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神様の案内

作者: 有梨束
掲載日:2026/05/26

「神様は輪廻転生の手伝いはしないんですか?」

「しないな」

「なんでですか?」

「面倒だからだ」

「仕事、サボりすぎですよ」


呆れながらため息を吐いたが、神様は知らぬ存ぜぬといった表情で、それ以上は何も言わなかった。



俺は、一応死んだらしい。

気がついたら、この天界にやってきていた。



一言目にちょうだいしたのは、「輪廻転生できるから好きな世界を選べ」だった。


そんな簡単に決められませんよと言うと、ここでいろんな世界を『覗き見見学』して決めればいいと言われた。


だから、俺はいつまでもここに居座っている。





「興味のある世界はあったのか?」

そう問われても、う〜んと唸ってしまう。


「剣と魔法の世界やら、ハーレム世界やら、他の人間は喜んで選ぶのにな」

「すみません、欲がなくて」

「人間はいろんな奴がいて面白いから、問題ない」


神様はなぜか悲しい目をしながら、そう呟いた。

いや、俺にはそう見えた、ってだけかもしれない。



「これだけ無数にあったら、選ぶの難しくないですか?」

「だいたいの奴は、ピンときたと言って飛び込むぞ」

「なにその度胸、すげえぇ……」



今日は、貧困でどこか仄暗い世界を上から覗き込んで見学していた。

なんだか見ていると落ち着かない、そんな世界だった。


この世界を選ぶ人もいるのかな。



「神様は輪廻転生の案内以外、何をしているんですか?」

「世界が偏らないように調整…、と言いたいが、まあそんなことは不可能だな」

「そんなこと言っちゃっていいんですか?」

「神の予想を超えていくのが、人間の業というやつだからな。お前らは見ていて飽きん」

「左様ですか…」


神様は、ここで何を見ているんだろう。


「あー、あとは魂の憑依者を生まないように監視することだな」

「違う体の持ち主の中に入っちゃう、あれですか?」

「ああ、まあそれも見れる範囲だから、ほとんど無理だがな」

「神様、仕事しなさすぎでは…?」

「神は基本的には傍観者なんだよ」

「ええぇ…?なんかずるい」

「神だからな」


そこまで言うと、フンと偉そうに鼻を鳴らした。

いや、たぶん俺よりは偉いんだけど。


「どこもピンとこない人間は、どうしたらいいんでしょうねぇ」

俺の呟きは聞こえなかったのか、何も返事がなかった。





「おい、今日は違うところに案内してやる」

神が珍しく自主的に案内してくれると言ったので、不思議に思いながらあとをついていった。


ずっと端っこにあった世界は、モノクロだった。


見たことあるような、ないような、ここまで見てきた世界よりも地味な世界に見えた。


俺はそこを覗き込みながら、手を伸ばしたくなった。


「どうだ?」

「どうだと言われると、俺に馴染みやすそうとは、思いますね」

「そうか」

神様はそれ以上何も言わずに、世界の縁に座り込んでただじっと見ていた。


俺も倣って、隣に座った。


ゆっくり流れていく世界の時間を、ただ見ていた。


派手なことも起こらず、魔法や異能も使えず、ただ人の暮らしがあるだけだった。


そうやって、どれだけの時間見ていたかわからないが、とある男がフラフラ歩いているのが見えた。


顔色の悪い、貧相な男だった。


「あ」


気づいたら、声が漏れていた。


神様が、目を細めた気がした。



「あの男の人が、いい、です」

「そうか」

「え、っと、世界じゃなくて、個人を選ぶなんてできるんですか?」

「普通はできねえが、まあ、できるぞ」


歯切れの悪い言い方だったが、神様はどこからか書類を出すと、俺に差し出した。


「ほれ、サインしろ」

「俺、自分の名前わかりません」

「手形でいい」

「はい」

言われるがままに手形を押して、疑問に思いながらも、手続きが完了した。


俺の体が透けていくのが、わかった。


「………なんで、あの男にしたんだ?」

神様の低いとも高いとも違う不思議な声音が響いた。



「なんでなんでしょう。わかりません、ただ」

「ん?」

「あの人だって、ピンときた?みたいな?」

「ははっ、お前たちはいつもそれだな」

神様は、乾いた声で笑った。


「もっと良さそうな奴でも選べばいいのに」

「たしかに、そうですね…、もっとマシな世界、いっぱいあったのになぁ。なんでだろう」

「さあな。じゃあ、達者でな」

神様の眩しい顔が見えて、俺はそこから消えていった。





「…やっぱり、お前は『また』同じ自分を選ぶんだな」


神様の独り言が零れても、天界にはもう神しかいない。



あの男は、同じ人間を選び、また同じ人間の人生を一から送り、また天界に戻ってきて、同じように自分を選ぶ。


それを何度も神は見送ってきた。



基本的に個人を選ぶのは不可能だが、自分を選ぶなら別である。


時間を巻き戻し、世界を巻き戻し、何度でも自分をやり続ける変わった人間を、神はたまたま覚えていただけだった。



「何度も自分を選ぶ奇特なやつめ、これだから人間は面白い」


そう笑って、また彼がやってくるまで、神は自分の仕事に戻るのだった。



神は、見守るのが仕事なのである。






お読みくださりありがとうございます!

毎日投稿146日目。

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― 新着の感想 ―
これは凄い!面白い作品!この文字数で、見事に最後まで持ってかれましたよ〜!出勤前のひととき、楽しませていただきました。
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