第6話 おっさん、美女たちの成長が楽しみになる
「先生、この光は先生が施してくれたものですよね?」
「ああ」
「凄かったよね! 力も速さも普段とは段違いだった」
「あれは力、防御力、魔力、素早さ、全ての能力を上昇させる強化スキルだ。こいつがあればこの階層のモンスターにやられるようなことはない」
感激したような表情の翠と無花果。
凛花は驚きつつも、怪訝そうにこちらを見据えている。
「桂馬さんってFランクだったよね?」
「ああ。そうだな」
「そうだなって……スキルを扱えるFランクなんて聞いことないんだけど」
彼女が勘ぐるのも仕方がない。
魔力の無い人間が分別されるのがFランク。
そんなFランクがスキルを扱えるのはおかしいことだ。
「私も聞いておきたいのですが、こんなバカみたいにやべースキルは聞いたことがありません。どこで習得したのですか?」
「無花果ちゃん、興奮して口悪くなってるよ!!」
無花果の口調にツッコミを入れる翠。
現在の世界では【紋章】という物で冒険者は力を得ている。
紋章は【ジョブ】という、いくつかの能力を選ぶ。
ジョブには選択肢がありどれを選ぶのも自由だが、後から変更できないのでよく考えて選ばなければならない。
翠は【盗賊】を凛花は【魔術師】を無花果は【騎士】を選択したようだ。
紋章を付けると能力の伸びにも違いが生じ、そしてスキルと呼ばれる力を行使することができる。
ジョブを選んだ後はそのスキルの方向性を選ぶことになり、自分の欲しい能力も選択が可能だ。
これを【スキルツリー】と呼び、同じジョブでも戦闘スタイルに違いが出てくる。
俺は翠と同じ盗賊の紋章を選び【スカウト】というスキルを伸ばしていくことにした。
ダンジョン内の探索に長けた能力を取得できるので、指導係としては申し分ないだろう。
だが無花果の言う通り、俺が使うスキルはそれらに属さない能力。
前世で習得した能力だ。
だが俺はその辺りを説明するつもりはない。
「これ以上は尋ねるな。そういう約束のはずだ。嫌ならもう引き返すが、どうする」
「……分かりました。引き続きお願いします」
聞きたいという顔はしているがそれ以上は聞こうとしてこない。
聞き分けのいい子たちばかりで助かる。
「敵を倒すと『魔石』という物を落とすが、それは知ってるか?」
「うん。ちゃんと調べたから知ってるよ」
「そうか。魔石は俺が回収するから、皆は戦いに集中してくれ」
魔石はモンスターが体内で形成する、力を持つ鉱石のことだ。
これがあれば燃料の代わりになったり、武器の開発にも使用したりなど用途は多岐にわたる。
ギルドが買い取ってくれるので回収するのは冒険者として必須作業。
俺がいなくても回収し忘れないよう、途中で何度も口頭で伝えることにしよう。
それからモンスターと戦い続ける翠たち。
硬さは完全に抜け、丁度いい具合の緊張感で戦いに挑んでいる。
ここに入る前に自分たちの役割を理解して立ち回るようにと教えておいたが、それをしっかり実行していた。
覚えもいいし、これからの成長も見込めるな。
「師匠。モンスターってずっとこれぐらいの強さなの?」
「まさか。ここにいるのは雑魚ばかりだ。今の三人ならこの階層が限界だろうな。それに俺のサポートが無かったらゴブリンにも勝てないと思う」
「え、そんなに弱いの私たち?」
「残念ながらそうだな。それがEランクの実力だ」
事実を知って落ち込みを見せる三人。
こんなことでいちいち落ち込むかな。
「だけど一つだけ良いことを教えておいてやろう」
「何々?」
「魔力はモンスターを倒せば倒すほど成長する。要するに戦い続ければEランクはいずれ卒業できるぞ」
モンスターの体内にも魔力が存在し、倒した時に自分の力として吸収することができる。
少量ではあるが徐々に成長することができ、魔力が無い限りは誰もが強くなれる可能性を秘めている。
俺も彼女たちと行動することによっておこぼれで成長することができるのだが……これ以上の力は求めていない。
まぁ強くなっても損はしないからいいのだが。
「本当ですか……私たちでもちゃんと戦えるようになるんですか!?」
「そのために俺がいる。それなりに戦えるようになれるのは保障しておこう」
再び喜びに破顔する三人。
見ていて飽きない子たちだ。
「じゃあドンドン行こう! モンスターをもっともっと倒してメチャクチャ強くなってやる!」
「いいね。私たちで最強の冒険者になろうか」
「それは夢物語かも知れませんが、それぐらいの気持ちで冒険に挑みましょう」
「ってことで早速モンスター発見! ボクが倒してくるよ」
ゴブリンの姿を見つけた翠は全速力で駆けて行き、敵に斬りかかる。
「翠、ちょっと待って下さい! 一人で暴走してはいけません。私が敵の攻撃を引き付けるので、もっとゆっくり――って、倒しちゃいましたね」
俺のサポートがあるとはいえ、すでに三人は少し強くなってきている。
そのうち一階層ならサポート無しでも勝てるようになるだろう。
「翠、連携はちゃんと気にしなよ。翠一人だけじゃなくて、皆も危険な目に遭うことだってあるんだから。翠だけの問題じゃないの」
「ごめん凛花ちゃん。ボクあんまり考えないで行動しちゃった……」
「分かればいいの。皆で頑張って皆で稼いで、そして絶対皆で生き残る。OK?」
俯き加減の翠は、凛花の言葉に頷く。
凛花はもっと攻撃的であり直情的なタイプだと思っていたが、意外と冷静な部分もあるんだな。
俺は凛花に感心していると、彼女は俺の視線に気づいて頬を赤くする。
「な、何さ?」
「いや、何でもない。少し感心していただけだ」
「はぁ? どの部分に感心したの。ちょっと説明してくんない?」
「あ、それより凛花ちゃん。新しいモンスターが現れたよ」
「え、新しいモンスターって――」
モンスターの姿を見て絶句する凛花。
翠は怯えることなくそのモンスターを見据えているが、無花果も凛花と同じく硬直している。
黒いオーガ……
まさかまだこの階層をウロウロしていたとは。
三人ではまだ絶対に敵わない相手だ。
面倒なやつが現れたものだな。




