第12章「告発者たちの夜」
【東京・阿佐ヶ谷 深夜のファミレス】
雨の降る夜、阿佐ヶ谷のファミレス。
店内の奥のボックス席には、5人のジャーナリストが集まっていた。
宮本さやか(元NHK社会部、現在はフリー)
鴨井純平(週刊誌記者、暴力団取材歴15年)
李永達(香港出身の国際記者)
辰巳怜子(ネットメディア「ACT TOKYO」編集長)
中川優(ポルノと宗教の交差点を専門にする怪文書系ライター)
彼らに配布されたのは、玲子が公安の端末から抽出・暗号化したファイル──
ファイル名:“KIRISAME_F3”。
中身には、「Project YAMI」の実行主体・実験対象・政財界との接点がリストアップされていた。
・南條辰巳(元都議会議員、極右系政策ブレーン)
・城東会/第二兵頭組:風俗系資金供給元
・株式会社セントリアルメディカル:感染症統計改ざん協力
・日本宗教情報センター:性犯罪教義化の研究支援
・國學令和塾:右翼青少年洗脳合宿の拠点
「──この国の“裏の教科書”やな」
鴨井がつぶやき、李がコーヒーを啜る。
「これ、ネットだけで流しても潰されるだけだ。
“外”から仕掛けるしかない。つまり──国際世論を使う」
【玲子の遺言】
玲子は、ジャーナリストたちにUSBを手渡したあと、阿佐ヶ谷駅の高架下でロキに電話した。
「お願い、ロキ。
**これから起きることは、ただの“情報戦”じゃない。
“魂”の戦争なの」
受話器の向こう、ロキは真剣な声で答えた。
「玲子……俺たちは、“音”でしか戦えない。
けど、それで誰か一人でも目を覚ますなら、やる価値あるよな」
【風俗嬢たちの反乱】
新宿・職安通り裏のデリヘル事務所「華蘭会館」。
元・港区女子インフルエンサーで現役風俗嬢の**“ルカ”**が、仲間たちを集めていた。
「今まで私ら、“感染させられるモノ”やった。でももうちゃう。
私らが“証言者”になるんや」
ルカたちは、各自の診断書・性交渉記録・顧客名簿をもとに、
港区高級ホテルの防犯カメラ映像のコピーを集めていた。
「“病気の女”やない。“利用された女”やってこと、見せたるわ」
【国際報道の波】
翌週。
ル・モンド、BBC、CNN、台湾自由時報、韓国中央日報、香港NOWTVが一斉に以下の見出しで報道。
【JAPAN UNDERGROUND STATE】
〜日本政府と裏社会が仕掛けた性病プロジェクト〜
国連人権理事会が調査を開始。
日本政府は否定するも、霞が関の複数のドメインから外部接続記録が発覚。
“港区女子=国家の犠牲者”という文脈が国際的に拡散されていく。
【stigmaのライブ・第二波】
同時期、新曲《ABSINTHE》を公開。
歌詞は風俗嬢たちの手記をもとに、ユーマとアサトが作詞した。
この体はお前らの政策じゃない
注射されたのはワクチンじゃなく“思想”だった
愛してると言ったあいつが、感染源だった
私はもう、枠外にいない
ライブ映像はまたたく間に拡散。
複数の中高生が「性病を暴露された」と勇気を持って実名で語り始める。
【霞が関の“火消し”と新たな影】
政府は急遽、再調査委員会を設置し、椎名剛士を再び呼び戻す動きを見せる。
その裏で、外務省ルートから「Project R-2」が発動される。
その内容は:
日本国内の暴露系アカウントすべてに対してプロバイダー命令で削除
ジャーナリスト5名に偽装スキャンダルを被せて信用崩壊を誘発
stigmaメンバーに対する薬物冤罪または性犯罪による逮捕計画
【玲子の予感】
中野のマンションの一室で、玲子は一通の封筒をロキに手渡す。
「もし、あたしに何かあったら──
この中身を“記者クラブじゃなく、デリヘルの控え室”で開けて」
ロキは封筒を握りしめた。
「分かった……でも、“もし”はない。
あんたは、俺らの盾だ」




