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まばたきのうちに

 雨だ。

 待ちに待ったはずなのに……どうして涙が出るのか。


 空が藍に染まっている。赤い鳥居を抜けて階段を上がってくるあの子が来る。

 時刻はいつもどおり。待っているだけでいいはずなのに心が落ち着かない。

 神ともあろうものが……。

 もうじき私は罰を受けるだろう。


 長い年月、美しい文字で彩られた文を貰った。

 読めはしないのに私は何度もそれを見返している。


 楽しくて楽しくて、楽しくて……楽しくて。


 神を愛するのか?あの子にそんなふうに聞いたことがある。

 くだらない問いかけだと私は思ったのに、何故かあの子は顔を曇らせた。


 禁忌。

 村のものはそういう。



 神なぞ愛せば、神は悪になる。

 一人を愛するなぞ、許されることはない。


 目隠しをしているまに全てが死に絶えるぞ。



 誰が言ったのか、そのような迷信。

 私ができることなどたいしたことはないのに。



 嵐を呼ぶ?

 呼んで見せよう。


 風を吹かせる?

 吹かせて見せよう。


 あの子を手にいれる?

 私には実態はない。



 お前たちは私が欲しいものなど与えられず

 生贄と呼ぶものを投げ込むだけだ。



 愚かものども。

 それでも愛おしいものども。


 雨が降る。

 これでいいのだろう?


 長い時間、おまえたちが雨乞いをしているのを見ていた。

 そしてあの子がお願いに来たのだ。


 私の願いは全てあの子のためだ。



 山の奥深くから村を覆うほどの雨雲が流れつき、大量の雨が覆った。

 人々が願うほど以上の雨は全てを覆い流しつくす。

 命のあるものたちが泣き叫びながら走っていく。


 悪神め、悪神め……。

 口々にする酷い言葉が空気を満たしていく。

 全てが黒く灰色に満たされる頃、山の一部が崩れた。

 下にいた者が巻き込まれて命の火が消えた。


 怒りに燃えた村人は神の祭壇に火をつける。

 美しい文に火をつけて、小さな鏡を叩き割った。

 文は赤い火を燃やし、青に、紫に変わる。

 ゴウッと音を立てて火柱が立ち、鏡を覗き込んでいた男の背に火の粉が飛びついた。

 髪が燃え、服が燃え、全てが燃やし尽くされる。

 黒く灰になるまで燃やしつくし、そばにいた男もまた同じくなった。



 神はその場に立ち、黒くなった人を見る。

 かけらも残らない文を見て目から涙を零した。


 じわじわと蝕まれていく闇に神は目を閉じる。

 ようやっと触れられるあの子に空へ行くように告げて。


 全てが飲み込まれ、大地に命の気配がなくなった頃。

 太陽が雲間からそっとのぞきこみ、大地に優しく降り注いだ。

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