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得点その3

 そして約束の4月15日、日曜日。今日は尾道のホームスタジアムである備後運動公園陸上競技場に水戸を迎えて戦いが繰り広げられる。前節と違い天候は晴れ。絶好の観戦日和である。公園内ではつつじの花が見ごろを迎え、緑の葉っぱに赤い花のモザイク模様が美しい。


 ホームスタジアムに一番近い駅は新幹線の新尾道駅である。ここは基本こだましか止まらない上に、すでに福山駅と三原駅がありながら無理して山の中に作ったのであまり需要のない駅と化していたが、このような効用もあるものだ。しかしここから歩いていくのは割と大変だ。なにしろ山の中である。30分のハイキングを楽しみたいならばそれも良いが、試合開催日にはマイクロバスが走っているので、無理せずそれに乗ったほうが良い。


 坂の街と言われる尾道であるがスタジアムはその坂のさらに向こう側にあるわけで、いわゆる尾道的な景色を楽しみたいならばJR山陽本線を利用すると良い。東から来るなら福山駅まで新幹線に乗り、後は鈍行で尾道水道を眺めつつ尾道駅へ、そこから発車のマイクロバスでスタジアムに到着というルートが良い。西からなら三原駅が近い。広島駅から鈍行だとちょっと遠い。呉線経由という大技を使っても良いがそれだともはや観光旅行になる。ゴールデンウィークや夏休みには尾道や呉もいいけど竹原市もよろしくね。


 尾道市と隣接する福山市からもマイクロバスは出ている。福山は広島県で2番目の都市。備後地方の中心地であり人口も割と多いが、宣伝する気がないようで特に県外からの知名度は低い。のぞみが停車するが「なんでここが」と県外の利用者から思われることしきり。岡山県民が「福山は実質岡山県」みたいに言うのは本当に勘弁してほしい。「福山市でクワイの出荷が最盛期を迎えています」というニュースは年末の風物詩である。


 また福山には中国地方屈指と言われる(自主規制)、分別ある大人はそこで楽しむのも良い。近年は廃れたとも地下に潜っただけで現役バリバリとも言うが、私は利用した事がないのでわからない。後は、鞆の浦とかか。競馬も苦しい苦しいと言われるだけがニュースになる感じだし。ううむ、確かにこれといった売りが薄いかも知れない。


 さて、スタジアムにはレプリカをまとったサポーターたちが徐々に集まってきた。駐車場はそこそこ広いので自家用車で行く観客もそれなりに多い。駐車場を確保できるのは山の中にあるメリットのひとつである。混乱を避けるためには公共交通機関が良いが、都会ほど発達していないし、そもそも歩いていくには厳しいし車に頑張ってもらうのは仕方ない。


 サポーターたちがまとう服について。今年の尾道は、上半身は赤を基調に両肩からへそあたりにかけて緑色で太いV字が描かれているというなかなか派手なユニフォームデザインとなっている。背中は緑と赤の太い縦縞で、背番号の字は白である。わきの下からパンツにかけて緑の太いラインが描かれて、ソックスは赤基調で緑の細いラインが2本あるのはアウェーユニフォームの色を反転させた色合いだ。正確には逆だが。


 緑は春ののどやかな太陽に照らされる草原の輝きをそのまま切り取ったような、若々しい躍動感に満ち溢れた色となっている。一方赤は、深く強くそして鮮烈な、まるで血の色のような力強さをたたえている。緑色の芝生で覆われたフィールドを舞台に血と肉を通い合わせた選手たちが躍動するフットボールという競技をそのまま形にしたようなカラーと言える。


 スポンサーは、胸には幸波造船、背中には偶然にもジェミルダートと同じ緑と赤のラインが入ったトラックでおなじみの福山運輸、袖には合成樹脂加工で知られるFP5がそれぞれついている。スポンサー企業を見ても分かるように、尾道というより福山市や場合によっては岡山県の都市をも巻き込む備後都市圏が本拠地の企業から支援を多く受けている。


