第17章「真夜中の決起」
【大阪・南堀江 “ghetto room”】
ロキ、ユーマ、ナナは、小さなレンタルスペースに集まっていた。
ナナは車内襲撃で負った傷をまだ引きずっていたが、目は生きていた。
「……公安の内通者が、内部資料を渡してくれた」
ユーマが、SDカードを卓上モニターに差し込む。映し出されたのは――
厚労省と白鷹会との癒着契約書
抗生物質耐性クラミジアを混入させたカプセル薬“NEX”の投薬記録
双頭館地下施設での“選別収容リスト”
「ここには、stigmaの名前もある。ルカも、玲子も」
ナナが呟いた。
「つまり、“私たち”が証人であり、生き残りってわけやな」
【公安庁・地下サーバールーム】
戸田耕一郎は、極秘裏に“R-2計画”の最終段階に入っていた。
「国家的抹消装置」──Project R-2。
それは、生物学的に感染を誘発するプログラムと、SNS拡散による社会的抹殺を並行して行う“ハイブリッド処刑”だった。
「これで、黙るやつと狂うやつが、綺麗に分かれる」
そしてstigmaは、最初の“人体指標データ”でもあった。
【stigma作戦会議】
ロキは、ホワイトボードに図を描きながら言った。
「まず、双頭館を実行犯ごと“暴く”。建物の配電盤と監視システムをハックする」
ナナが続ける。
「その間に、私は厚労省の“分室”に突入する。NEXの物証を手に入れて、外部に送る」
ユーマは静かに、最後の工程を語る。
「そして最後に、ルカを助ける。公安施設に監禁されとる可能性が高い」
3人は拳を重ねた。
「これは、歌でもライブでもない。現実の“解放”や」
【東京・港区 検疫研究所 第6棟】
その建物は、ただの行政施設を装っていた。
だがその地下には、防音処理された“生体観察室”が存在する。
ルカはそこで、拘束ベッドに繋がれていた。
朦朧とする意識の中、彼女はうわごとのように呟いた。
「……日本は、女と病気を使って統治してきた国や」
ドアが開く。
入ってきたのは、公安庁統括官・戸田耕一郎だった。
「君は、あまりにも“知りすぎた”。その知識ごと、記憶から消してやるよ」
そう言って、彼は点滴の管を調整した。
……だがその瞬間、天井の監視カメラが爆発した。
【ハッキング開始】
遠隔操作を担当していたstigma元スタッフ・トオルが、別地点のハッキングカフェでモニターを睨む。
「OK、地下配線ルート、乗っ取った。音響兵器は誤作動モードへ」
同時に、厚労省の分室ビルに潜入したナナが、薬品保管室から赤い“NEX”カプセルの束を発見。
「手に入れた……この薬が、全ての始まりや」
【双頭館・突入】
ロキとユーマは、装備を身につけ双頭館へと向かう。
白鷹会の実動部隊「櫻楯会」が警戒する中、ロキは屋上へ侵入。
一方、地下に向かったユーマが見たのは──
大量の“実験体”。拘束され、皮膚病や梅毒症状を呈した人々。
「これは……まさに、黙殺の民……」
彼はシャッターを破り、携帯型カメラで映像を全送信。
「証拠、配信完了。お前ら、もう逃げられんぞ──!」
【歌舞伎町・裏路地】
突如、大型ビジョンが全て切り替わる。
ルカの映像。拘束中に録画されたインタビュー。
「あたしらは、ゴミでも弱者でもない。汚れ役を演じさせられてきただけや。
でも、そろそろ主役になってもええやろ?」
映像が切り替わり、ユーマが言う。
「咎は、俺らが背負う。でもその前に──“塔”を壊す」
【決起完了】
厚労省分室、双頭館、公安施設の3地点は、同時に“暴かれた”。
stigmaが仕掛けたこのトリプル作戦は、SNSを通じてリアルタイムで拡散。
数百万、数千万の視聴者がそれを目撃した。
そして次の瞬間、ユーマの音声が鳴り響く。
「俺らが、国を変えるんやない。目を開く人間が変えるんや」




