第7章「Project YAMI」
【神奈川県・川崎市 某データセンター地下ラボ】
三田村 渉は、「Project YAMI」の中核を稼働させていた。
それはかつてクロスピアが使っていた“顔識別・感情分析AI”の改良型。
全国のライブ映像・監視カメラ・SNS動画から「特定の属性」に該当する若者を選別し、
選ばれたユーザーに対して、暗号化された勧誘メッセージをストーリー広告やライブ配信で流す。
──ターゲットは以下の三種類。
自殺未遂歴のある未成年(SNSログから特定)
ネット右翼・反フェミ思想を持つ青年層(発言傾向を分析)
風俗・AV出演歴のある女子(過去の顔画像・改名履歴を照合)
ターゲット層には匿名の支援団体を装い、
“資金提供”や“逃走支援”と称して連絡を取り、
実際は使い捨ての運び屋、スパイ、犯行請負人としてリクルートされる。
「音じゃなくて、“ノイズの向こう側”を使う。
真の戦争は、こうやって始まるんだよ」
三田村は口元を歪ませながら、
ダークウェブ上に次の標的リストをアップロードした。
【大阪・西成 某ネットカフェ】
ロキ、ユーマ、アサトの三人は、廃墟化したライブハウスを離れ、地下に潜った。
「こっちが逃げてばかりじゃ、あいつらに人が殺され続ける」
「ならやるか? 復讐を」
「──違う。“証拠”を出す。
警察が動けないなら、マスコミに“燃えるネタ”を流すだけだ」
ロキは、玲子から託されたUSBの中身を再解析していた。
その中に、見覚えのある人物が映っていた。
──都議会議員・朝生雅嗣。
保守系の重鎮で、街頭演説で移民排斥を叫び、裏では風俗業界との繋がりを隠し続けていた男。
その議員が、クロスピアの密室で少女に馬乗りになり、
背後では椎名剛士が笑って見ている映像。
「これだ……これを切り札に使う」
【名古屋・港区女子ネットワーク 解体ビル】
ロキたちは、かつてエナが活動していた“モデル事務所”の元管理者を訪ねた。
男の名は、藤波 昭博。
港区女子をアイドルとして売り出す傍ら、実態は議員秘書とのコネ斡旋と性接待斡旋。
「彼女は、異常だったよ。
自分から政治家に近づいて、弱みを握ろうとしてた。
まるで、自爆装置みたいな女だった」
「その“弱み”って、朝生雅嗣のことか?」
「……ああ。あの夜のことは、一部始終、エナが自分で撮影してた」
藤波はそう語りながら、ポケットから古いSDカードを取り出した。
「だがその映像の本物は……もう一人の女が持ってる。
玲子じゃない。彼女の名前は──神代セリカ」
【神代セリカとは?】
元「白洲塾」の内部情報管理係。
過去に公安のスパイとして潜入していたが、任務中に“切り捨て”られる。
現在は都内某所に潜伏中。
自身の保身と引き換えに、重要な映像データを隠しているとされる。
【その頃/東京・歌舞伎町 裏通り】
一方、東京側でも椎名剛士が再始動していた。
彼は“Project YAMI”に並走する形で、
再び新宿の風俗店や地下ビデオボックスを買収し始めていた。
その目的は、“感染拡大”。
性感染症(特に薬剤耐性を持つ淋菌・HIV・梅毒)に感染させた女性を意図的にデリヘルに送り込み、
政治家や企業幹部に「接触」させる。
後日その“感染記録”をネタに、強制的なスキャンダル隠蔽の取引を行うという手口だ。
「人は音では死なないが、情報と病気では、いとも簡単に潰れる」
【夜/大阪・地下格納倉庫】
藤波の証言を得たロキたちは、セリカの情報をもとに、東京への再潜入を決めた。
その前に、玲子が送ってきた一通のメールが届く。
「次に会うとき、セリカが真実を話すとは限らない。
でも彼女は、“エナの死の本当の理由”を知っている。
気をつけて。……彼女は、正義では動かない」