第9話 おっさん、また話題になる
「おお……お金だ。お金を貰えたよ!」
「予想以上のファッキンマネー……冒険者ってこんなに儲けるんですか?」
ダンジョンを出たところにフェンリル協会の支部があり、そこでは冒険や作業に関する相談や換金などをしてくれている。
高級マンションのロビーのような造りで、優雅な音楽が流れていてその場にいるだけで心が安らぐようだ。
俺たちはこのギルド支部に来て魔石を換金してもらっていた。
思っていた以上の手取りに驚きの声を上げる三人。
だがそれは俺も同じで、こんなに貰えるとは想定外だ。
「想定していたよりも高い金額みたいだが、どういうことだ?」
「こちらの魔石の『濃さ』がBクラス相当でしたので」
「Bクラス……そんなに高かったのか」
「桂馬さん、クラスって何?」
クラスのことを知らないらしく、凛花がほぼゼロ距離でこちらの顔を覗き込んでくる。
俺はカウンターの上に置かれた魔石を眺めながら彼女たちに説明をした。
「魔石には濃度があり、その濃度によってクラス分けされている。だいたいモンスターの強さと比例していて、そのクラスが高ければ高いほど買い取りしてもらえる値段も上がるんだ」
「へー、ちなみにBクラスってどの程度なの?」
「言葉で説明するのは難しいな。だが」
凛花に耳打ちをするために近づくと、彼女は顔を赤くする。
「Bクラスのモンスターは一人で倒せる冒険者は限られている」
「そ、そうなんだ……教えてくれてありがと」
俺から離れて髪をいじり出す凛花。
そのまま彼女は二人に説明すると、また驚きの表情でこちらを見てきた。
「やっぱり凄いんだね、師匠って!」
「大したことはない。皆も訓練を続ければそのうち出来るようになる」
「私たちがあのクラスのモンスターを? 冗談ではなくですか?」
「ああ。俺は冗談を言わない。滅多にな」
Eランクである自分たちが強いモンスターを倒せるようになるのか。
そう考えているのだろう、思考を停止して固まっているみたいだ。
「あの、Bクラスの魔石ですが、どうやって入手したのですか? よろしければお教えいただければと思います」
「地下一階に出現するモンスターを倒したら落とした。それ以上のことは俺は知らない」
「ボクも知りません! 師匠は何もやってません!」
職員が怪訝そうに聞いてきたのに対応したのだが、翠が緊張した様子でそう叫ぶ。
内緒と言っていたのにバレるようなことを……
この子は嘘を付けないタイプだな。
皆の前では極力喋らないように釘を刺しておかないと。
「でも龍王院さんって、倉本さんを倒したという方ですよね。それだけの実力があるとすれば、Bクラスぐらいのモンスターを倒しても納得できるのですが……」
「あれは偶然ですよ。濃度が高い魔石を手に入れたのも偶然です」
「はぁ……」
誤魔化したつもりだがやはり納得はしないか。
まぁ大人しくしておけばそのうち噂も静まるだろう。
それまでは辛抱するとするか。
「今日はもう解散しよう。報酬は約束通り折半。次回からは報酬が減ると考えておいた方がいい」
「はい。今日はご指導ありがとうございます」
「ありがと。助かったよ」
「ありがとうね~バイバ~イ」
ギルド内で解散をした俺たち。
ヤレヤレとため息をついて俺は施設を後にする。
換金のやり方は教えたので今度は彼女たちに任せよう。
これ以上噂になるのは勘弁だ。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、カラッとした天気の朝。
布団がはだけていたので寒気を覚え目を覚ます。
「まだ仕事に行く時間じゃないな……もう少しぐらい寝れそうか」
時刻は6時前。
アパートを7時に出ても仕事には間に合う。
普段から朝飯も食べないし、ギリギリまで寝ていても間に合うだろう。
そう考え、もう一度惰眠を貪ろうとし目を閉じるも外が少し騒がしいことに気づく。
何かあったのだろうか。
だが確認するよりも眠る方が大事だ。
俺は起きることなく眠りについた。
それから1時間ほど睡眠して着替えを済ませ、あくびをしながらアパートを出る。
今日も一日肉体労働に励むとするか。
伸びをして陽光で一気に覚醒し、ようやくそこで本当の意味で目が覚める。
「龍王院さん! Bクラス相当のモンスターを倒したというのは本当ですか!?」
「変異種型のオーガを倒したという噂を聞きましたが、どうやって倒したのですか?」
「倉本さんを倒したのは伊達ではなかったということですね!」
「…………」
昨日オーガを倒したことが何故かバレていたようで、多くの記者がアパート前で俺が出て来るのを待ち構えていた。
まさかバレているとは……誰もいないのを確認してオーガを倒したし、三人には内緒にするように言いつけているので、漏れないと思っていたが考えが甘かったか?
今回の噂の出所はどこだ?
「昨日は作業員ではなく冒険者として活動なさっていたようですが、どういうことでしょう?」
「冒険者の方が稼げますし、天職を知ったというところでしょうか?」
質問攻めにあい、額に手を当て深いため息を吐く。
なんでまたこんなことに……
俺は最寄り駅へ逃げるようにして急いだ。




