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世界樹へ……

 〈死の森〉――それは人が生活することが不可能なほど凶暴なモンスターが数多く棲む、正しく魔境であった。

 木々も魔素を吸って、通常の倍の高さに達し、日光を遮っている。

 その森の中を杖を突いた小太りの中年男性が歩いていく。

 中年冒険者ウォルヒルが片足を引きずってゆっくりと〈死の森〉を北に進んでいた。

 そんなウォルヒルの前に木の裏から巨大イタチが躍り出る。2メートルに達する巨体をしならせ襲い掛かっていく。


「キシャ~ッ!!」


 ギザギザの歯で肉を食いちぎろうと駆ける。

 がウォルヒルが超圧縮放水で巨大イタチを顎ごと体を切断する。

 直後頭上から巨大蜘蛛が降下して来る。人間の大人ほどのサイズのある蜘蛛だった。


「くっそ、真上から来るなよ!」


 ウォルヒルが懸命に前方に移動しながら指先を頭上に向ける。

 直後背後に両断された巨大蜘蛛の死骸が落下。派手に内臓をぶちまけた。

 眉間に皺を寄せ、ウォルヒルは一人愚痴る。


「ふざけやがって……いくら〈死の森〉だからって入って2時間で怪物40匹かよ……。魔石なんか取っている時間もない」


 歯を食いしばり、水筒の水を飲むと再び杖を突いて歩き出す。


「……けどやるしかねえ。この傷ついた体を治し、弟の命を救うには……!」


 そう言いながらウォルヒルは2時間前の自宅前で話したことを思い出す。



 ウォルヒルは家の前で家族に自身の傷を指さしながら話す。


「もうこの体とライクーの体を治すには世界樹に行くしかないんだ! 世界樹の根元にはどんな病も怪我も治す聖霊の泉があるという。そこで水を汲んで僕の傷とライクーの病を治す。それが今最優先でなすべきことなんだ」


 すると弟のライクーが申し訳ない顔をする。


「兄さん、僕のことはもうどうでもいいんだ!」


 直後激しくせき込む。ライクーの口から血があふれ出す。

 母はカールライがすぐ様、麻の布を取り出し、ライクーを介抱する。


「ライクー、無理をせず横におなり……」


 弟ライクーは生まれつき体が弱く、今は胸を病んでいた。治療薬はなく最近では吐血するようになり、発作の頻度が上がっていたのだ。

 父トニスコは青ざめて長男を見つめる。


「確かに逃げるにしてもライクーの病気を治すにしても、残された時間はないだろう。しかし世界樹は怪物たちが跋扈する〈死の森〉の先にあるのだぞ? S級冒険者でもたどり着くのは不可能だというぞ?」


 ウォルヒルが微笑んで返す。


「それは大丈夫。今の僕は怪物を寄せ付けない力があるんだ。それに〈昇霊(レベルアップ)〉も果たしたしね!」


「な、なんだと!?」


 これには家族みんなが仰天した。

 トニスコはこんな窮状だというのに〈昇霊(レベルアップ)〉に感動して涙を流す。


「我が家から、〈昇霊(レベルアップ)〉をする者が現れるとは――こ、こんな嬉しいことはないぞ!」


「本当! じゃあ今夜はお祝いをしないと!」


 皆が喜ぶのには理由がある。誰もが〈ノロイ〉と呼ばれる成長する見込みのない〈神佑(スキル)〉のせいで〈昇霊(レベルアップ)〉が起きることを絶望視させていたのだ。

 奴隷のジョミラーを含め、この場にいる者全員が〈ノロイ〉であったのである。

 だがジョミラーだけ〈昇霊(レベルアップ)〉したと聞いてもウォルヒルを心配そうに見つめるだけだった。


「…………」


 ジョミラーの視線にウォルヒルも気づく。


「………」


 ウォルヒルはジョミラーに近づくと隷属の首輪に触れる。


「旅立つ前にジョミラー……」


 ウォルヒルは鍵を取り出し、そして隷属の首輪を解錠する。

 ジョミラーの足元に隷属の首輪が音を起てて落ちた。


「ウォルヒル様!?」


 仰天するジョミラーにウォルヒルは微笑みを返す。


「君はもう自由だ。僕達一家と行動を同じにして従わなくていい。旅の道具と食料、路銀をあげるから君だけでも王都に逃げ延びてくれ!」


 ウォルヒルの決断に家族も同意を示す。トニスコ、カールライ、ライクーもジョミラーに微笑みを送ったのだった。。




 先程の家族との別れを思い返していたウォルヒルの前に深い霞が広がっていた。

 暗い森の中に霞が漂うと、視界が完全にふさがれるようだった。


「この先を暗示するように先が見えない。それにしても……あと何日歩けば世界樹なんだ?」


 家族の前で大見得を切ったというのにウォルヒルは早くも途方に暮れて、うなだれる。

 ジョダンテの店に残っていたモノとか全部【収納】に入れてきたから食料・物資には余裕はあるのが救いだった。

 ウォルヒルは〈死の森〉を超えることは何とかなると思ったが、度重なる死闘のせいで気持ちが弱くなり始めていく。

 もしも【出力調整】で倒せないモンスターと出会ったら――という嫌な想像をしてしまう。

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