第13章「薬と罪と沈黙と」
【大阪地検特捜部地下 留置エリア】
照明の消えた取調室。椅子に手錠で拘束されたのは、stigmaのギター担当・アサト。
前日未明、梅田のクラブで“所持していたとされるMDMA”により現行犯逮捕。
だがそれは、公安二課による捏造証拠だった。
机越しに座る検事は、にこやかに言った。
「君のファンに、中学生の女の子がいたんだよ。君の音楽で、薬物に手を出した。彼女は今、精神病院だ」
「……俺が渡したわけじゃない」
「だがきっかけを作った。そう思わないか?」
アサトは口を閉ざした。
黙秘が、今の唯一の抵抗だった。
【東京・西麻布 クラブ"zero" 楽屋】
ユーマは、スマホに届いた“アサト逮捕”の速報を無言で見つめていた。
「これは……見せしめだな」
横で煙草を吹かすロキが呟く。
「玲子に連絡を」
「無理だ。彼女、今……消されたかもしれん」
その瞬間、ロキのスマホが鳴った。
非通知。
受け取ると、無音。3秒後に合成音声。
「次は、お前の番」
【公安庁・第四監視課 内部通達】
件名:Project R-2 / 対象リスト再更新
■新たな優先監視対象:
stigmaメンバー:ロキ、ユーマ、ナナ(旧名:結城奈那)
ジャーナリスト:辰巳怜子、鴨井純平
港区女子グループ元締め:ルカ(本名:金澤瑠香)
■作戦内容:
スマホGPS偽造によるアリバイ破壊
性的暴行容疑での内偵捜査着手
デジタルデータ削除および報道差止請求
【ルカの覚悟】
歌舞伎町、ビジネスホテルの一室。
ルカは、かつてのパパ活相手・“代議士秘書の男”から送られてきた動画を見ていた。
そこには、彼女が18歳のときに撮られた乱交映像。
「これが出れば、あんた終わりやで。選挙妨害も追加や」
だが、彼女は震えながらスマホを手に取り、インスタライブを開始した。
「もうええわ。あたしの過去なんて、使い捨てや。晒したければ晒せ」
「でもな──次は、お前らの番や」
数十万人が視聴する中、彼女は実名で**“国家的性病拡散計画”**を語り始めた。
【玲子からの封筒】
ロキの部屋。封筒を開く。
中には、ひとつのSDカードと手書きのメモ。
『最終暴露は、あたしが死んだ日。ドームライブの最後で流して。』
それは、玲子が命と引き換えに残した証拠映像だった。
国家と裏社会が交差する"臨床実験場"の実態。
抗生物質耐性クラミジアを用いた性交接触記録。
関与政治家のリストと、stigmaを監視する公安職員の顔写真。
ロキは、カードを胸に押し当てた。
「……必ず、やり遂げる」




