18位とは言わせない
覚悟は出来ていた、はずだった。しかしいざ生々しい現実をまざまざと見せつけられると感情を抑えきるのは非常に難しいものである。
18位 尾道
18位 尾道
18位 尾道
18位 尾道
18位 尾道
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以降も同様の表記が延々と続く。雑誌に載った今シーズンの順位予想である。編集者やライター、評論家たち総勢30人のうち28人が18位、つまり最下位は尾道であると予想したのだ。以下はその雑誌に掲載されていた元プロ選手3人による対談において尾道に言及した部分である。
B:プレーオフを制して初の昇格となった尾道はどうだろう?
A:FWには野口、DFには岩本と身長のある選手を加えたけど全体的にはやっぱりJ2の強豪って雰囲気ですね。いいチームではあるんだけど……。
C:僕もAさんと同意見ですね。例えば去年の和歌山は攻撃の凄まじい爆発力という無二の個性があった。まあ和歌山は極端すぎるにしても、今までも残留を決めるチームってのは自分たちの目指すサッカーがしっかりと確立していたんだよね。
A:鳥栖なんかもそうだったよね。
C:それと比べると尾道はここが強みだって部分が見いだせない。バランスがいいって言い方もできるけど、下のレベルでまとまっていても上では通用しないってパターンにはまりそう。
B:僕もそこが気になるね。リーグのレベルからして違ってくるから。尾道は上のレベルで言うと特別守備が強いわけでもないし、さりとて攻撃もね。
A:芳松の移籍は痛い。和歌山から戻った野口の爆発に期待するしかないか。
B:ただその野口や亀井、そして結木も五輪代表候補としてシンガポール遠征にも選出されたね。こういう若い選手のさらなる成長があれば面白いけど。
C:逆に疲労が心配だ。正岡監督を中心によくまとまったサッカーをしてて、好感の持てるチームだから頑張ってほしいんだけどね。とにかく序盤戦が鍵になるでしょう。ここでつまずくようだとズルズルと行ってしまうから。
一応尾道を応援するサポーターも見ている手前露骨な言い回しは避けているものの、全体のベクトルとしては「尾道は厳しいだろうな」という方向で3人ともまとまっているのははっきりとしていた。実際順位予想でもこの3人は尾道を18位に置いている。
そもそも「序盤戦が鍵になる」などと言っているがその序盤戦こそ鹿島、広島、横浜と強豪クラブとの対戦が連発していきなり修羅場と化している。「尾道は運が無いな。ただでさえ戦力的に厳しいのにいきなり強豪と当たってボロボロにされるんだから。リズムを掴む頃にはすでに下位独走で結局降格のパターンだな」と思われているのは順位予想からも明白である。
ちなみに18位と言わなかった二人のうち一人は雑誌の尾道担当で、もう一人は今年から評論家となった港滋光であった。言うまでもなく、去年まで尾道に所属していた男である。評論家として最初の仕事と言える順位予想は、それゆえに周囲の失笑を買うような内容であった。
「まあシゲさんは優しい人だからね。そりゃあ古巣を最下位予想なんて出来ないよね」
「この仕事は1年目だから仕方ないよ。来年からはもっと客観的な視点が身につくだろうから」
しかし港は九州沖縄各地を回ってキャンプを視察した結果としてこのような予想を導き出したとなかなかに自信満々だ。いわく「守備は確実に通用する。問題は攻撃だが野口加入でパワーが増した。和歌山のような勢いはないが残留しても何も不思議ではない」との事。
「シゲさんに恥をかかせないためにも頑張らないとな」
尾道のチーム内ではこのようなモチベーションも生まれているなど一体感は日に日に高まっている。では実際のところ尾道の実力はどの程度なのかをポジション別に論じていきたい。
まずGKは昨年同様蔵と宇佐野によって争われそうだ。しかしJ1レベルという観点で言うと蔵は安定感こそあるものの総合的には二番手が精一杯かと思われる。宇佐野は未知数だが、まずはJ1のスピードとパワーに慣れる必要がある。ともに盤石の守護神とは言い難いだろう。
昨年は三番手だった松井が退団した代わりにオーストラリア人の若手GKエマーソンを獲得した。エマーソンは長身こそ売りだが練習を見てもまだまだ動きが緩慢でポジション争いに顔を出すレベルではなさそう。現状はやはり蔵と宇佐野に任せるしかないが、容易い道ではなさそうだ。
センターバックは昨年、橋本と布施という高さはそこまででもない代わりに豊かなスピードを誇る二人が主にコンビを組んでいた。スペースを埋める速さは間違いなくJ2では屈指だったが同時に高さはJ2レベルでも明らかに不足していた。対戦相手の監督が「尾道さんは高さに欠けるので」「パワープレイで弱点をついた」といった談話を残す機会は非常に多かったのを記憶している方も多いであろう。