 また、去年まではスポンサーがついていなかったパンツには、関西を拠点とする精密機械を製造する企業のCanavnがついた。かつてイメージキャラクターとして秀吉がCMに出演していたという縁で今シーズン途中からスポンサー契約を結んだ。ユニフォームに描かれているスポンサー以外にもスタジアムには多くの企業の立て看板が並んでいる。彼らパトロンあってのスポーツ興行である。見るものとしては感謝の一点。


 応援弾幕も多数取り付けられている。「赤・緑・魂(GEMILDATO SPIRITS)」「KEEP ON BURNING」「走れ!長山集太」「闘魂 山田哲三」「時代の申し子 今村友来」「我愛你 王秀民」「尾道一の伊達男 中村純」などなど。テレビではちらりとしか見えないこういった光景もスタジアムでは堂々とその存在を主張している。



 試合開始まで30分を切った。ここでナレーションが始まる。J2昇格以来スタジアムDJを勤めているミッキー田口(本名田口満基)氏による巻き舌を駆使した張りのあるハイトーンヴォイスがスタジアムにこだまする。ちなみにオーロラビジョンはないのですべて電光掲示板によるものである。J1に昇格できるほど力がついた暁にはそういった設備も出来ているのだろうか。


「Jリーグディビジョンツー第8節、ジェミルダート尾道バーサス水戸ホーリックス第1回戦、両チームのスターティングイレブンおよびリザーブメンバーを発表します!」


「うおおおおおおおおおおおお!」


 DJミッキーの言葉に沸き立つゴール裏。まずは女性スタッフが事務的に水戸のメンバーを発表する。茨城県からはるばる訪れた水戸サポーターはその素っ気ないアナウンスを補完するように声を荒げて、愛するチームの勝利へエールを送る。その光景が終わったところで、いわば本番であるDJミッキーと尾道サポーターのコール&レスポンスがスタートする。


「ゴールキーパー! ナンバーワン! 百戦錬磨のガーディアン!

ゲンマアアアアアアアアア、カズウウウユウキイイイイイイイイイ!」


ゲンマッ!(ドドドッ!)ゲンマッ!(ドドドッ!)ゲンマッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ディフェンダー! ナンバースリー! 右サイドの覇者!

ヤマヨシイイイイイイイイイイイ、タカノオオオオオリイイイイイイイイイ!」


ヤマヨシ!(ドドドッ!)ヤマヨシ!(ドドドッ!)ヤマヨシ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバーフォー! 空にそびえる鋼の城壁!

モンテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエロ!」


モンテーロ!(ドドドッ!)モンテーロ!(ドドドッ!)モンテーロ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバーファイブ! ディフェンスラインの統率者!

ミナアアアトオオオオオ、シゲミイイイイイイイイイイイイイイイイツ!」


ミナトッ!(ドドドッ!)ミナトッ!(ドドドッ!)ミナトッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバーフィフティーン! 頭で走る左サイドバック!

コハラアアアアアアアアアアアアア、シンンンンペエエエエイ!」


コハラッ!(ドドドッ!)コハラッ!(ドドドッ!)コハラッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ミッドフィールダー! ナンバーセブンティーン! ゲームコントローラー!

カメイイイイイイイイイ、トモオオオオオオヒロオオオオオオオ!」


カメイッ!(ドドドッ!)カメイッ!(ドドドッ!)カメイッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバーセブン! フィールドの空間把握能力者!

イマムラアアアアアアアアアアアアアアアアアア、トモキ!」


トモキッ!(ドドドッ!)トモキッ!(ドドドッ!)トモキッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバーテン! レッドアンドグリーンのブレインマイスター!

カネエエエエエダアアアアアアアアア、マサアアアアカアアアアズウウウウウウ!」


カネダッ!(ドドドッ!)カネダッ!(ドドドッ!)カネダッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバートゥウェンティーフォー! レインボードリブラー!

ミノオオオオオオオオオオオオ、テエエエエエエエエエエエエル!」


テールッ!(ドドドッ!)テールッ!(ドドドッ!)テールッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「フォワード! ナンバーシックスティーン! レッドアンドグリーンの最終兵器!

