海流のなかの島々
広島県の南部は瀬戸内海に面している。穏やかな海だ。そこに浮かぶ数多の島々は愛媛県と取り合っているので、広島県からよく見えているのにあの島は愛媛県に所属という事はよくある話だ。例えば讃良の生まれ育った大三島などがそうだ。
広島県海沿いの自治体を並べてみると、まずは最も西にあるのが大竹市だ。山口県と境を接している大竹市だが、ここは沿岸部に石油化学コンビナートが広がる工業都市だ。平成の大合併では特に音沙汰がなかったので割かし小さい。
その東にあるのが廿日市市だ。安芸の宮島として名高い厳島もこの廿日市市に所属している。その東にあるのが県庁所在地でもある広島市。ここに関しては今更言うまでもないだろう。
今のチームでは汐野が広島市出身となっているが、歴史的にも日本屈指のサッカーどころとして名高いのがこの広島市だ。その割にスタジアム問題が全然決まらないのだが、そもそも土地が少ないのとクラブが希望している市民球場跡地は狭い上に条件的にも厳しいので、ここにこだわる限り新築はないだろう。
何か色々案とか出してきているがあまりに質が低いので「自分たちは頑張ったけど市に拒否されたから仕方ないという体でチームから撤退するために絶対拒否されるような提案をしている」などという穿った見方まで出てくる始末。むしろ意地になっているみたいだ。もはや駆け引きとかいうレベルではない。
そもそもクラブの案は根本的に定見がなく志が低い。土地が狭いからと席の幅やコンコースをしょぼく設定したり、サッカー以外のスタジアムの利用方法として大々的にアピールされた提案が次の発表では影も形もなくなっていたり。そんなスタジアムに人々は集まるだろうか。いや、初年度は物珍しさから来てくれるだろうが、それが場所に見合ったものかとかどれだけ定着するかと考えるとあまりにもリスキーに映る。
リスクという話で言うと金の問題もある。クラブは跡地に作ったほうが建設費が安くつくとか税金を使わずに建てられると言う。自治体はそんな話をまったく信じていない。私もそう思っている。
ましてやマツダスタジアムという前例もある。それまでの球場とはもはや比べ物にならないほどに施設の質が向上した。その他周辺の再開発や球団の成績含めた集客努力が実った結果、大幅に観客動員をアップさせた。一方で立地に関しては、少なくとも球場完成当初の評判としてはあまり芳しいものではなかった。
広島駅前は、今では再開発によって随分様変わりしたが長らく闇市上がりの薄暗いマーケットが広がっていたのであまりいい土地とは思われていなかった。球場周辺もうらぶれた倉庫街という程度の認識だったし。そういう前例があるゆえに立地さえ良ければうまくいくと言わんばかりの考えは甘いように思えるし、そもそも今までガラガラだった市民球場がどこにあったかという話にもつながってくるものだ。
5月27日、アメリカのオバマ大統領が広島を訪れた。歴史的な訪問だった。スピーチの際平和公園が大写しにされたが、慰霊碑の向こうに見える原爆ドームの近辺に建つよく分からない黒いビルが邪魔だったと感じた方もいただろう。
あれは商工会議所のビルで、景観を損ねるから移転という話が有力なはずだが未だに実行されていない。あれの横にスタジアムを建てようというのがクラブの提案だ。無論、景観に影響を及ぼさないわけがない。そういう意味で反対する人もいる。
市民球場が建てられた時は取り壊しも議論される廃墟だったものが今では世界遺産。「野球は良かったのになんでサッカーは駄目なのか」とは言ってもそもそも野球場も移転を余儀なくされたのだから今は「野球も駄目だからサッカーも駄目」と解するべきであろう。
支持者の態度がどうとかいう話は今は置いておいてもいいかなと思う。そもそも興味持たれてない部分もあるわけだし。ただ広島のためにとスタジアム建設支持していた人は自分たちの都合しか言わないクラブの態度に失望しているのは確かだ。
さて、この広島市は昭和時代、政令指定都市を目指して周辺を合併しまくった時期がある。例えば安佐南区と安佐北区とあるが、これなどは元々安佐郡に所属する各種自治体を合併して生まれたものだ。広島市にあるクラブのホームスタジアムがまさにこの安佐南区にあるわけで、それまでの市街地からすると遠いという感覚があるのだ。
なお行政側が優勢とする候補地の宇品は元から市内だった港湾部で、近年は開発も進んでいる。宇品なら宇品でやり方によってはと思っていたが、どうも宇品だと拒否する構えらしく残念だ。まあそれ言うんなら中央公園の芝生広場こそ本命なんじゃないかと思ったらあっさり消えたあたりであれれってなったけど。
そんな宇品の東側には安芸郡がある。ここも一部は広島市に合併されたがまだまだ単独で残っている自治体もある。その中で一番有名なのが府中町であろう。いわゆる安芸府中で、マツダ本社がある。周辺をすっかり広島市に囲まれてレソト状態だが広島市と合併する気はない。他に筆で知られる熊野町や海田町、坂町も安芸郡に所属している。
