10 奥山優

FW  9 朝野透

FW 15 黄山常範


ベンチ

GK 28 濱田幸次郎

DF  3 大島武雄

DF 25 木野下正臣

MF 13 富岡広道

MF 22 落合健二

FW  7 アラン

FW 19 芳松昇治


「高卒ルーキーながら早くも欠かせない戦力となっている朝野兄弟や司令塔奥山など、前線にはトリッキーな選手がひしめいています」

「それと移籍1年目のベテラン黄山ですね。早速持ち前の得点力を発揮していて、しっかりチームを支えていますね。白と朴の韓国人を中心とする守備陣も力強い」

「リザーブの選手で注目選手は誰でしょうか」

「背番号19番の芳松選手は面白いですね。かなり積極的に攻撃を仕掛けていくタイプなので、豊橋の攻撃全体が勢い付きますから」

「なるほど。さあ22人の選手たちがグラウンドに散らばって行きました。右にエンドを取った赤と緑のユニフォームがジェミルダート尾道、左にエンドを取った白と黒のユニフォームが豊橋アスプルです。先攻は豊橋、今、主審の笛が鳴って試合開始です。藤倉と朝野智、中盤の底にいる2人が豊橋のゲームメーカーです」

「豊橋はじっくりとパスを回していますね」


アーアーアーアアアアージェミルダーアーアーアアアアージェミルダート(繰り返し)


「中盤でパスを回しながらじっくりとラインを上げていく豊橋」

「ここから例えば佐々木を走らせたり黄山にパスを集めるのが豊橋得意の形ですね」

「キャプテンの港選手は前日の会見で豊橋について『守る側から言うと本当に捉えにくい相手。小さなミスが命取りになるので慎重に相手の出方を伺いたい』と語っています」

「豊橋の前線は特に奥山選手は素晴らしいテクニシャンですからね」

「その奥山にボールが渡りました。山田が対応していますが、左サイドの平良に流します。そして平良はクロスを上げられません。山吉の対応。平良たまらず奥山に下げます」

「山吉はここ数試合ディフェンスの意識が高まってきたように見えます」

「ええ、それについて本人が『それまでは攻めあがっていいクロスを上げたりシュートを打ったりするのが楽しかったが、最近は相手のドリブルやパスを読んでカットするのが楽しくなってきた』と語っていました」

「攻撃方面は元々良かった選手だけに良い傾向ですね」

「さて、豊橋はセンターライン付近でボールを持った藤倉が今度は右の原に大きくサイドチェンジを図りましたがこれは合いませんでした。タッチラインを割って尾道のスローインとなります」

「これは失敗しましたけどこの藤倉は非常に視野が広くてプレーが正確ですからね。クレバーな選手です」

「さあ尾道は小原のスローインから、GK宇佐野のロングキックで一気に前線にボールを回しますが、これは相手に奪われました。センターバックの朴は身長191cmです」

「ただ長身の割に威圧感はそれほど感じませんからね、攻略不可能な相手ではありませんよ」


「豊橋は細かくボールを回します。藤倉、佐々木、奥山、佐々木、じっくりと慎重に攻めて行きます」

「このパス回しからいつ加速するか、尾道としては対応が難しいのがそこなんですよ。特に奥山のリズム感は独特ですからね。まったく予測のつかないところから鋭いパスを出してきます。私も現役時代はそういうプレーを目指していましたが、この奥山はレベルが高い、シャープなセンスの持ち主ですよね」

「この奥山について港は『猫のようにコロコロとフォームを変えることが出来る選手。トリッキーな動きを見せるのでしっかり見てマークをしないといけない』と警戒するコメントを残しています」

