第4章「潜入」
■【暴力団系】中之島連合
関西最大級の準指定暴力団。右翼・風俗・政治家と深い繋がりを持つ。
【総裁】三國 甚八(みくに じんぱち・68)※表向きは引退済み
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├─【幹部会】(5名)主にフロント企業管理
│ └─政治家・警察OBとのパイプ
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├─【若頭】早乙女 勲(さおとめ いさお・52)
│ └─主に東京方面の拡張・映像事業を管轄
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├─【傘下組織】
│ ├─■金剛会(こんごうかい/西成拠点)…風俗・シャブ
│ │ └─組長:曽我 金蔵(そが きんぞう・45)
│ └─■海鷹連合(かいたかれんごう/東京方面)…スカウト・映像
│ └─準構成員:八神 ルイ(やがみ るい・26)
■【政治系右翼】大和維新連盟
政治団体の仮面をかぶった暴力型右翼組織。選挙支援や“街宣”を利用し、警察との癒着あり。
【代表】天童 克義(てんどう かつよし・60)元・国会議員
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├─【青年部長】稲葉 新二(いなば しんじ・39)…暴力担当
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├─【思想部】元自衛官・宗教関係者などで構成
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└─【連携企業】クロスピア株式会社(表向き:映像制作)
└─代表:三田村 渉(みたむら わたる・49)※八神の上司
玲子はロキに手渡した黒い名刺ケースを指差した。
「その中にマイクロカメラが入ってる。服に仕込んで、明日の“現場”に入れ」
「現場……?」
「クロスピアが今撮影してる“#15”。その素材集めのため、AV風のインタビュー動画を撮る“ふり”をして、港区のマンションに呼び込む。
──君には、音楽家としてオファーが来てる。“ポストサウンド担当”って名目だ」
「つまり、俺は“音響係”ってことか?」
「建前上はな」
玲子はスマホを開き、あるマンションの画像を見せた。
港区六本木3丁目、複合高層ビル“Ark Grace Residence”。
地上28階建て。1フロア2室。月80万以上。住人の9割が法人契約。
「801号室。撮影は深夜2時。君は22時に入ってセッティング。
モデル役の女は、“市井マリア”って名乗ってるが……裏名義は“久条ひな”──18歳。
中之島連合の借金踏み倒して、今は“#15”の制裁対象」
「つまり……エナと同じ?」
「……ああ。違うのは、“映像を売る前に殺すかどうか”の判断が今、現場で委ねられてる点だ」
ロキは静かに眉をしかめた。
目の奥で、怒りが音になろうとしていた。
【翌日 22:05/Ark Grace Residence 801号室】
真っ白なフローリング。大型ソファ。防音仕様の壁。
エントランスには顔認証システム。スタッフはすでに3名入っていた。
撮影監督:八神ルイ
音響助手:神谷ロキ(偽名:神田 響)
カメラ補助:中之島連合の少年兵(通称:アキト、17歳)
「やっと来たか。おまえのセンス、期待してるよ。痛みの音ってやつをな」
八神は笑って言った。だがその顔は、目が笑っていなかった。
ロキはマイクロカメラ付きのベースアンプをセットし、試しにスピーカーから“蝉の鳴き声”を流す。
室内が歪み、音が壁に反響する。それはまるで、“墓場”のような響きだった。
──0:43。
“市井マリア”が到着した。
白いワンピースにノーメイク。明らかに怯えた眼差し。
彼女は無言でリビングに通され、バスローブに着替えさせられた。
アキトが照明を調整し、八神がカメラを構える。
「じゃ、マリアちゃん。──“今までに感じた一番強い痛み”って、何?」
インタビューは始まった。
だがそれは、質問という名の精神的レイプだった。
「殴られたことある? どこを? 誰に?」
「恋人? 父親? ヤクザ?」
「それ、いつの話? 18歳って嘘じゃないよね?」
質問が、暴力と羞恥と記憶を抉っていく。
マリアの目がどんどん濁っていく。
そして──カメラが回り続ける。
ロキは、アンプからノイズを発した。
機械の不調を装って、八神のカメラを一瞬止めさせた。
「調整入る。10分、給水休憩」
ロキはその間に、マリアにそっと囁いた。
「ここを出ろ。今すぐ。俺と一緒に来い。
君は、“あれ”の中に入っちゃいけない。あれは映像じゃない、“死の予告状”だ」
彼女は目を伏せ、わずかに頷いた。
0:56、突如アキトのスマホが鳴った。
画面に出たのは──“三田村 渉”の名。
八神の表情が変わる。
「……中止だ。“#15”の対象、差し替え。マリアは今日、売らない。
──明日、別の女が来る。そっちを本番にする」
ロキと玲子の潜入は、寸前で空振りに終わった。
だが、マリアは助かった。
代わりに、リストには新たな名前が載った。
“元刑事:天宮玲子”




