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幻のストライカーX爆誕(仮題)  作者: 沼田政信
2016 頂点を我が手に
168/334

暗闇探検その2

プレミアム感とか意味不明なことを口走りつつ本作の投稿を開始したのがちょうど4年前の2012年2月29日でした。今回はその記念、と言うにはあまりにも半端な内容ですが一応そんな日です。途中休止した時もありましたが本作を書き続けたまま二度目の閏日を迎えるとは思いませんでした。こんなのでも続けていくと意外と読者がついてくださり、本当にありがたいものだと心から感謝しています。今後のプランは特にありませんが続くまでは続けます。

「ああ、やっちまった……。しかしどうすんだよ、これ」


 スリーバックからの攻撃サッカーを掲げてスタートしたはずが前半10分たたぬうちにトラブル発生という慌ただしさに岩本は、いや、岩本だけでなく尾道の選手スタッフ一同は頭を抱えた。


「シモンの気性は承知していたがまさかこれほどとはな」

「早速見込み違いだがどうするんだ監督さんよ?」

「……時間も時間だし、フレキシブルに対応するしかあるまい」


 ベンチではアシスタントコーチの古谷龍樹と佐藤幸仁監督が話し込んでいた。一人退場となると当然フォーメーションにも変更があってしかるべき。その際にどこを重視するかが腕の見せどころとなる。


 佐藤監督は選手交代を指示しなかった。代わりに結木と御野のポジションを下げてサイドバックとした。前への突破力は下がるがやむを得ない。そして亀井と村松のダブルボランチも守備的な仕事をより多くこなすように指示を出した。そして河口も二列目辺りに配置。


 フォーメーションで言うと4-3-2に近い形に修正したのだ。守備に最大限配慮しつつも前線の迫力も必要という事で交代はなし。その代わり守備を固めてからのカウンターに活路を見出そうとした。


「こうなりゃもう、やるしかねえよなあ讃良よ!」

「うん」


 ディフェンスリーダーを任された岩本は若い讃良の肩を叩いた。讃良は動じる事なく首を縦に振った。明らかに頼りない二人だが基本的に身体能力は高い。組織としての動きも要は去年のスタイルに一時的に戻ったと言えるわけで、そこはコーチ時代の佐藤にしっかりと叩き込まれた部分なのでうまくこなした。


「よし、もらった! 後は頼むぞ!」


 ボールをカットするととりあえず素早く前線の河口に預け、河口は選手の攻め上がりや相手ディフェンス陣の陣容を見極めつつシンプルにパスを出す。結木や御野がオーバーラップしてきたらそっちに回してクロスを上げ、最前線の野口に託す。


 一つ一つのプレーはさほど難しいものではない。しかしそれぞれに信頼がないと、そのシンプルさゆえに簡単には決まってくれないものだ。そしてこの流れをぶった切るジョーカーとして浦がいた。


「何にせよ点を取って点を取られなきゃ俺達は勝てるんだ。これでもくらえ!」


 前半37分にはペナルティエリアから10m離れた場所から強引なシュートを放ったが、これが見た目以上に伸びやかなシュートとなって相手ゴールを強襲した。最初は余裕を持って見送ろうとしていたGKが慌てて差し出した右手に直撃して惜しくもゴールは逃したものの、浦の突発的で予測不能なプレーは相手ディフェンス陣を混乱させた。


「何だあいつは!? ドリブルも案外達者だしシュートも強い。そして何より次に何をやってくるかまったく分からねえ!!」


 次第にマークされる機会が多くなっていく。それによって他のマークが軽くなった隙を尾道は狙っていた。


「今がチャンスだ! 突撃だテル!!」

「おう!」


 間もなく前半アディショナルタイムというところで河口からボールを受けた左サイドの御野が中央に切り込むドリブルを見せた。最前線の野口と浦を警戒していた仙台ディフェンス陣は御野の切れ味鋭いドリブルに対応出来ず、ゴール前までの侵入を許してしまった。


