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パーティ登録機能

 【出力調整】が通用しないモンスターとは果たしてどんな存在か。

 そんなことを考えながら〈死の森〉を進んでいると、ふとウォルヒルの耳に「たすけて~」という微かな声が聞こえる。すぐにハッとなった。


「えっ!? この声はまさか……」


 ウォルヒルは懸命に来た道を戻る様に杖を突いて駆け出す。


 ウォルヒルから450メートル離れた場所で、リュックを背負って必死で駆けている少女がいた。

 山吹色の髪をした少女はしなやかな体をしていた。目鼻立ちも整っており、大きな青紫の瞳も魅力的で、美少女と呼んで差し支えない。だが、少女で一番に目につくのはその額の傷だった。

 大きく×と刻まれた傷は人目を引いた。

 そんな少女の背後を巨大鼠5匹が追う。猪ほどの大きさの鼠だ。

 懸命に走っていた少女であったが足を木の根張りに取られて、宙を2メートル飛んだ後に転ぶ。


「あっ!?」


 ギュビビィビィィ~~ッ!!


 空腹の巨大鼠5匹が少女の肉をかじるために飛び掛かる。

 直後、巨大鼠5匹の体が輪切りになる。地面に落ちると同時に内臓と臓器を大地に投げ出した。

 超圧縮放水による切断だ。

 頭の薄い中年男が少女に駆け寄る。


「ジョミラー、なんでおまえが? どうしてここにいる!」


 転んで泥だらけになった少女ジョミラーは半べそをかく。そう、少女はストリィト家に仕えていた奴隷ジョミラーだった。


「だ、だってウォルヒル様が一人で行くって言うから~」


 ウォルヒルは困惑し顔を歪める。


「何で来たんだ? 聖霊の水を手に入れる確率は凄く低いんだぞ! とんでもなく危険な旅だと教えたはずだぞ」


 そういうウォルヒルにジョミラーがひしっと抱きつく。


「だってこのままウォルヒル様とお別れなんて絶対に嫌なんです!」


 ウォルヒルは深くため息をつく。

 ウォルヒルはどういうわけかジョミラーに母の次に懐かれていたのだ。

 ストリィト家がジョミラーを買ったのは2年前のことである。多くのモンスターを討伐し、収入が安定すると父トニスコは王都で村の畑仕事用に奴隷を購入するといった。

 が買って帰ってきたのが華奢で当時痩せていたジョミラーである。ジョミラーの家は商家であるが、当主のメルブソンはトニスコの再従兄弟にあたる。

 メルブソンは激情家らしく長女のジョミラーが〈ノロイ〉だと知っただけで奴隷にして売り出してしまったのだ。

 トニスコはジョミラーを不憫に思い、買い取ったという。

 ジョミラーの〈神佑(スキル)〉は【鉄火】で砂鉄や鉄を操れるという〈神佑(スキル)〉だという。だが初期では引き寄せるぐらいなことしかできない。


 ウォルヒルの胸に顔をうずめるジョミラーの涙は止まらない。


「両親に奴隷として売られ、絶望してたわたしをストリィト家のみんなは、特にウォルヒル様には凄く親切にされたから、だからわたし……」


「そうか……うん」


 ウォルヒルは思わず苦い顔をする。


 ううっ、親切にした理由が父さんの隠し子、つまり妹かも知れないと思って接していたなんていえない!


 当初ウォルヒルはジョミラーがトニスコの隠し子ではないか疑っていたのだ。ジョミラーはストリィト家らしい顔貌をしている上に、買ってきてから母カールライの機嫌が悪くなったからだ。

 トニスコはとにかく女性にもてたという。トニスコも〈ノロイ〉であるが〈神佑(スキル)〉は【先読み】というすこぶる戦いに特化した〈神佑(スキル)〉であった為に無敗の伝説を築き、女性を虜にしてきたのだ。

 元々奴隷制度に反対だったウォルヒルはジョミラーを普通の家族として扱い、妹のように接してきていたのだ。

 当初奴隷になったことで心を閉ざしていたジョミラーだったがウォルヒルの優しさを受け入れ、明るくなっていった。

 泣くジョミラーを浅く抱きしめていたウォルヒルだったが、ある事にはっと気づく。


「あっ、そうだ。〈ステータス画面〉開け!」


 展開した〈ステータス画面〉を素早く指でタップする。


「確かパーティ登録っていう項目が増えていたな」


 するとジョミラーの眼前に「ウォルヒルとのパーティ登録:YES or NO?」と記された画面が現れる。


「えっ!?」


 これにはジョミラーも仰天する。奇跡の技の前に息をのんだ。


「僕の〈昇霊(レベルアップ)〉の恩恵の一つだよ。一緒のパーティになれば同じように成長できるし、連携も取りやすくなるんだよ」


 ウォルヒルはジョミラーを諭すようにいう。


「ジョミラーを一人で帰すわけにはいかない。もはや危険だから一緒に来てもらうしかない。それならば僕と正式にパーティ登録をしたほうが生存確率が上がると思うがどうする?」


「はいわかりました」


 一切迷わずジョミラーは「YES」を押す。


「これで戦う時も死ぬ時も、ウォルヒル様と一緒ですね!」


 ジョミラーは晴ればれした顔で微笑む。ウォルヒルは逆に顔を曇らせ、ため息をつく。


 まったく、この子は分っているのか? まあ、もうなるようにしかならないか……。もう、今いる状況が地獄と同等だとわかっているはずなのにこの明るさは何なんだ?


 ジョミラーは明るい顔が似合う少女だった。その美しさはこの〈死の森〉でも揺るぎがない事にウォルヒルは驚きつつ決意を固める。

 絶対にジョミラーを死なせないと、家族と自分に誓うのだった。

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