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第12話 おっさん、凛花と食事の翌日

「ううう……気持ち悪い」


 先日、凛花が家の場所を教えてくれないものだから、仕方なく自分のアパートに泊めることにした。

 凛花は布団に、俺は地べたでそのままでだ。

 

 目を覚ました凛花は頭を抑えながら周囲を見渡す。

 天気の良い朝一番。

 自分がどこにいるのかまだ理解していないようだ。

 だがコーヒーを淹れていた俺を見て、ようやく状況を受け入れる。


「ま、ままま、まさか……」


「そのまさかだ。ここは俺の家」


「じ、じゃあ……この気持ち悪いのは桂馬さんの子供を妊娠したってこと!?」


「おい。そんなわけないだろ」


 目覚めたばかりだというのに、赤い顔で気絶しそうになっている凛花。

 この子はバカなのか。

 一晩で子供なんてできるわけないだろう。


「安心しろ。酔っぱらった君を一晩泊まらせただけだ。昨晩は何も無かった」


「え、そうなの? そうなんだ」


 少し残念がるような顔を見せる凛花。

 なんでそんな顔をしている。


「凛花。君にどうしても言っておかないといけないことがある」


「何?」


「酒はもう飲むな。もし飲まなければいけない場合、男の前だけでは止めておけ」


「はい……すいません」


 シュンとして頭を下げる凛花。

 自分が酒で失敗したことを思い出したのだろう。

 この失敗を糧に、これからは同じ過ちを繰り返さないように。


「ほら」


「ありがと」


 俺が手渡したコーヒーを口にし、上目遣いでこちらを見てくる。


「桂馬さんは今日どんな予定?」


「普通に仕事だ」


「作業員か……私もバイト行かないとなんだよね。あーあ、面倒だな」


「金は稼がないといけないんだろ。だったら頑張らないと」


 俺はコーヒーを飲み干し、作業着の上着を着る。


「そろそろ出ようか。凛花も仕事の時間だろ」


「あ、そだね」


 グイッとコップの中を空にし、凛花は起き上がる。

 伸びをし、彼女のスタイルの良さが露わになっていた。


「今日も一日稼ぎに行くか」


「ああ。俺は生活のため。凛花は施設のためだな」


「うん。絶対施設を潰させないんだから」


 そう言う彼女の瞳には決意が込められていた。

 揺るがない信念がある。

 こういうタイプは伸びるだろうな。


「ちょっと待ってくれ」


「?」


 家を出る前に確認しておかないと。

 外には記者がまだ数人待機しているようで、俺は窓から彼らのことを視認していた。

 

「今出たら記者に見つかるな」


「別にいいんじゃない?」


「俺はな。でも凛花もああいう連中に追いかけ回されることになるぞ。俺の恋人だってな」


「ふーん」


「おい」


 豪快に窓を開けて外を眺める凛花。

 この子には危機感というものがないのか?

 昨日の酒だってそうだが、もう少し考えてから行動した方がいい。


「凛花だって嫌だろ。俺みたいなおっさんと噂になって追いかけ回されるのは」


「別にいいし。噂なんて気にしない。昔から嫉妬してくる女子に変な噂流されたけど、鼻で笑ってやり過ごしたし。自分たちが分かってりゃいいのよ、こういうことは」


 なんて芯の通った女性なのだろうか。

 凛花は堂々として記者たちのことを見下ろしていた。

 幸いなことに記者たちは凛花の姿に気づいていない。

 自分が分かっていたらいいのは同意だが、わざわざ見せつけるようなことはしなくていいだろう。


「凛花と行動していることを知られるのはいいが、こちらから顔を見せて噂を作る必要はない」


「ま、そうだね」


 凛花はすんなりと窓から離れる。


「じゃあそろそろ出ないと。私、先に出るね。気にしてくれてありがとう」


「ああ。気を付けて行けよ」


「うん。じゃあね」


 ブーツを履いて部屋を出て行く凛花。

 彼女の持っているパワーみたいなのに押されるな……

 凛花がモテて人気があるのは頷ける。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 次の土曜日。

 冒険に行く約束の日だ。

 翠、凛花、無花果がすでにダンジョンに来ていた。

 いつもよりやんわりと笑みを浮かべている凛花は俺に挨拶をしてくる。


「おはよう」


「ああ、おはよう」


 残りの二人も挨拶をしてくるが……無花果が凛花の異変に気づいたようだ。

 俺では分からない若干の変化なのだろう。

 だがそれを感じ取り、彼女は凛花に詰め寄る。


「凛花。どういうことか説明してください」


「説明って、何?」


 凛花は自分でも気が付いていないようで首を傾げる。


「空気が柔らかくなっているじゃないですか。先生と何があったんですか?」


「え、師匠と何かあったの!?」


「な、何も無いわよ……ちょっとご飯食べに行っただけ」


 絶句する無花果と仰天する翠。


「このアマ……抜け駆けしやがりましたね」


「口悪くなってるよ、無花果」


「ズルいズルいズルいズルいズルい! 師匠ボクも一緒にご飯行きたい!」


 俺の背中に飛び乗り大暴れする翠。

 俺は嘆息しながら彼女に言う。


「分かった分かった。また今度な」


「わ、私も行きたいのですが」


「分かった。無花果も一緒に行こう」


「一緒じゃなくて個別がいいんですけど」


 小さく何かを呟く無花果。

 頬を染めてあまりにもモゴモゴしていたので聞き取れなかった。


 しかし騒がしい三人だな。

 だけどそれを良しと感じる自分がいたことに、俺は微笑を浮かる。

 

「またデートしようね」


 腕を組んできてウインクする凛花。

 無花果と翠はさらに大騒ぎすることになるのだが……これは流石に騒がしすぎるな。

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