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第14話 おっさん、鬱陶しい男と再会する

「おいおいおい、おーい! マジかよ。また来てんのかお前ら」


「あんたは……」


 ダンジョンの長い階段がある場所で、俺たちに近づいてくる男が一人。

 それは以前、凛花に振られ彼女たちに嫌がらせをした人物であった。


「なんか用?」


「用はねえよ。でも何してるのかなって。無能なお前らがこんなところで」


「ダンジョンにいるってことは分かるだろ。ボクらは冒険者なんだ」


 翠の言ったことに男は吹き出す。

 彼には友人が4人ほどおり、全員が彼女らをバカにするように大笑いしていた。


「Eランクが冒険者とか無理があるから!」


「そんな堂々としてたら、そのギャグも逆に面白いわ! あんたら戦いのセンスは無いけど、逆のセンスはあるかも」


「死ぬ前にやめとけって。でも死んだ後に好き勝手するのも悪くないかもな」


 男がニヤリと笑う。

 凛花は顔を青くして俺の背後に隠れるようにして移動してきた。


「キモッ! 本当にキモイんだけど。あんたみたいなのと付き合わなくて正解だった」


「クソキモ性格うんこ野郎と付き合う可能性、ちょっとぐらいあったんですか?」


「あるわけないじゃん! やっぱ無理だって再確認したの」


 凛花と無花果が顔を合わせて寒さを知らせるジェスチャーをしている。

 それが男には効いたのか、プルプルと震え出した。


「こいつら……」


「もう消えなって天野(あまの)。顔も見たくないんだけど」


「そうだそうだ、どっか行け!」


「ちっ!」


 舌打ちをしてダンジョンの方へと消えて行く天野と呼ばれた男。

 友人たちも同じように彼に続いて行く。


「同じ男から見ても気持ちの悪いやつだ」


「ね。桂馬さんのことを見習ったらもう少しいい男になるかもなのにね。それでも付き合う気はないけど」


 三人は天野の去って行った方角を睨んだままその場を動かない。

 このまま進んだら、彼らとはすぐに鉢合わせをしてしまうだろう。

 それが嫌で動かないのだろうと察する。

 

 俺もあんなのと会いたくないし、今のうちにできる話をしておこう。


「スキルツリーはどんな風にしたんだ?」


 スキルツリーは魔力の総数が増えると伸ばすことができるようだ。

 伸ばす方向はいくつかあり、同じジョブでも戦うスタイルは随分と変わってくる。

 色んなスキルを習得することも可能だが、だが一つか二つの系統を選んだ方が良いようだ。

 強いスキルを習得するにはそれなりに魔力が必要で、あっちこっちを習得していると中途半端になってしまう。

 それを知らずに適当なスキルを覚えて強くなれない者も多くいると聞く。


 と、これらは全てネットの知識ではある。

 三人のために色々調べたので、それなりに詳しくはなったつもりだ。

 指導係をするんだから、その程度のことは当然だろう。


「ボクは『ファントム』系統を伸ばしたよ」


「『ファントム』か。悪くないな」


 いくつか選択できる中で、『ファントム』を選んだのは正解だと思う。

 盗賊のスキルツリーの中でも一番トリッキーな戦いをすることができる系統。

 翠の戦闘スタイルをさらに良くし、将来性もある。


 本能で考えたのか、あるいは相談して決めたのか……どちらにしてもナイスチョイスだ。


「攻撃は翠と凛花に任せて、私は防御に徹しようと考えました。だから『ディフェンダー』を選んだんですが……どうでしょう」


「いい選択だ。自分の役割を理解している良い証拠だな」


 無花果は騎士の中の『ディフェンダー』。

 これは仲間の盾となるスキルを習得することができ、仲間に一人いると心強いスタイル。

 二人よりも冷静に対処できる無花果にピッタリだろう。


「私は『ファイヤ』。やっぱり攻め一択だよね」


 凛花が選んだのは魔術師の『ファイヤ』。

 彼女が言うように攻めを得意とする炎の魔術系統スキルツリーだ。

 魔術には四つの属性があり、炎は一番攻撃力が高い。

 支援型にしないのなら、選択としては正解だろう。


 凛花の選択は確かに悪くない。

 だが三人で戦うにはそれだけではダメだと俺は考える。

 

「凛花は他の系統のスキルも習得した方がいい」


「そうなの?」


「ああ。攻撃魔術だけではなく、色んな魔術が使えた方がいいだろう。パーティ人数が多ければそれでいいが、君たちは三人しかいないからな。人数が少ない分、お互いに足りない部分を補っていかなければならない」


