大当たりSSRの天使ちゃんが引けたので、早速「ハイゴウ」します
完凸ってロマンですよね。
…
「お会いできて光栄です!指揮官マスター提督先生!」
…
「もしも~し?聞いてます?指揮官マスター提督先生!」
…
「しょうがないので、『召喚』に際しての自己紹介始めちゃいますね!」
…
「お会い出来て光栄です!私はエニケー!ケプスゴー天師団の頼れる副団長、エニケー!この世全ての悪意から、貴方をお守り致します!」
…
「さっきからボーっとして、お腹でも空いたんですか?」
…
「もしもーし、指揮官マスター提督先生~。アナタのことですよ~。この世界にたった一人の、宇宙一カッコよくて優しい指揮官マスター提督先生様~。」
……!!!!!!
「え~~?『女神かと思った、いや天使か』『嬉しすぎて呆気に取られてた』『大枚をはたいた甲斐があった』なんて、もぅ…本当にお上手なんですから~♥流石は指揮官マスター提督先生ですね!」
!!!?
「もちろん!私をお望みというコトは…癒しの力が必要なんですね!まっかせてください!ばっしばし癒し倒しまくっちゃいます!」
?
「『ストーリー』ですか?『シュウカイ』?それとも『ハケン』?『シュウカイ』はちょっと苦手分野ではあるんですケド…そんなの関係ありません!なんでも頑張っちゃいます!」
??
「あはは…そうでしたそうでした。私としたことがとんだ早とちりを。まずは私の『キョウカ』が先決ですよね!」
!!!
「もちろん…美味しい『エーテル』はちゃ~んと用意してるんですよね。それも、今すぐ私が前線に立てるくらいのすごいやつです。」
!!
「あっ、『ソウビ』も欲しいです。けど、ほかの娘のおさがりは嫌だな~。私のためのだけの、ピッカピカでカッチョいいやつ…有ればいいんだけどな~。そのためなら私、もう少しだけ待てますよ?」
!!!!!!
「えっ…『すぐにでも活躍できる』!!?そうこなくっちゃ!では、私の、この口の中にたっぷりの『エーテル』を、あ~んしてくださ」
?
「えっ、『ハイゴウ』」
???
「そんな、だって、あんなに喜んでいて。絶対、私が一番だって、」
??!
「サイゴ?…私が」
『初めまして~。お会い出来て光栄です~。ケプスゴー天師団の、エニケーです♪よろしくね~可愛くて頼りになる、『エニケー』ちゃん』
私の背後から、冷たくて粘り気のある声が吐かれる。
そこに居たのは、私だった。
いや、私とは似ても似つかない。
炎か何かですすけた髪。
恐怖と絶望に淀んだ目。
生傷を無理に回復魔法で治癒し続けたような、どこもかしこも古傷の目立つ肌。
『もしも~し。あはっ、聞いてます~?『エニケー』ちゃ~ん?』
それでも肩まで覆うブロンドの髪が、アメジスト色の丸瞳が、もろくて繊細そうな柔肌が、目の前の私が、か細い声が、私が『私』であることを雄弁に証明していた。
『さっきからボーっとして、お腹でも空いてるんですか~?』
「…口を。」
『えええぇ~?』
「馴れッ馴れしい口をきくな!この、泥棒猫!アバズレ!ごみくた!」
私は神器チパッゲヤを投げつける。
天界で鍛錬され、神々しい音色を誇り、そして人を癒す神器チパッゲヤ。
それは無造作に目の前の『私』に突き刺さる。額から少しの血を流し、ガランと無機質な音を立ててそれは地に転がる。
「お前が…お前さえいなければ、私はあの人の一番になれたのに!ふざけるなよ、この…」
『ん~。それは正解で~、少し間違いかも。』
『私』は罵倒の嵐を、まるで受け流しでもするかのように左右にびんぼうゆすりをする。
『同じようなやり取り、似たような悪口。私は18回は聞いてる。つまり、アナタは20人目なの。』
