無自覚チート令嬢、婚約破棄からの大逆転ざまあライフ!?~追放宣告された悪徳令嬢、幼馴染のスパダリと共に国から逆に縋られる件!~
大講堂に集められた生徒たちの視線が、一斉にわたしへ突き刺さる。
「ヴィオレッタ・グランディエ! 貴様の数々の悪行、この俺が全て暴いてやる!」
婚約者――もとい、"元"婚約者になるらしいレオナルド王太子が、壇上でびしっと指を突きつけてきた。芝居がかったその仕草、鏡の前で百回は練習したなと確信する。
「あら、殿下......今日はまたずいぶんと威勢がよろしいこと。朝ごはん、卵を三個も召し上がったようで。このご時世に金遣いが荒いと侍女の方が嘆いていらっしゃいましたよ?」
「な……っ、話をそらすな! お前は聖女候補であるミレイユを虐げ、階段から突き落とそうとしたな!?」
「突き落とそうとした、ではなく、突き落とすところだった、の間違いでは? わたくし詰めが甘いことは自覚がございませんの」
会場がざわめく。悪女が開き直る.......定番の流れだ。こんなのも手慣れたものである。
隣に控えていた男爵令嬢――ミレイユが、うるうると涙目でこちらを見上げてくる。うるさいくらいに完璧なタイミングで。
「ヴィオレッタ様は、いつも私に意地悪ばかり……怖くて夜も眠れませんでした」
「あら奇遇ね。わたくしも貴女の白々しい演技のせいで夜も眠れませんの。おそろいですこと」
「くっ、まだそんな態度を……! よかろう、ヴィオレッタ・グランディエ! 貴様との婚約はここに破棄する! そして貴様を国外追放とする!」
割れんばかりの拍手が起きた。まるでよくできた演劇の幕引きを見ているような、清々しい顔ばかりが並んでいる。
……本当に、清々しいったらない。
こちらとしても正直、そろそろ潮時だと思っていたところだ。この婚約、最初から気が進んでいなかった。何せ相手はパンにジャムを塗る量で毎朝癇癪を起こす男である。モラハラにも程がありますわ。
「かしこまりました。追放......謹んでお受けいたしますわ」
「ふ、覚悟がいいな。だが甘い! お前の家、グランディエ公爵家にも相応の処分が――」
「.......殿下」
低く、静かな声が講堂に響いた。声の主が一歩前に出た瞬間、会場の空気が変わる。
「ク、クラウス卿……!?」
王太子の顔が引きつった。無理もない。現れたのは、この国の騎士団長の息子にして、わたしの幼馴染――クラウス・フェアバンクスだったからだ。
「グランディエ公爵家への処分は、僕が黙って見ているとでも?」
「な、なぜお前がしゃしゃり出てくるんだ! お前はただの騎士見習いだろう!」
「ただの、ですか。それは面白い冗談ですね......殿下。ちなみに僕、来月付けで近衛隊長に昇格予定なんですが、ご存知でした?」
会場が凍りついた。誰も知らなかったらしい。わたしも初耳である。
「く、クラウス……あなた、いつの間にそんな……」
「言ってなかったっけ。まあいいさ。それより――」
彼はこちらへ歩み寄ると、ふいにわたしの手を取った。周囲から小さな悲鳴が上がる。令嬢たちのものだ........理由は聞くまい。
「ヴィオレッタ.......追放になるなら、僕も一緒に行くよ」
「は? 何を言って――」
「言っておくけど、君が毎晩こっそり孤児院に食料運んでたの、知ってるからね。あと、階段から落ちかけたミレイユ嬢を、突き落とすどころか"支えてた"のも見てた」
「ふふふ……なぜそれを黙っていたの.......?」
「面白かったからな!」
このスパダリ、腹立たしいことに笑顔が眩しい。
その時だった。講堂の隅で、体調を崩した侍女が突然倒れ込む。周囲がざわつく中、わたしは考えるより先に駆け寄っていた。
「大丈夫? しっかりして」
肩に触れた瞬間――手のひらから、淡い光が溢れ出した。
「な……なんだこの光は……!?」
侍女の顔色が、みるみるうちに戻っていく。呼吸も安定する。会場中がしんと静まり返った。
「……治癒の、光……?」
呆然と呟いたのは、聖女候補として崇められていたはずのミレイユだった。彼女の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「ま、まさか……本物の聖女は……!?」
「教会に確認を取ります!」
騒然とする会場。慌てて駆け込んできた大司教が、震える声で告げた。
「グランディエ公爵令嬢の魔力反応、聖女紋章と完全一致……! なぜ今まで気づかなかったのだ……!」
「……わたくしが、聖女?」
自分でも心底驚いていた。嘘偽りなく、初耳である。
「あー、なるほどね」
クラウスが得心したように頷いた。
「だから君は風邪ひとつ引かないし、僕が怪我した時もなぜかすぐ治ってたのか」
「え、それって……」
「気づいてなかったの? 君、無自覚で僕のこと何回も治療してたんだよ」
会場は完全にお通夜状態だった。婚約破棄された悪女が、実は国の宝である聖女で、しかも近衛隊長候補の護衛付き.......もはや誰も何も言えない。