「分かった。じゃあ魔力が高くなったら次のこと考える」


 とりあえずは納得した様子の凛花。

 でもまだ能力の重要性は理解していない様子。


 それからその場で少し時間を過ごし、天野たちが先へ進むのを待ってから階段を下りて行く。


「師匠、今日は何するの?」


「前回と同じ地下一階階のモンスター退治だ」


「また同じことするの?」


「同じことを何度も繰り返す。その連続で人は成長する。魔力も同じだ。やればやるだけ魔力は高まっていくんだ」


 階下へと向かいながら翠にそんな話をすると、最初はガッカリしていたが楽しそうにウキウキし始める。

 強くなることに楽しみを見出しているようだ。


「じゃあ今日はガンガン倒していこうか」


「今日はボクが一番モンスターを倒すよ!」


「私は防御がメインなので競争はしませんが、先日よりは倒しましょう」


 三人とも気合が入っており、いい精神状態でモンスター退治に意向する。

 階段を下りてダンジョンを少し歩いているとゴブリンに遭遇し、精霊の加護を皆に付与をした。

 ゴブリンの数は十匹ほど。

 精霊の加護の力があれば負けないだろう。


 俺は少し離れたところから三人の戦いを観察することにした。


「さあ来なさい!」


 騎士のディフェンダーの『挑発』というスキルはヘイトを集めることができる。

 その能力を無花果はゴブリンに使用すると──モンスターの群れが彼女に襲いかかってきた。

 だが冷静に敵の攻撃に対処していき、危なげない様子。

 盾で攻撃を防ぎ、足元を切り付け機動力を奪う。

 

 敵の隙ができたところで突撃する翠。

 風のように行動し、二本の剣でゴブリンたちを切り伏せていく。

 オーガソードの攻撃力は高く、容易くゴブリンの肉体を真っ二つにする。


「私だって!」


 倒しきれなかったゴブリンに凛花の炎が強襲する。

 相手は炎上し、ジタバタもがいて絶命していく。

 あっという間にゴブリンを退治してしまった三人。

 ハイタッチして喜びを共有していた。


「この前よりも動きが格段に良くなっている。連携も取れているし、相手の動きもよく観察できているな」


「先生に言われた通りにしました。敵をよく見て相手の隙を伺う。効率よく倒せたなと思います」


「ああ。良い感じだった。この調子で戦っていれば戦闘力も上がっていく。地味かも知れないがこれを繰り返そう。地味なことが結局のところ近道だからな」


 三人が声を揃えて「はい」と返事をした。

 もう少ししたら精霊の加護を解いても問題無さそうだな。

 予想よりも強くなるのがずっと早い。 

 それだけ彼女たちの思いが強いということだな。


 その後もゴブリンを倒し、倒し、倒し続ける三人。

 魔石の回収をしながら俺は彼女たちの後ろを付いて行く。

 そして途中で精霊の加護を遮断し、彼女たち自身の力で戦わせることにした。


 まさかこんな早くに加護を解くことになるとは思いもよらなかったな……

 もしかすると今の彼女たちは、すでDランクぐらいの実力まで上がっているのかも知れない。

 自分の予想を軽く超えてくる。

 人の想いの力はやはり計り知れない。


「三人を補助しているスキルを解いた。ここからは自分の実力で戦ってみろ」


「え、大丈夫なの……」


 不安そうな凛花に俺は頷き、彼女たちに火を付けるための話を続ける。


「翠も凛花も無花果も、俺の想定以上に強くなっている。今なら確実にゴブリンぐらいなら倒せるし、より実力が近い相手を倒す方が経験になる。大丈夫だ。三人ならもっと強くなれる。施設のためならなんだってできるだろ」


「よーし、やってやる! やるならドンドン来い。ボクが全部倒してやるぞ」


「私だって負けないし。私たちをバカにした奴らを見返してやれるぐらい強くなってやるし、施設だって守ってみせる」


「皆で強くなりましょう。先生がいれば……私たちならできるはずです!」


 さらに気合が入った三人は、さきほどまでと同じモンスターたちと交戦を開始する。

 精霊の加護の効果は無くなり、予想以上に相手が強く感じたのか、彼女たちは少し押され気味になっていた。


 殺される。


 そんな考えが彼女たちの動きを鈍らせているのだろう。


「さっきまで簡単に倒せていたのがこんなに強いなんて……聞いてないよ!」


「翠、凛花、もっと下がって。敵は私が引きつけます」


「あんた一人で無茶しないで。協力し合おうって約束したじゃん」


 ガチガチの無花果が前に出るが、余裕が無さ過ぎて敵の動きが見えていない。

 防戦一方。

 反撃することもできず、持ちこたえることもできず、徐々に後退をしていた。


「もっと落ち着け。昨日より三人は強くなった。そして今日ここに来た時よりまた強くなっている。相手はそんなに強いわけじゃない。さっきまでと同じように余裕を持って戦えば、それほど怖い敵じゃないぞ」


「そうだ……落ち着かないと。私たちならできる。桂馬さんがそう言ってるんだから勝てるはず」


「そうだね、ボクたちならできる! 自分を信じて戦うのみ!」


 無花果が深呼吸し、力強く一歩前に出る。


「私たちは負けません! 負けないように戦い、そして勝ちましょう」


 敵の攻撃を盾で弾き、別の敵を迎え撃つ無花果。

 オーガソードを持つ翠はよろけるゴブリンを一刀両断にする。

 

「この──食らいなさいよ!」


 凛花は無花果が抑えている敵に魔術を食らわせ、相手が後退した隙に翠が止めを刺す。


「やった! 師匠のフォロー無しでもボクらが勝てた!」


「やったね。私たち最強じゃん」


「クソ雑魚のはずでしたが緊張し過ぎて苦戦してしまいました……でも次からは自信を持って戦いましょう」


 自分たちだけの力で勝利した。

 それは彼女たちの自信になり、さらなる成長を見込めるだろう。

 三人の喜ぶ顔を見て微笑を浮かべる俺。


「ダンジョン攻略は始まったばかりだ。まだまだ行くぞ」

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