「ええ。奥山の独特のリズムはJ1クラスですよ」

「さあ、その奥山がボールをキープして、おっと山田のファールで豊橋ボールのフリーキックになります。奥山はプレースキックに関しても巧みです」

「少し遠いですからね。誰に合わせて来るでしょうか」

「前線にはセンターバックの朴、フォワードの黄山が存在感を見せていますが、尾道もモンテーロがデンと立ちふさがります」

「ホイッスルが鳴った。ふわりとしたボールからヘッド! はクロスバーの上」

「李ですね」

「非常に高さとパワーがある選手ですから、セットプレーでも脅威を与えます黄山常範。さて、ゴールキックから試合再開です」


「ボールは豊橋の右サイド原直樹へ。この原にボールが渡ると尾道サポーターからブーイングが上がります。かつて尾道に所属していた原です」

「当時はレギュラーでも割と地味なタイプでしたが技術はしっかりとしてました。豊橋では尾道時代よりも鋭くなったというか、怖さが出てきたように見えますね」

「さあ、その原から朝野兄へ、じっくりボールを回してチャンスを作るのが豊橋得意の形です」

「尾道は割とフィールドをダイナミックに使うタイプのオフェンスを見せますが豊橋は細かいパス回しが得意ですからね、そういった意味でも対照的なスタイルと言えますね」

「右サイド、尾道の左サイドで激しい攻防が繰り広げられている。原の突破を防ぐ深田、豊橋のスローインです」

「パスの出す場所を出来るだけ少なくしてほしいですね」

「スローインから奥山。この奥山はテクニシャン、原、奥山、朝野、ボールは回るも豊橋攻められません」

「よく尾道の守備のブロックが機能していますよ。組織的な動きは港加入以降本当にレベルがアップしましたよね。この間佐藤コーチに話を聞いた時も『選手の理解度が格段に上がった』と言っていましたからね。首脳陣がどれだけ必死に指示を出しても実行するのは全て選手ですからね。いわば現場指揮官の港の存在は水沢監督やコーチ陣かあしてもありがたいでしょう」

「ここでセンターサークル付近にボールを戻した、そのボールにも有川が仕掛けていきます」

「豊橋に前を向かせないような守備がよく出来ていますよ今は、前を向くとアイデア豊富な選手が多いですからね、あらかじめ叩いておくのがいいやり方です」


「豊橋は最終ラインまでボールを戻しました」

「あくまでもポゼッションとパスサッカーが豊橋のモットーですからね。最終ラインからの組み立ても非常にうまくなってきていますよ」

「ボールは一枝からセンターバックの一角を担う朴昇烈に渡ります」

「この朴はいいですね。まだ20代の前半でしたよね」

「そうですね、1週間前に24歳の誕生日を迎えました」

「ああ、そのくらいですか。非常にがっしりしていていい意味で韓国人らしいという印象ですね」

「ここから左サイドの平良に。この平良はかつて名古屋のFWとしてスーパーサブ的な起用がなされた時期もありましたが、去年豊橋に移籍してからはサイドバックとしての出番が多くなっています」

「元々前線の選手だったと思えないくらいディフェンスがうまいですよね。まさに天性のセンスでしょうかね」

「その平良から、おっと山田パスカット。しかしまた奪われて、タッチラインを割りました。尾道ボールです」

「さすが山田の積極的なディフェンスですね。この選手はねえ、現役時代一緒にやっててJFLの頃でしたが、技術レベル的に上では通用しないだろうと思っていたんですよ。それがこうして今でも尾道に欠かせない存在であり続けているんだから立派ですよ。自戒を込めて何度も言ってる話ですがね、選手の才能って分からないものですよ」

「そうですね。運動量の塊山田哲三です」


「さあ尾道のスローインです。投げるのは山吉、ボールは山田へ、山田から金田にボールが渡った」

「さあ金田は」

「おっとボールを奪われた。藤倉のチャージです」

「ああ、これはカウンターが来ますよ」

「藤倉から、奥山へ。奥山は走りこむ黄山にパスです。一気にスピードを上げてきた豊橋、黄山はドリブル突破を狙いますが、おおっとスライディングを受けて転倒。ここで審判が笛を吹きます。対応したのは今村ですが、あーっと、今村にイエローカードが提示されました」