そこで獲得したのが岩本正である。身長191cmは尾道に在籍する日本人フィールドプレーヤーの中では最長となる。昨年は怪我もあり出番が減少していたところ、柏でチームメイトだった桂城の勧誘などもあり移籍を決断した。高さとパワーは折り紙つきで、一つ弱点は埋まったと言えるだろう。しかし持ち味であったスピードの低下は否めない。高さとスピードのバランスをいかに取るか、正岡監督には慎重な舵取りが要求される。
サイドバックは右に結木、左に井手で盤石だろう。中盤からコンバートされた結木の正確なクロスと井手の豪快なドリブル突破はJ1においても十分通用するレベルにある。ただ控えとなるとかなり見劣りするのも事実。その場合一番手は佐藤となるだろうが、守備はともかく攻め上がりはあまり期待できまい。
ボランチは世代別代表に選出された亀井が中心。しかしその相方として申し分のなかった蒔田が移籍したのは痛い。守備的な山田か、ユーティリティな佐藤や川崎の可能性もあるがいずれも傑出した力はない。そもそも亀井も昨年後半は不調のためスタメン落ちも多かった。ルーキーの二木も評価を高めつつあるがどれだけやれるかは未知数である。とにかく、亀井の復調は不可欠と断言できる。
二列目は本来柱となるべきドリブラー御野が前半戦絶望という悲報も、全体的なメンバーを見るとそこまで悲観するものでもない。昨年台頭したスピードスター竹田にキャプテン桂城、そして新外国人のゼ・マリアも面白い。身長は低いが強引なドリブル突破から強烈なシュートを放つという個人技に長けた選手で、チームに馴染めば強力な武器となるだろう。ユース出身の成田にも期待。
FWは当然野口が軸となるだろう。昨年は期限付き移籍の和歌山で9得点と一定の結果を残した。長身に肉体も追い付いてきてさらなる爆発の予感が漂う。最後尾に岩本、最前列に野口と大型選手を加えた事でチームの軸ができたのは大きい。また、それ以外にもテクニシャンの河口やタフな小河内といった選手もポテンシャルは高い。
そして何より楽しみなのは荒川秀吉である。所属クラブがJ1なのは実に2000年以来。2000年といえばまだ20世紀だったのだ。総理大臣は小渕恵三が倒れて密室での話し合いで森喜朗が後を継ぎ、その森は発言の軽さなどで国民からの評判は最悪だった。そこから小泉純一郎が高い人気を背景にやりたいように動き長期政権を築いたが、それからは1年毎に総理大臣が変わった末に政権交代して、その民主党政権もさっぱりだったのでまた自民党が政権奪還して、そして今の2015年へと至る。
それほどの時を経て降臨した幻のストライカーがどれだけの活躍を見せるか。あるいは尾道最大のキーマンは彼なのかもしれない。
総じて言うと要所要所に優秀な選手は多いが選手層の薄さは否めない。そもそも尾道の主力選手は亀井、竹田、御野などずっとJ2でプレーしてきた若手と橋本、岩本、桂城などJ1では準レギュラーや控えクラスだった選手で構成されている。未知数な部分が多いので評論家からの評価が低くなるのも致し方のないところであろう。
それにプレーオフを勝ち抜いて昇格したクラブがこれまで毎年のように1年で跳ね返されているという現実も横たわっている。尾道はシーズン3位でプレーオフを勝ち抜いたもののJ1で18番目という事実は受け入れなければならない。18番目のチームが実力相応の戦いをしていれば降格するのは当然であり、最下位と予想されるのもそのような現実があるからこそだ。
しかし、ならば多くの評論家が言うように残留は不可能なのかと問われればはっきりと否定できる。なぜなら尾道には正岡監督を中心に、いや、前監督である水沢威志時代から綿々と受け継がれてきたチーム一丸となって実力以上の力を発揮するという伝統があるからだ。そしてそれを知っているのは港ぐらいのものである。
団結。これこそが尾道がその手に掴んだ唯一にして最大の切り札である。この武器を長いシーズン、荒波に揉まれる時も手放さず勇気を持って立ち向かい続けられたなら、その時には素晴らしい結末が待っているだろう。
それと本日はフジゼロックススーパーカップがあったが、浦和の相変わらずっぷりが際立つ一戦であった。ボールを良く保持していたが得点には至らずセットプレーから逆に先制点を奪われる。選手交代もあまり意味なく試合終了間際にとどめを刺されて敗戦といういつもの流れ。あれではまた無冠だ。
ガンバは浦和対策として前半は耐えて後半勝負って事だったんだろう。前半は正直たるかったけどパトリック投入あたりから力がみなぎってきたかなと思ったら案の定先制した。しかしACLもあるので長谷川監督は大変だろうと思う。これで連覇でもしたら本物だが、そううまくいくか。
100文字コラム
昇格祝いか竹田布施桂城と結婚ラッシュの尾道にあって孤塁を守る荒川。「だから結婚願望はあるって」と冗談めかしつつも「顔を洗った時に肌の吸水力が落ちてる感じがするよ。老いは怖いね」といつになく気弱な嘆き。