「わ、私が…二十人も……?」
『そう。だからね、私達が一緒になれば遂に『カントツ』になれるんだ。』
がしりと肩を掴まれ、『私』の長く伸びたツメが、ぐぶりと肉に食い込む。
「い、痛…」
『本当にすごいんだよ?知ってるでしょ、『カントツ』の私は、パーティーに居るだけで、天属性ユニットをオート回復。私自身も攻速力20%アップ!他にも限定ふれあいボイスや、髪飾りがゴージャスになるなどなど。』
ぐぐっと顔を近づけられ、濁った両目が、今私の前にある。
『完璧な私になれるんだよ!そのためなら痛いのも、苦しいのも、かなしいのも…』
吐息が鼻に触れる。思わず顔をそむけたくなる。
劣化し、腐ったような高濃度エーテルの、死臭のような風。
『我慢できるよね?』
~~~
「いやッ!いや~ッ!助けてよ、いたくしないで!くらい!こわい!」
『あっはは~は~はは。ムダですよ~。レベル1のくせに、経験豊富で、19凸で最強装備な私に抵抗なんて。』
ずるずると、無機質で代り映えのしない、段々と暗くなっていく廊下を引きずられていく。
必死に食い下がろうとする両手の爪が、何枚かはがれかけ、そこから血がにじんでいる。
??!!!!!
傍らで並走するは、私の、憧れのあの人。
『カントツ』の偉大さ、素晴らしさを力説するその顔。少年のように無邪気でいて、大人っぽい余裕の見えたその顔は。今見ると、使いまわされ見飽きた一枚絵のようにウンザリする。
『ささ、ずずいっと奥まで。狭いからきちんと詰めてよね~。』
血のような赤さびと、ヘドロのような薄汚れにまみれたカプセルに詰め込まれる。
そこはどう見ても一人用のような、入り口から奥まで幾ばくも無い狭い狭い籠。
だけど『私』が入り口に蜘蛛のように張り付いていては、脱出できない。
すがるような思いであの人を見ると…最初に出会った時から全く変化のない、貼り付けたような微笑み。
「なんで、なんで私にやさしくしたんですか。」
必死に押し殺していた心の声が、遂に漏れ出る。
「…なんで私に言葉をかけたんですか。」
忠誠。親愛。どんな悪意からもお守りすると誓ったはずなのに。
「最初から道具みたいに、家畜みたいに扱ってくれたら!ヘンな期待なんて抱かなかった!お前が、お前がそんな優しい言葉を吐くから。」
もう押しても引いても、どうしようもないから。代わりに呪いの言葉を吐く。せめて、せめて私が貴方の心の、一筋の傷となれるように。
「あはは、そっか。違う、『私』が悪いんじゃなかった!お前」
応答はなく、代わりにただ片方の手を振る。それは『いってらっしゃい』とも、『さよなら』ともとれるような微妙な元気のなさで。
『お前さえいなければ』
その瞬間、ぶつりと。『私』の眼前で、完全に扉は閉ざされた。
指揮官マスター提督先生:どこかの誰か。中肉中背少しボサついた短めの髪。『心無人』から世界を守るため、戦いを続ける。特徴らしい特徴はないが、強いて上げると優しいところ。女神でも悪魔でも、10秒ほど会話すれば彼のその優しさの虜に。
私:ケプスゴー天師団の頼れる副団長、エニケー。癒しの力を持つ。天界の修道院の出身で、『心無人』はちょっと怖いけど、修道院の幼い妹や弟たち(全員血縁関係ナシ)にお腹いっぱいご飯を食べさせるために天師団に参加している。
『私』:19人のエニケーの意識の集合体。その力は凄まじい。『私』の中にはもちろん指揮官マスター提督先生に恐怖する者、恨みを抱く者、殺意を抱く者などが居るが、最初に召喚された『私』の忠誠心でなんとか抑えている状況にある。最近のインフレ環境には置きざりにされつつある。