少し南へ進むと呉市がある。チームだとルーキーの車成暁がこの呉市出身だ。ここの全盛期は戦前で、海軍の街として大いに発展した。今でも灰色の船が海に浮かんでいる。かつては仁方が呉の東端だったが、平成の大合併でグリーンピアがある安浦なんかも呉市に編入された。
この安浦は元々豊田郡に所属していた。そんな安浦と同じく豊田郡に所属していた東隣の安芸津は東広島市との合併を選択した。これによって東広島市は海に面するようになった。名前こそ東広島だが広島県全体で言うと真ん中からむしろ西寄りに位置している。日本酒で有名な西条なんかがある。それと広島大学も。
安芸津の隣が吉名で、ここから竹原市に突入する。広島県全体で言うと真ん中からやや東寄りってところ。浦はこの竹原市出身だ。平成の大合併の際にはどことも合併しなかったり基本しょぼい町のはずだったのにアニメ「たまゆら」や朝ドラの舞台になったり、近年知名度を高めつつある。うさぎと毒ガスで知られる大久野島も竹原市にあり、大三島も近い。
竹原市の東が三原市。安芸と備後の境界もここにある。この三原市も合併によってかなり大きくなり、本郷に建設された広島空港も今では三原市所属となっている。チームの中では亀井が三原市出身だ。
この三原市の東にようやく本拠地尾道市がある。映画の舞台になったりと知名度は高いのだが自治体として見ると案外小さく、チームでも尾道市出身者は現在野口一人だけとなっている。
基本的には海近くの風景が有名だがホームスタジアムは山の中にあり、交通が不便という声が高まりつつある。最寄り駅は一応新尾道駅ということになるのだろうが、この新尾道駅ほどどうでもいい駅もそうない。在来線と繋がっていない請願駅なので不便。肝心の新幹線もあんまり来ないし、使い道はほとんどない。
尾道の東に福山市があって、これが広島県の東端となる。広島市から福山市までが大体100kmだ。福山市はJFEの工場があったりして結構人口が多いのだがいまいち地味と言うか、広島県民以外における知名度はかなり低いと言われている。チームでは御野と長崎へ期限付き移籍している成田が福山市出身だが、OBを見ても尾道市より福山市出身選手のほうが多かったりする。
ジェミルダート尾道は備後を本拠地とするクラブになりたいと思っている。昔は尾道市が広島県東部の中心都市だったが、その座を福山市に譲って久しい。クラブの現状としても現在の練習場は福山市に所属する沼隈半島にあるなど、尾道という名前でありながらその実質はすでに福山に移りつつある。
そういった現状の中、新スタジアム建設の計画が持ち上がっている。今のスタジアムは山の中にあるので交通の便が良くないし、設備としても限界がある。元々基準を満たしていなかったものを後から改造してどうにか間に合わせたのなので、やはり完璧とはいかないものだ。
毎度毎度ちょくちょく手を加えてはいるが、それは無理に無理を重ねているようなものだ。元々観客席はほとんどが芝生席だったところに固定の観客席を設置したのはいいが、さらに屋根まで必要とあってはもはや新しく作ったほうが安上がりにさえなってしまう。
候補地としては、当然だがある程度まとまった土地がないといけない。しかし尾道市でそのような場所を見つけるのは簡単ではない。そもそも平地が少ないからこそ福山に中心地の座を明け渡したようなものだし。しかし東尾道ならある程度はある。
そして東尾道と隣接しているのが松永だ。今でこそ福山市松永町となっているのだが、今から50年前までは松永市といって尾道と福山の間にある独立した自治体だったという歴史がある。下駄の名産地として知られ、港には貯木場が広がっている。
本当なら福山市の中心部に建てたいという野心もあったのだが、それはどうも難しそうだという流れになっている。競馬場跡などさっさと手をつけていれば良かったがそうはならなかった。あるいは中国地方屈指の汚れた川として有名な芦田川の河口付近にある陸上競技場を改装というアイデアも出たが、それだと今までと変わりないのでこれも却下されそうだ。
それと実質はともかくあくまで尾道という名前だし、今までスタジアムを改装してくれたなどの恩もあるのであんまり露骨に福山になるのもどうかという意見も内部にはある。特にこのクラブを作った辻直広会長は尾道に愛着を持っている。
その他諸々の事情が絡んで、東尾道から松永あたりが現在の本命だ。通称東尾道松永スタジアム建設計画。しかし完成するのは何年後になるものか、それは誰にも分からない。
という流れがありつつ、しかしこれは全て海に面した県南部の話。福山市の北部に神石高原町という自治体がある。名前から受ける印象の通り自然が広がる場所だが、ここ出身の男がチームに新たなる風を巻き起こす事となるのはもうすぐ先の話である。
100文字コラム
荒川と浦は同じFWというだけでなくタイプも瓜二つ。だから浦は練習で荒川に突っかかるなど対抗心全開。一方荒川は「昔ならバチバチやってただろうけどね」と大人の態度も「現状で負ける要素はない」と不敵に笑う。




