神様の案内
「神様は輪廻転生の手伝いはしないんですか?」
「しないな」
「なんでですか?」
「面倒だからだ」
「仕事、サボりすぎですよ」
呆れながらため息を吐いたが、神様は知らぬ存ぜぬといった表情で、それ以上は何も言わなかった。
俺は、一応死んだらしい。
気がついたら、この天界にやってきていた。
一言目にちょうだいしたのは、「輪廻転生できるから好きな世界を選べ」だった。
そんな簡単に決められませんよと言うと、ここでいろんな世界を『覗き見見学』して決めればいいと言われた。
だから、俺はいつまでもここに居座っている。
「興味のある世界はあったのか?」
そう問われても、う〜んと唸ってしまう。
「剣と魔法の世界やら、ハーレム世界やら、他の人間は喜んで選ぶのにな」
「すみません、欲がなくて」
「人間はいろんな奴がいて面白いから、問題ない」
神様はなぜか悲しい目をしながら、そう呟いた。
いや、俺にはそう見えた、ってだけかもしれない。
「これだけ無数にあったら、選ぶの難しくないですか?」
「だいたいの奴は、ピンときたと言って飛び込むぞ」
「なにその度胸、すげえぇ……」
今日は、貧困でどこか仄暗い世界を上から覗き込んで見学していた。
なんだか見ていると落ち着かない、そんな世界だった。
この世界を選ぶ人もいるのかな。
「神様は輪廻転生の案内以外、何をしているんですか?」
「世界が偏らないように調整…、と言いたいが、まあそんなことは不可能だな」
「そんなこと言っちゃっていいんですか?」
「神の予想を超えていくのが、人間の業というやつだからな。お前らは見ていて飽きん」
「左様ですか…」
神様は、ここで何を見ているんだろう。
「あー、あとは魂の憑依者を生まないように監視することだな」
「違う体の持ち主の中に入っちゃう、あれですか?」
「ああ、まあそれも見れる範囲だから、ほとんど無理だがな」
「神様、仕事しなさすぎでは…?」
「神は基本的には傍観者なんだよ」
「ええぇ…?なんかずるい」
「神だからな」
そこまで言うと、フンと偉そうに鼻を鳴らした。
いや、たぶん俺よりは偉いんだけど。
「どこもピンとこない人間は、どうしたらいいんでしょうねぇ」
俺の呟きは聞こえなかったのか、何も返事がなかった。
「おい、今日は違うところに案内してやる」
神が珍しく自主的に案内してくれると言ったので、不思議に思いながらあとをついていった。
ずっと端っこにあった世界は、モノクロだった。
見たことあるような、ないような、ここまで見てきた世界よりも地味な世界に見えた。
俺はそこを覗き込みながら、手を伸ばしたくなった。
「どうだ?」
「どうだと言われると、俺に馴染みやすそうとは、思いますね」
「そうか」
神様はそれ以上何も言わずに、世界の縁に座り込んでただじっと見ていた。
俺も倣って、隣に座った。
ゆっくり流れていく世界の時間を、ただ見ていた。
派手なことも起こらず、魔法や異能も使えず、ただ人の暮らしがあるだけだった。
そうやって、どれだけの時間見ていたかわからないが、とある男がフラフラ歩いているのが見えた。
顔色の悪い、貧相な男だった。
「あ」
気づいたら、声が漏れていた。
神様が、目を細めた気がした。
「あの男の人が、いい、です」
「そうか」
「え、っと、世界じゃなくて、個人を選ぶなんてできるんですか?」
「普通はできねえが、まあ、できるぞ」
歯切れの悪い言い方だったが、神様はどこからか書類を出すと、俺に差し出した。
「ほれ、サインしろ」
「俺、自分の名前わかりません」
「手形でいい」
「はい」
言われるがままに手形を押して、疑問に思いながらも、手続きが完了した。
俺の体が透けていくのが、わかった。
「………なんで、あの男にしたんだ?」
神様の低いとも高いとも違う不思議な声音が響いた。
「なんでなんでしょう。わかりません、ただ」
「ん?」
「あの人だって、ピンときた?みたいな?」
「ははっ、お前たちはいつもそれだな」
神様は、乾いた声で笑った。
「もっと良さそうな奴でも選べばいいのに」
「たしかに、そうですね…、もっとマシな世界、いっぱいあったのになぁ。なんでだろう」
「さあな。じゃあ、達者でな」
神様の眩しい顔が見えて、俺はそこから消えていった。
「…やっぱり、お前は『また』同じ自分を選ぶんだな」
神様の独り言が零れても、天界にはもう神しかいない。
あの男は、同じ人間を選び、また同じ人間の人生を一から送り、また天界に戻ってきて、同じように自分を選ぶ。
それを何度も神は見送ってきた。
基本的に個人を選ぶのは不可能だが、自分を選ぶなら別である。
時間を巻き戻し、世界を巻き戻し、何度でも自分をやり続ける変わった人間を、神はたまたま覚えていただけだった。
「何度も自分を選ぶ奇特なやつめ、これだから人間は面白い」
そう笑って、また彼がやってくるまで、神は自分の仕事に戻るのだった。
神は、見守るのが仕事なのである。
了
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