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第4話 おっさん、美女三人と出逢う

「ボクたちの力になってくれるって言ったよね? だからボクたちは君たちと一緒にダンジョンに……」


「だから冗談を本気にしたお前らが悪いんだって。騙した俺らより騙されたお前らが悪いの」


 男に食ってかかっていたショートカットの美女が歯をむき出しにして睨んでいる。

 赤い髪に赤い瞳。

 背の高さも胸の大きさも普通ぐらいだが、スタイルはいい。

 軽装で身を包み、腰には二本の剣。

 彼女も冒険者のようだが、あの様子では素人なのだろうと判断をする。

 その子が憤慨していると、後ろにいた女性が彼女の肩に手をかけた。


(すい)、もういいじゃん。こんな奴らに頼ろうとした私らがバカだったんだよ」


「バカなんて認めない。ボクたちはバカじゃないの!」


「気にするとこそこ!? とにかくこいつらには関わらないでおこうよ。話してるだけでムカつくし」


 少し派手めなギャルといった見た目のその子は、染めた金髪にパーマを当てている。

 髪の長さは腰ぐらいまであり、右側にサイドアップを作っていて可愛らしい。

 胸は小さく背は高く、そして何より気が強そうだ。

 魔術系の恰好をしており、手には杖を持っている。


「ムカつくって誰に言ってんのよ。あんたの方がムカつくでしょ」


「ムカつくって、あんたの好きな男が私を好きだって言ってるからでしょ。ひがむのはそっちの勝手だけど、痴情をこっちに持ち込まないでよ。迷惑なんですけど」


「このっ……」


 冒険者集団の中の一人と言い合いをするギャル。

 相手は怒りに満ちた顔でビンタをしようとするが、その寸前に男に引き留められる。


「止めとけって。こんな女相手にする必要ねえよ。こうして騙してやったんだからそれだけでも十分だろ」


「こんな女に振られた男がよく言うよ」


「なっ……」


「その腹いせにこんなことしたんでしょ。本当に小さい男」


 男を挑発するギャル。

 彼女は今にも爆発しそうな男をそのまま睨んでいたが、眼鏡をかけた女性が二人の間に割って入る。


「やめておきましょう。そんな挑発してたら喧嘩になるだけです。落ち着いて。この人が凛花(りんか)に振られた腹いせにクソつまんねーことしたのはもういいじゃないですか」


「何がクソつまんねーだ!」


「すみません、本音が出ちゃいました」


 黒髪ボブ美人。

 眼鏡をしたその子は全身鎧姿。

 胸の部分は胸が大きいのか、特別なふくらみがある物だが、特注なのだろうか。

 背中には盾、腰にはショートソードを所持しており、彼女も初心者冒険者であろう。


「とにかくお前らみたいなやつらがどれだけ努力しようとも冒険者になんてなれねえんだよ」


「そんなの分かんないだろ!」


「分かるって。人付き合いも上手くできないやつらがどうこうできる世界じゃねえの。できるなら他の奴らに頼んでみろよ。それができないから俺らに頼ってんだろ」


 彼女らをバカにするように笑う男たち。

 そのままダンジョンの奧へと進んで行く。


「金が欲しいなら夜職でもやってろ。お前らぐらいの容姿ならすぐに稼げると思うぜ。あ、そっちの紹介が欲しかったらいつでも言ってくれ。仕事ならいつでも斡旋してやるからよ」