「うーん、今のプレーはどうでしょうね。タイミング的に非常にうまいスライディングに見えたのですが」

「さてリプレイが出ています。ここでボールを受けた黄山に今村が対応して」

「うまくボールにスライディングしていますね」

「あっ、その後で足に引っかかったように倒れて、これがファールと取られたのでしょうか」

「これは微妙な判定ですね。審判によっては取らなかった主審もいたかも知れません」


「しかしジェミルダートにとってはピンチとなります。ゴールまでは20mほどでしょうか」

「これは直接狙ってくるでしょうね。キッカーは奥山か藤倉か」

「奥山はぶれ球フリーキックが得意ですが。さあ尾道の選手たちが壁を作りました。そしてホイッスルが鳴り、ゆっくりと助走を取り、奥山」

「鋭い!」

「とてつもない変化だ! あーっとポスト! ポストに直撃!」

「今のは危ない場面でしたね。急激な変化で宇佐野は完全に逆をつかれていた」

「少し表情をゆがめて首を傾げています奥山。しかしこのキックは尾道にとってかなりの脅威となるでしょう」

「この辺の精度はさすがですよ。後はフィジカルがもう少しつけば確実にJ1のクラブから引き抜きがあるレベルですからね」


「さあ尾道のゴールキックですが、これはタッチラインを割って豊橋のスローインとなります」

「うーん、こういうキックの精度は課題ですね」

「スローインから今ボールを持っているのは朝野智、双子の朝野兄弟のお兄さんです」

「お兄さんのほうは非常に技術がしっかりしていますね」

「そのお兄さんに向かって積極的にチェイスするのは同年代の茅野。この茅野、今日で3試合目の出場、スタメン出場は初めてとなりますが、非常によく動けていますね」

「ええ、度胸のある選手ですよ。それにスピードもありますし、後はプレー1つ1つの精度を高めていけばかなり面白い選手になると思いますよ」

「さあ、ボールは朝野兄から、中央からやや右寄りにいる佐々木に渡りました」

「この佐々木は突破力がありますからね、要注意ですよ」

「さあ、その佐々木に対応するのは、今村です。ドリブルを、許しません」

「うん、うまいですね。スペースをうまく消しているので突破しようにもできない」

「サイドバックの上がりを待って、パスはあーっと合わない。タッチラインを割りました。尾道のスローインです」

「今のはちょっと強すぎましたねパスが」


「さあ、改めて尾道ボールとなりました。深田から今村、そして港まで戻します。そして、どう展開しますかね」

「まあじっくりと、ディフェンスラインを上げていくでしょうね。パスを回しつつ」

「港から山田、それにモンテーロ。この3人でパスを交換しつつジリジリと押し上げていきます。ここで右サイドの山吉にボールを渡しました」

「これは突破してもいいですね」

「山吉、山田、また山吉とつないで、豊橋の選手もマークに来ましたが、スッと寄ってきた金田に渡します。さあ、金田はどうしますかね」

「茅野開いてますよ」

「左にスペースもあるが、奥の今村にパスです。そして今村はおっと前線にロングパスです。有川がヘッドで落として、ヴィトルがここでボールを持った」

「チャンスですね」

「そしてシュート! これは、ポストの上空を通過していきました」

「積極的に打っていくのは良い事ですね。外れましたけど」

「尾道の初シュートはヴィトルのミドルシュートでしたが、枠を捉えることはできませんでした」

100文字コラム


現在期限付き移籍中の小林は沖縄で奮闘中。課題のフィジカルも改善され得意の突破に磨きがかかっている。また金髪に髭を伸ばした風貌は尾道時代の初々しさとは別物でそういう意味でも沖縄で開眼したのは間違いない。

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