アリカワアアアアアアアアア、キヨオオオオオシイイイイイイイイ!」


アリカワ!(ドドドッ!)アリカワ!(ドドドッ!)アリカワ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ナンバートゥウェンティーセブン! 世界を知る幻のストライカー!

アラカワアアアアアアアア、ヒデエエエエエエヨシイイイイイイイイイイ!」


ヒデヨシ!(ドドドッ!)ヒデヨシ!(ドドドッ!)ヒデヨシ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「続きまして、リザーブメンバーの紹介をします」


「ゴールキーパー! ナンバートゥウェンティー! PKセーバー!

ウサアアアノオオオオオオオオオオオオ、リュウウウウウウウウ!」


ウサノッ!(ドドドッ!)ウサノッ!(ドドドッ!)ウサノッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ディフェンダー! ナンバーツー! レッドアンドグリーンの突貫小僧!

ナガヤマアアアアアアアアアア、シュウタアアアアアアア!」


シュータ!(ドドドッ!)シュータ!(ドドドッ!)シュータ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ディフェンダー! ナンバートゥウェンティーファイブ! 頭脳的ディフェンス!

スズキイイイイイイイイイイ、ヒトオオオオオオオシイイイイイイイ!」


スズキッ!(ドドドッ!)スズキッ!(ドドドッ!)スズキッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ディフェンダー! ナンバートゥウェンティーシックス! ムードメーカー!

フカアアアダアアアアアア、コオオオオオオヘエエエエエエイ!」


フカダッ!(ドドドッ!)フカダッ!(ドドドッ!)フカダッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ミッドフィールダー! ナンバーサーティーン! レッドアンドグリーンのバランサー!

ナカムラアアアアアアアアアアアアアアアアア、ジュウウウン!」


ジューン!(ドドドッ!)ジューン!(ドドドッ!)ジューン!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「ミッドフィールダー! ナンバーナインティーン! 爆発スプリンター!

カヤノオオオオオオオオオオオオ、ユウマアアアアアア!」


カヤノッ!(ドドドッ!)カヤノッ!(ドドドッ!)カヤノッ!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「フォワード! ナンバーナイン! フライングチャイナマン!

ワアアアアン、シュウウウウウウウウウミイイイイイイン!」


シューミン!(ドドドッ!)シューミン!(ドドドッ!)シューミン!(ドドドッ!)オーーーー、オイ!(ドン!)


「そして我らが指揮官、4年目となる今季は本気で昇格を目指す!

ミズサワアアアアアアアアア、タケエエエシイイイイイイイイイイイ!」


ジェミールダート!(ドドンドドンドン!)ジェミールダート!(ドドンドドンドン!)以下繰り返し


 まとめると以下のようなメンバーとなる。


スタメン

GK  1 玄馬和幸

DF  3 山吉貴則

DF  4 モンテーロ

DF  5 港滋光

DF 15 小原伸平

MF 17 亀井智広 

MF  7 今村友来

MF 10 金田正和

MF 24 御野輝

FW 16 有川貴義

FW 27 荒川秀吉


ベンチ

GK 20 宇佐野竜

DF  2 長山集太

DF 25 鈴木仁

DF 26 深田光平

MF 13 中村純

MF 19 茅野優真

FW  9 王秀民


 前節のレッドカードで出場停止となった山田のポジションであるボランチにはルーキーの亀井が抜擢された。2試合目にして初のスタメンである。また、同じくルーキーの茅野が初めてベンチ入りを果たした。身体能力のかたまりのような選手で、高校時代は現在J2和歌山に所属している桐嶋や西谷が在籍していた薩摩実業と激しい戦いを幾度も繰り広げてきた。すでにポジションを掴んでいる彼らには負けられないという思いも強い。

100文字コラム


中村金田久保ら大卒選手が学生時代の思い出話をしていた。一番盛り上がったのはバイトの苦労話だったが一人浮かぬ顔で「うちのサッカー部はバイト禁止だったから」と小原。その分サッカー一色の四年間だったそうだ。

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