 男は含み笑いをしたまま続ける。


「悔しかったら冒険者として成功してみせろよ。ま、お前らじゃ世界がひっくり返っても無理だろうけどな」


 下品な笑いをダンジョン内にこだまさせながら男たちは去って行く。

 眉を吊り上げ、拳を握り締める女性三人。

 あんな風にバカにされたんじゃ悔しいだろうな。


 作業員の皆は彼女らの気持ちがよく分かるのか歯を食いしばって、去って行く男たちの方を睨み付けている。


「帰ろう翠。私らじゃやっぱ無理なんだって」


「無理でもやらないと。ボクたちがお金を稼がないといけないんだよ」


「でも無理なものは無理です。帰りましょう。地道に稼ぐしかないんです」


 女性三人は肩を落としたまま踵を返し、この場を立ち去ろうとしていた。

 だがその時、ふと俺と眼鏡の女性と目が合う。


「あ、龍王院さん……ですよね」


「ああ」


「どしたの?」


 俺と目が合った女性が二人にコソコソと何かを話し出す。

 すると二人が驚いた様子でこちらに視線を向け、勢いよく近づいて来る。


「あなたが強いって本当!? 本当ならボクたちに力を貸して!」


「私たちどうしても強くならないといけないの。冒険の指導をしてほしいんですけど!」


「どうかお願いできませんか。他に頼れる人がいないんです」


 三人に囲まれる俺。

 ニュースを見たのか、俺の力を貸りたいと考えているのだろう。

 だが俺は三人に事実を突き立てる。


「君たちのランクは?」


「……Eランクです。冒険者としての適性が無いのは理解しています。ですがどうしても冒険者にならないといけない理由があるのです」


「そうか。俺に期待してくれてるようだけど、残念だが俺のランクはF。君たちよりもさらに低い」


「そんな……でも無花果(いちじく)が最強の人を倒したって」


 倉本を倒したが俺のランクが低いことに、驚きと落胆の落差を彼女たちの表情から読み取れる。

 懇願するような瞳を向けてくるが、そんな顔をしたところで俺のランクが低いことに変わりはない。


「じゃあどうやって倒したのよ。そんなにランクが低いのに」


「偶然だろ」


「偶然?」


「ああ。たまたまだ」


 ギャル風の女性が俺の眼前まで迫り、疑うように睨み付けてくる。

 甘い匂いと綺麗な顔。

 さきほどの男が振られたと言っていたが、恋をする気持ちはよく分かる。


「どうしようか。この人に頼れないんじゃ、もう終わりだよ」


「だからそう言ってんじゃん。戦う魔力が無い私たちは冒険者になれないの。最悪私が夜の仕事してでも――」


「それはダメです! たまに心の底からクソほどバカだと思う時もありますけど、本当にバカなんですか?」


「また口が悪くなってる。でも私は本気だし」


 会話をする三人。

 俺が頼りにならないことを察し、すでに諦め始めているようだ。


 しかし彼女らには何か目的があって冒険者になろうとしている。

 少しだけ話を聞くだけ聞いてみるか。


「君たちはどのギルドに所属してるんだ?」


「フェンリル協会です」


「ギルド職員に相談はしたのか?」


「はい。でも助けてくれる冒険者はいなくて」


 Eランクをサポートするようなやつはそうそういないだろう。

 お金稼ぎを目的として冒険者をしている者がほとんどだ。

 そんなボランティア活動に近いことをやりたがるわけがない。


「もしサポートが欲しいならセント・サルベーションの方に入るべきだな。あそこなら手厚いサポートをしてくれるぞ」


「でもあそこって奉仕活動を目的にしてるって聞いたけど。私たちお金が必要なの」


「なら諦めるしかないな。冒険者は確かに金を稼げる。その分危険が伴うんだ。初心者を連れてその危険にわざわざ飛び込んでくれるやつなんているわけがないだろ」


「分かってる……そんなの分かってるよ。でもボクらはどうしても稼がないといけないんだよ」


 赤髪の美女はうっすらと涙を流し始める。

 俺は嘆息し、冒険者になりたい理由を聞くことにした。


「なんで冒険者として活動したいんだ。お金を稼ぎたいということらしいが、何故お金が必要とする?」


「私たち施設育ちなんです。その施設の運営にお金が足りないらしくて……でも私たちが稼げる賃金なんてたかが知れている。助けたいのに助けになれない」


「だから冒険者になりたい。冒険者になって稼いで、それで施設を助けたいの!」


「もういいじゃん。何をやってでも私がお金を稼ぐから。だからもう帰ろう。この人にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないし」


 ギャルの一言に二人は頷き、入り口の方へと歩き出す。

 彼女たちの目の端に涙が見える。

 

 俺には無関係だからもういいだろう。

 これ以上彼女らに関わる必要はない。


「待て」


「?」


 だが心の中の自分が囁く。

 彼女たちを助けてやれと。

 勇者時代のお人好しが顔を出す。

 自分でも嫌になるが、しかしこれが自分の性格か。


 三人にはお金を稼ぐ理由があり、そしてお金を稼ぐために夜の仕事をしようとしている。

 環境は人それぞれでもっと大変な者たちもいるだろう。

 でもそれなのに彼女たちを助けてやらないと感じるのは、きっとさっきの男の言葉が気に食わないからだろうな。


『お前らみたいなやつらがどれだけ努力しようとも冒険者になんてなれねえんだよ』


 違う。

 そんなことはない。


 魔王時代に弱い人間と数多く戦ってきた。

 しかし弱いはずなのに手を焼いてばかり。

 能力は魔族の方が高かったはずなのに戦争は熾烈を極めた。


 現在、人として二度目の人生だからこそ分ること。

 人のことを理解していない人は多い。

 人間は可能性の塊だ。

 出力された数字だけで測れるほど単純な生き物じゃない。


 あんな男が言うことが正しいはずがないのだ。

 能力の低い彼女たちにも可能性は秘められている。


 俺は作業員たちには聞こえないぐらいの声で三人に言う。


「俺で良ければ力を貸してやる」


「本当に!?」


 赤髪の女性が太陽のような笑顔で俺の元へ駆け寄って来る。


「でもあんたさっきFランクって……」


「ああ。だが戦いの手ほどきぐらいは可能だ。少なくともさっきの男よりは上手に指導できるつもりがな」


「あのファッキン最低野郎より戦えるんですか……やっぱり噂通りの人なんですね」


 感激している様子の三人。

 俺は彼女らに向かって言う。


「但し、いくつか約束を守ってもらう」


「何でしょう。約束ぐらいで力を貸してもらえるならいくらでも約束します」


 三人が横並びで俺の前に立つ。


「まず俺は戦闘に参加しない。緊急の時は別だが……とにかく戦いの手助けはしてやるが、それ以上のことは期待するな」


「はい」


「それから報酬は折半。俺も生活がかかっているから、ボランティアというわけにはいかない」


「了解です!」

 

 赤髪の女性が敬礼してそう返事をした。


「そして最後に――俺のことは探るな。俺の力には触れるな。手助けしていることも、何が起きても(・・・・・・)他言無用だ」


「お金のためならそれぐらいお安い御用よ」


 全員が首肯し、約束を守ることに同意する。

 俺が頷くと、彼女らも頷く。


「なら明日から協力してやろう。俺は龍王院桂馬。三人の名前を教えておいてくれ」


「ボクは響宮(ひびきみや)翠! よろしくね」


「私は響宮凛花」


「響宮無花果です。よろしくお願いします」


 こうして俺は彼女らの指導員として活動することとなった。

 自分のことながら甘すぎただろうか。

 だけど彼女たちとの物語は静かに始まってしまったのだ。

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