表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

第8章「神代セリカ」


【東京・板橋区 旧都営団地跡地 午前1時】

 外階段に錆が浮いた廃団地の4階。

 ロキとユーマは、ドアスコープのない一室の前で立ち止まった。


 そこが、神代セリカの隠れ家だった。


「お前たち、足音がでかい」

 開け放たれた扉の奥、タバコの煙の向こうにいたのは、

 黒のニット帽にパーカー姿の女。年齢は30代前半、瞳の奥に濁りと諦念の色があった。


 神代セリカ──元公安の諜報係であり、玲子とともにクロスピアの“裏帳簿”を記録した女。


【セリカの告白】

「エナは自分の死期を知ってたよ。

 あの子、最後はあたしに“殺される方法”を選ばせたようなもんだ」


 セリカは淡々と語る。


 港区女子から議員の愛人へ、そして“国家の慰安”に堕ちたエナは、

 クロスピアの接待室で国会議員・朝生雅嗣と関係を持ち、

 その一部始終を自ら録画していた。


「でもね、その部屋には監視カメラがあった。

 録画はすべて……椎名剛士の手に渡ってたの。

 エナは自分の命を使って、“揺すれる材料”を作ろうとしてたのよ」


 セリカの手元には、確かにSDカードがあった。


「だけどこれを公開しても無意味。

 あんたらは知らないだろ? この国の検察とマスコミが、

 いま誰の手の中にあるのかを」


【国家構造図(簡略)】

中之島統合連合(大阪)

 ┣ 総帥:南條辰巳(元右翼運動家)

 ┣ 三田村渉(諜報担当/Project YAMI開発責任者)

 ┣ 大道グループ(風俗/違法薬物供給ルート)

 ┣ 弁天会(実行部隊/西成での取り立て・殺害など実行)


白洲塾派閥(東京)

 ┣ 主任:椎名剛士(元厚労官僚)

 ┣ 支援組織:クロスピア運営団体(表向きは民間財団)

 ┣ 政界:朝生雅嗣(都議会保守系会派)

 ┣ メディア連携:陽明出版、NRT放送ほか

 ┣ 医療系:薬剤耐性感染症研究機関(表向きは国立)


「国家はね、ひとつじゃないの。

 この国には**“思想別に複数の国家が並立してる”**の。

 しかもお互いに監視し合ってるだけで、誰も責任なんて取らない」


 ロキが唾を飲む。

 セリカは最後に、一枚の古びた写真を机の上に置いた。


【写真に映っていたもの】

 制服姿の少女が、壇上の政治家の横に立っている。

 右肩には、青い十字架の刺青が見える。


「これは……エナ……?」


「違うわ。あれは……“エナがなりたかった女”。

 本当の“神代エナ”は、別の名前で登録されてた。

 戸籍上、存在すらしてない子よ」


【その頃/霞が関・某省庁地下室】

 三田村渉は、1枚の報告書を見つめていた。


《Project YAMI:Phase 2 概要》


港区女子系YouTuber、TikTok配信者に向けた「ステマ型育成」計画


一部対象に対して薬剤耐性HIVを保持させ、意図的感染後にハンドラーを介し性行為を誘導


ターゲットとなる官僚・企業幹部の“意思決定能力”を生理学的に低下させ、恫喝に応じさせる


同時に、オンライン上での“バズ化”を誘導し、暴露系情報に信頼性を付与する


 セリカの言うとおりだった。

 この国の汚染は、既に政策そのものに組み込まれていた。


【東京・新宿ゴールデン街の奥のバー】

 ユーマがふと呟く。


「ねえロキ、俺たちはさ……どこまで踏み込めば、もう戻れなくなると思う?」


 ロキは、ポケットから古びたライターを取り出し、火をつけた。


「たぶん──もうとっくに越えてるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