第5話 おっさん、美女たちとダンジョンへ行く
彼女たちの都合に合わせ日曜日の本日、ダンジョンへの挑戦をすることにした。
すでにダンジョンの入り口に来ており、晴れ晴れとした空を見上げる。
「先生、もう来ていたんですか」
「ああ、おはよう」
時刻は10時前。
集合時間は10時だったが、すでに揃ったようだ。
冒険者の恰好をして登場した無花果たち。
彼女たちは俺が来たことにホッとしたようだが、どこか緊張しているようだった。
「緊張しているのか」
「うん。だってダンジョンの攻略なんて始めてだから」
「私たちはEランク。緊張しない方がおかしいでしょ」
「そうだな。でもお金を稼ぐためには強くならないといけない。俺だって無給ってわけにはいかないから、強くなってもらわないと困る」
俺が歩き出すと三人は後をついて来る。
「先生はFランクということでしたが、本当に戦えるんですか?」
「戦うわけないだろ」
「ええっ?」
俺の返答に硬直する無花果。
そんな彼女の顔を見ることなく俺は言った。
「言っただろ、戦うのは君たちだ。俺はあくまで指導する係。言わば監督みたいなものだろう。サッカーの試合に監督が出ることなんてないだろ」
「確かに言ってたけど……私たち、大丈夫なの?」
「最低限戦えるぐらいまでは強くしてやる。だから安心しろ。」
「うん……了解、師匠!」
元気にそう返事するのは翠。
彼女は笑顔で俺の隣を歩く。
「先生とか師匠とか、なんだそれは」
「だって戦いを教えてくれるから師匠じゃない?」
「まぁなんでもいいがな。ちなみに君は俺のことを何と呼ぶつもりだ?」
「私?」
凛花を見ながらそう聞いてやると、彼女はリップの塗った口に指を当てて思案顔をする。
「そうね……じゃあ桂馬さんで」
「……なんで下の名前なんだ。龍王院でいいだろ」
「下の名前の方が仲良くなれそうだし、それで良くない?」
「好きに呼べばいい。その代わり三人のことも下の名前で呼ばせてもらう」
凛花はニコッと笑い、ピースサインを作る。
何故ピースサインなのかは分からないが、素直に可愛いとは思う。
「了解。全員苗字同じだし、下の名前じゃないと逆に不便だしね」
「同じ苗字なのは知っているが、皆は姉妹なのか?」
「血のつながりは無いけど本当の姉妹だと思ってるよ、私たち」
凛花の手を取る翠と無花果。
「ボクたちは同じ施設で育った。生まれた時から同じ環境で生きてきて、同じ物を食べて育った。血の繋がり以外は家族としか言いようがないよね!」
「親の名前も親が付けてくれた名前も知らない者同士ですから。互いの気持ちを理解している最高の家族です」
「そういうこと。普通の家族より仲良いと思うよ」
仲睦まじい響宮の三人。
彼女たちが一緒に過ごしてきた時間の長さを感じられるようだった。
だがダンジョンに入ると、そんな全員から笑顔が消える。
再び緊張をしているようだ。
「誰でも緊張はするものだ。まずはその緊張を解くところからだな」
「はい、よろしくお願いします」
三人を先に歩かせ、俺は後方に付く。
周囲を警戒して進む三人の動きは硬い。
Eランクだから、普通ならモンスターにやられて終わりだな。
それぐらいEランクとは絶望的に弱いのだ。
だが俺がそうはさせない。
「いた、モンスターだ!」
「あれがモンスター……動画で観たことはあるけど、生じゃキモイね」
「あんなゲロみたいに醜い見た目……気持ち悪いですね」
出現したのはゴブリン。
彼女たちは敵を視認した瞬間に武器を手に取る。
翠は二刀流、凛花は杖、無花果はショートソードだ。
「先生、どうしたらいいですか?」
「まずは落ち着くんだ。そんな調子じゃ勝てる相手にも足をすくわれるぞ」
「はい」
三人の後ろで勇者時代の能力を発動させてやると、彼女たちの体が淡い光に包まれる。
驚きを見せ、こちらを振りむこうとするが寸前のところで俺は言う。
「こちらを振り向くな。すでに戦闘中だ。敵から目を逸らすな」
「分かった!」
勇者の時に得た能力【精霊術】。
あの世界では生まれた時から所持する固有能力がある。
【ギフト】という力で、神の祝福と呼ばれていた。
俺が使用したのは【精霊術】の『精霊の加護』。
大気に漂う精霊に呼びかけ、指定する者全ての能力を飛躍的に上昇させるという能力だ。
Eランクの彼女たちではあるが、『精霊の加護』を受ければゴブリン程度にはまず負けることはない。
とにかくモンスターに勝利してもらい、自信を植え付ける。
全てはそこからだ。
無花果が一番前に出て、敵の攻撃を警戒する。
そのすぐ後ろに翠が位置しており、さらに後方には凛花。
教えた通りの動きはできているみたいだ。
「ギャァアアア!!」
「き、来ました!」
ゴブリンが無花果に向かって飛び掛かる。
無花果は硬い動きながらも何とか敵の攻撃を縦で防御した。
「今です、翠!」
「OK!」
無花果の横から飛び出す翠。
二本の剣でゴブリンの両手を切り落とす。
「最後はお願い凛花ちゃん!」
「任せて――『ファイヤーボール』!」
凛花の杖から炎が吐き出される。
ゴブリンにそれが命中し、静かに炎上していた。
「勝った……私たちでも勝てんじゃん!」
「やったやった! ボクたちの勝利だ!」
「やりました先生」
「ああ。良かったな」
互いに抱き合い三人は喜びを爆発させていた。
ゴブリン程度にあんな喜ぶ必要もないんだけどな。
とにかくこれで緊張は解けただろう。
ここからはドンドン強くなってもらうとするか。




