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第10話 おっさん、凛花と待ち合わせをする

「先日一緒にいた女性冒険者が、龍王院さんがオーガを倒したと話をしたらしいです。実際に倒したところは見ていないけど、いなくなったのを確認してそう判断したと……そこから噂が流れたようですね」


「はぁ、そういうことですか」


 ギルド支社に来て何故俺の噂が流れているのか幸島さんに訊ねたところ、彼女はそう教えてくれた。

 気配は全く無かったので誰かに見られていたということはないはずだったので、ようやく納得がいく。

 しかしまた面倒なことになってしまったな。

 俺は無能のFランク。

 それでいいのに。


「今日は作業員として仕事に入っているようですが、昨日は目撃通り戦っていたのは間違いないんですね?」


「それは認めます。でも俺はFランクですよ。オーガなんかに勝てると思いますか?」


「うーん……でも龍王院さんは倉本さんを倒しちゃってますからね」


 その事実を捻じ曲げることができず、自分の過去の行いを呪うばかり。

 偶然で通すつもりだが、一体どれだけの人が信じているだろう。

 少なくとも目の前にいる幸島さんは、俺が戦えることを何となく察しているようだ。


「女性三人と冒険に出ていたんですよね」


「ええ。簡単な指導を頼まれましてね。あの子たちはEランクですから、まともに戦えるまでの期間限定ですよ」


「そうですか。ではこれ以上は何も聞きません」


 幸島さんは嘆息し、そして真面目な顔で続ける。


「真実はどうであれ、噂はずっとついて回ります。龍王院さんは目立つのを嫌がっている節がありますが、倉本さんを倒したことは業界に大きな波紋を生み出してしまった。何を隠しているかは知りませんが、ずっと隠し通すことは不可能だと思います」


「幸島さんが想像していることが正しかったとして……でも俺はそうならないように立ち回るだけです。それが無理になったら、業界を引退するしかないでしょうね」


「どれだけの実力を隠し持っているのかは定かではありませんが、どのギルドも龍王院さんを欲しているのは間違いありません。これからは私生活から監視されていると思った方がいいですよ」


 俺を心配してくれている幸島さん。

 俺は彼女に「ありがとう」とだけ伝えてギルドを後にした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 その日は作業中もずっと俺の話題で持ちきりとなり、やりにくい一日だった。

 ようやく解放されたのはいいが、今日は約束がある。


 外はすでに暗く、明るい飲食街の入り口で待ち合わせをしていた。


「桂馬さん、おまたせ」

「いや、そんなに待っていない」


 やって来たのは凛花。

 魔術師の恰好しか見たこと無いが……ギャルという言葉がよく似合う服装をしている。

 あまりにもイメージ通りの恰好だったので笑いが出そうになってしまう。


 スリットの入ったロングスカートをはいており、美しい足が垣間見える。

 上は肩や胸元を露出させているベアトップと呼ばれる服を着ており、へそが丸出し。

 その上から羽織っているレザージャケットがアンバランスに見えて、だが不思議とバランスよくも感じる。

 胸は無いがスタイルが良く、ファッションセンス抜群の彼女は、周囲の視線を一人占めしていた。


「それで、今日はどんな用だ」


「用ってほどのことじゃないけど、もっと桂馬さんのこと知りたいし。ご飯でも一緒にどうかなって」


「俺みたいなおっさんと飯に行くより、もっとキラキラした同世代と行動した方がいいんじゃないか」


 俺がそう言うと凛花は視線を逸らして頬を染める。


「だ、誰とご飯行こうと私の勝手じゃん。今日は桂馬さんとご飯に行きたい気分だったの」


「そうなのか」


「そうなの。それに同世代の男とは行動したくないし。いつもエロい目で見てくるから。そういう目的なんだろうけど、私はそんなに安い女じゃねえっての」


 ツリ目の彼女の視線はきつく見えるが……どうやら普通に俺の方に視線を向けているだけのようだ。


「その点、桂馬さんは紳士だから安心かな」


「勝手に紳士判定するな」


「紳士じゃないの? でも私にそういう目を向けてこないじゃん」


「いくつ歳が離れてると思ってる。手を出す気も起きない」


 今度は何故か怒ったらしく、眉を吊り上げ頬を膨らませる凛花。


「なんか逆に興味持たせたくなってくる。興味無いのは私のことを知らないからでしょ」


「興味を持つことはないから安心しろ。手を出さないと約束する」


「そんな約束いらないしっ! あ、約束と言ったら桂馬さんって何であんなに強いの? 話せる範囲で話してよ」


 約束の意味を理解していないのか?

 俺は呆れながら彼女に言った。


「聞かない約束だったろ」


「そうだけどさ、やっぱ気になるじゃん。えっと……ほら、私たちの先生だし」


「話せる範囲か……なら話すことは一切ないな」


「ケチッ! ちょっとぐらい聞かせてよ」


 凛花は俺の腕を取って歩き出す。


「そういう話が嫌なら桂馬さんのこともっと聞かせてくんない?」


 香水の甘い香り、そして陽気な笑顔は男を落とす無自覚小悪魔。

 最初に言い合いをしていた男も勝手に落ちて勝手に怒ったのだろうと安易に想像がつく。

 俺は彼女と会話をしながら少し笑う。

 こうやって誰かと食事に行くのも久々だ。

 今日は楽しむとしよう。

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