「ええい、御野を止めろ!」

「もう遅いぜ!」


 ようやくマークに回ってきたディフェンダーをあざ笑うように御野はノールックのまま真横にパスを入れた。そこにはいつの間にか最前線まで駆け上がっていた讃良がいた。


「あれっ、お前?」

「よっしゃあ! もらったああああああああああ!!!!」


 確か亀井が上がってるはずだったのになんでという御野の疑問をよそに、一切のためらいなく振り切られた讃良の左足から放たれた奇跡的なまでにストレートな球質のシュートはGKの反応速度を超越し、まっすぐゴールネットまで突き刺さった。


「やったぜ!!」


 誰もが驚嘆する視線の先で、讃良はいたずらっぽく右手を折り曲げてガッツポーズを作った。そこに野口が河口が御野が、前線の選手たちが祝福に集まってきた。


「やるじゃねえか讃良!」

「へへっ、実力っすよ実力!」

「ほざきやがって! だが本当いいシュートだったな!」

「ってかカメはどうしたんだ? カメに出したはずなのにお前がいてびっくりしたぞ」

「代わってもらいました。俺いくからって」

「ほーう、まあ何にせよ良かったな」


 先輩たちからの手洗い歓迎を受けて有頂天の讃良を苦々しげに見つめる男がいた。


「ちっくしょーめ! やってくれるじゃねーかアキラ!」

「おう! ケンジお前がもたついてたから先にもらったわ!」

「負けねえぞ! 今日中に絶対追いついてやるからな!」

「おうおうどうぞどうぞ! だがまあ、まずは前半しっかり終わらせようぜ!」

「ああ、そうだな!」


 ストライカーたる自分がディフェンダーの讃良に遅れを取るとは。浦にとって耐え難い屈辱であった。前半はその通りに1対0のまま終了した。いきなりのアクシデントからうまく体勢を立て直し、しかも望外のリードまで奪えたのだから計算以上の出来と言えた。


「まずはいい流れでここまで来たが、大事なのはこれからだ。45分、守りきるんじゃなくて攻めていこう。お前達がよくやってくれたから交代枠はまだ使っていない。特にセンとテル、後半も走っていこう!」

「おう!」


 そして後半、佐藤監督はタイミングを見計らって御野と宮地、結木と佐藤を交代させた。ともに経験豊富な選手で、彼らを使って試合をソフトランディングさせようという作戦だったがそう思い通りには運ばなかった。そしてそれは唐突に訪れた。


 後半33分、何でもないディフェンスラインでのボール回しの最中に讃良がトラップをミス。それを敵にかっさらわれてそのまま失点を喫してしまったのだ。そこに劇的な何かは存在せず、無音のままリードは霧散した。


「……まあ、しゃーない! 切り替えていこう」

「くっ……」


 楽天家の讃良もさすがに自分のミスで最悪の結果を招いたとなると拳をわなわなと震わせて俯いていた。それを盛りたてる岩本という構図は去年までなら絶対にありえなかった。


 この時、佐藤監督は内心で逡巡していた。讃良の足元が不器用なのは当然知っていたからだ。より安定を求めるならもっと早い段階でセンターバックの中ノ瀬を投入する手もあったがそれを採用しなかった。中ノ瀬はテクニックもそれなりに高く、このようなミスでの失点はなかっただろう。


 讃良を信じていたし、得点を決めたのだから交代させるより勢いのままでという考えもあったので迷った挙句、この失点を招いたのは自分の采配ミスか。しかし後ろを向いても始まらないと挫けそうになる心を奮い立たせた。


「ヒデ、出番だ」

「了解!」


 最後まで勝負を諦めはしない心こそが勝利を呼び寄せるはずだ。点を取りに行く。チームとしての結論はそれであった。

100文字コラム


新加入の中ノ瀬はディズニー映画に詳しい。先日小河内に「昔ビデオで見たけど、骸骨の敵が怖い奴あったよな」と聞かれるも「コルドロンでしょ」と即答していた。なお本人が一番好きなのはラマになった王様だそうだ。

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