「れ、レオナルド殿下……こ、これは一体……」
震える声で尋ねたのは宰相だった。王太子は真っ青な顔で立ち尽くしている。
「わ、私は、その........知らなかったのだ……本物の聖女がヴィオレッタだったなど……」
「あら殿下.......」
わたしは扇を広げ、にっこりと微笑んだ。
「知らなかったでは済まされませんわよ。だって殿下、先ほど『国外追放』とおっしゃいましたもの。聖女を国外追放する国――他国からしたら、こんなに美味しい話はございませんわね」
「そ、それは……」
「隣国、聖女には破格の待遇を用意すると聞いておりますの。ねえ、クラウス」
「うむ、実はむしろ向こうから熱烈に誘われてるくらいだよ」
王太子の顔から完全に色が抜けた。
「ま、待て......! 待ってくれ!! 撤回する! 追放は撤回する! だから......」
「ふふふ、すでに手遅れですわよ、殿下。わたくし、もう荷物をまとめる気満々でしたのに」
くすくすと笑いが漏れる。先ほどまでこちらを断罪する空気だった講堂が、今や完全に真逆の空気に包まれていた。
講堂を出ようとした、その時だった。
「殿下! 大変です!」
血相を変えた文官が駆け込んでくる。
「隣国の大使より、緊急の親書が届いております!」
「今はそれどころではない......! 後にしろ!」
「それが……聖女殿下について、です」
その一言で、講堂が再び静まり返った。文官が震える手で親書を読み上げる。
「『此度、貴国が聖女ヴィオレッタ・グランディエ嬢を国外へ追放すると決定した件について、我が国は深い憂慮を表明する。もし本人が望むのであれば、我が国は身分に相応しい待遇をもって正式に迎え入れる用意がある』……以上です」
「な……!?」
レオナルド殿下の顔が引きつる。さらに文官は、追い打ちをかけるように続けた。
「また、隣国の大商会からも連絡が。グランディエ公爵家との取引継続を希望するとのことです」
「そんな馬鹿な……!」
「加えて、国内の治癒院からも聖女殿下への協力要請が殺到しております。すでに市井では、『聖女を追放しようとした王太子』という噂まで広がっているようで……」
レオナルド殿下が絶句する。けれど、わたくしはただ静かに扇を開いた。
「まあ。ずいぶん大変なことになっておりますのね」
「お前……!」
恨めしそうな視線が飛んでくる。されど、わたくしは肩をすくませた。
「わたくしは何もしておりませんわ。殿下がご自分で『国外追放』と仰ったのでしょう?」
「……っ」
「ですから、どうぞご安心くださいませ」
わたくしは優雅に一礼する。
「殿下のご命令通り、わたくしはこの国を出て差し上げますわ」
そして、クラウスの隣へ並ぶ。
「ただし――わたくしがいなくなった後、何が失われるのかは、殿下ご自身でゆっくりお考えになってくださいませ」
背後から、王太子の絶望した声が聞こえた。
「……待ってくれ、ヴィオレッタ……」
もう振り返る必要はなかった。わたくしを捨てたのは.......彼自身なのだから。
「では、行こうか。ヴィオレッタ」
差し出されたクラウスの手を、わたしは迷わず取った。
「あら、追放じゃなくて隣国からのスカウトに乗るだけですけれど。いいのかしら、こんな悪女についてきて」
「悪女で聖女で........僕の幼馴染。それで十分すぎるくらいだよ」
背後で王太子が「待ってくれ! 話し合おう!」と叫んでいるのが聞こえたが正直知ったことではない。
――こうしてわたしは、断罪されたはずの舞台から、笑いながら退場したのだった。
馬車へ向かう途中、クラウスがふいに足を止めた。
「.......ヴィオレッタ」
「なにかしら?」
「これからは、僕が君を守る」
そう言って、彼はわたしの手を優しく握り直す。
「聖女だからじゃない。公爵令嬢だからでもない。君がヴィオレッタだから、誰よりも大切にしたいんだ」
「……まあ」
思わず頬が熱くなる。
「それに、隣国へ行くなら僕も行く。君が望むなら、世界の果てだって構わない」
「随分と過保護ですことね」
「今まで我慢していた分、これからは遠慮しないつもりだからね」
にっこりと微笑む彼の顔は、どこまでも爽やかなのに妙な迫力があった。
「……覚悟しておいて、ヴィオレッタ」
「何をですの?」
「僕が君を、誰より幸せにするってこと」
その言葉に、胸が小さく高鳴った。
――婚約破棄から始まった、わたしの人生最大の逆転劇。
どうやらその先には、聖女としての未来だけではなく、とびきり過保護な幼馴染との、甘く騒がしい毎日まで待っているらしい。
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今後のクラウスとの関係や殿下の行方など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




