第19章「黙示の火」
【東京・霞が関 地下第七会議室】
白熱灯の下、鋼鉄のテーブルを囲む数人の影。
公安庁、厚労省、防衛省、そして“内閣情報調査室”の黒服たち。
中央に座るのは、国家戦略特命補佐官・椎名昭一。
「我々は、幻想に支配されている。“自由”や“表現”などというものが、時に最も危険な武器になる」
椎名は静かに言い放つ。
「今夜、stigmaの残党を“消去”する。作戦名──《黄昏の火》」
机に置かれたモニターには、stigmaの最終潜伏先とされる代々木第二公園地下通路の地図が表示されていた。
【代々木地下通路】
地下鉄廃線跡を改造したシェルター。その中で、ユーマとロキ、ナナはラストの編集作業をしていた。
玲子が遺したファイル“final_reiko.vid”に、ユーマの語りを重ねる。
「俺たちが死んでも、この映像だけは生き延びてほしい。
国家が何を隠し、誰を犠牲にしてきたのか──記録せな、意味ないやろ」
ナナが、USBメモリを複製しながら言う。
「三方向で同時アップロード。闇鯖、台湾の大学鯖、ベルリンの匿名ノード」
「成功確率は?」
「半々やけど……やるしかないやろ」
【白鷹会・東京支部出撃】
夜、東京湾岸。
数台の黒塗りのバンが無音で走る。中には、白鷹会の精鋭部隊“櫻楯会”の面々。
指揮するのは、白鷹会・首都圏責任者寺沢礼司。
「対象は3名。拘束優先、殺害は許可。撮影記録の全抹消を」
寺沢が手にした拳銃の銃口には、消音器が装着されていた。
【潜伏地襲撃】
午前2時13分。代々木地下通路の鉄扉が、爆破される。
「公安だ!動くな!」
だがstigmaの3人は、すでに姿を消していた。
室内のモニターには──事前録画された偽装映像。
次の瞬間、廊下の配電盤がショート。
真っ暗な中、後方から火炎瓶が投げ込まれる。
「敵襲──っ!」
現れたのは、歌舞伎町の野良バンド仲間たち。
ルカが裏で手配していたゲリラ部隊だ。
【stigmaの逃走】
一方、stigmaの3人は既に神宮外苑の地下水路を移動中。
ユーマが息を切らしながら言う。
「爆発は成功や……数分稼いだ」
ナナが拳を握る。
「逃げるだけやない。告発の火を灯すんや」
【六本木ヒルズ前・爆破事件】
その頃、爆音が六本木の空を裂く。
白鷹会の密輸拠点ビルが爆破されたのだ。
犯行声明は──stigma名義ではなかった。
「この火は、国家による黙示の終焉。
“名前のない民衆”より」──
【椎名補佐官の怒り】
霞が関、緊急会議室。
椎名が机を叩いた。
「これ以上拡大すれば、“国家神話”が崩壊する……!」
その時、側近がモニターを指さす。
「アップロード開始──ドイツノード経由!」
玲子の“final_reiko.vid”が、世界中に同時配信され始めた。
【映像の中の玲子】
「これは、あなたが殺される前に見るべき映像。
国家と性、暴力と感染、そして“沈黙の教育”。
stigmaの音楽が、少しでも何かを揺さぶれるなら──
私は、命を差し出します」
【世界中の反響】
翌朝、世界中のSNSトレンドは──
#StigmaLeaks
#性病政治
#日本政府人体実験
#SilentNoMore
東京では、若者たちが渋谷スクランブル交差点に集まり、無音の抗議を開始。
【ルカの再登場】
再び画面に現れる、港区女子の元締め・ルカ。
インスタライブにて、シンプルな言葉を呟いた。
「今度は、あたしらが国を見張る番や」




