第6章「失踪者たち」
【数日後/新宿・靖国通り沿い某ビル】
地下スタジオが摘発された翌朝、クロスピア代表・三田村 渉は姿を消した。
都内数か所の隠し口座と仮名登記のマンションも、すべて空。
公安・警視庁の合同捜査線上からも、完全に外れた。
──彼は、“消えた”のではない。“消した”のだ、自分の痕跡を。
【一方/大阪・中之島連合本部】
東京支部が潰されたことを受け、組全体に激震が走った。
中之島連合本部では、若頭早乙女 勲が直ちに「粛清」を始める。
海鷹連合の残党、クロスピアに関わった右翼残党の“洗い出し”。
アキトら少年構成員数名は行方不明、
東京支部長だった椎名 剛士は、本部から「裏切者」として指名手配された。
中之島連合・大阪本部 組織構成(再掲・整理)
■組織名:中之島連合(旧・大正仁道会)
【総裁】高倉 正次(たかくら しょうじ・74)…寝たきり、名目上のトップ
【若頭】早乙女 勲(さおとめ いさお・52)…実質トップ/東京・関西統括
│
├─直参若中:野中 泰三(のなか たいぞう・47)…風俗系利権、港湾倉庫
├─外郭団体:白洲塾…右翼系、政治家との接点
├─元準構成団体:海鷹連合(解体命令中)
│ └─構成員:椎名剛士(逃亡中)/少年兵アキトら(行方不明)
└─提携企業(非公開):清掃業、映像制作、クラウド運営など複数
【大阪市港区・旧貨物ヤード跡地】
ロキは、ユーマとアサトを連れて大阪にいた。
玲子が情報提供者として保護されたため、
クロスピア壊滅の「次の段階」はロキに委ねられた。
「玲子が仕掛けた“証拠映像”は、まだ公開されてない」
「その理由は?」
「──警察も行政も、この件に深入りするのを避けてる」
「つまり、政治が絡んでる?」
「そう。中之島連合と手を組んでた地方議員、都庁関係者、厚労省の元職員……
“クロスピア映像”は、単なる性犯罪の証拠じゃない。
国家の汚職と癒着の生き証人なんだよ」
【一方/神奈川県横浜市某所】
姿を消した三田村は、旧知の右翼団体白洲塾のシェルターに身を寄せていた。
彼の目は濁っていた。逃げてなどいない。ただ──機を見ていた。
「早乙女も切り捨てた。今後は、俺が“新たな結節点”になる」
彼は新たなドメインを取得し、匿名サーバーにて次の配信準備を始めていた。
──“Project YAMI”。
それは、「stigma」の新譜を利用した**裏メッセージ拡散型のサイバーリクルート」。
若者の憎悪と失望を煽り、リアルな“兵士”を作る計画だった。
【同時刻/名古屋・港区女子サロン跡地】
ロキたちは、失踪した美月エナの過去を追っていた。
かつて彼女が所属していた“港区女子ネットワーク”──表向きはインフルエンサー事務所。
しかし、その裏では「コネ売春」「薬物運搬」「政治家の囲い込み」に関与していた。
そこにいた古株の一人、**新藤ルナ(32)**が語った。
「エナは、変わってた。
最初は金で動いてた。でも途中から──“何かを壊したがってた”」
「それは?」
「──世界。男も女も、構造も、ぜんぶ。
エナは、クロスピアの“中枢”に入り込もうとしてた。
自分が“素材”にされるのを覚悟で。
でも……途中で“あいつ”に気づかれた。
椎名剛士。あいつが全部仕組んで、エナを殺した」
【その夜/西成・旧ライブハウス跡】
stigmaは、解散を取りやめた。
新たな拠点として、廃墟となった「旧CLUB 錆」を借り、地下配信を開始。
だが今度の“曲”には、音だけでなく映像と文脈が混ざっていた。
監視カメラの映像、フェイクポルノのノイズ、盗撮された政治家の影──
すべてをミックスして、メッセージに変える。
ロキは言う。
「音で、構造を壊す。
バンドは、もう音楽じゃない。
──武器なんだよ」