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霞の村の家族

 荒野と〈死の森〉の間のわずなか平地に粗末な小屋のような家が点々と建つ集落があった。

 それこそがウォルヒルと家族で一から作り出した村である。

 アランら〈獰猛な牙〉と接触して30分後にウォルヒルは霞の村に到着した。


「嘘だろう!?」


 村を見た途端にウォルヒルは驚愕する。

 村の中央にある一際大きい家・ストリィト邸を、ゴブリンやオークらが300匹取り囲んでいたのだ。


「くっそう、僕の家が!!」


 これほどの数のモンスターが集まっているのをウォルヒルは見たことがない。基本種族の違うモンスターが共闘するというのはありえない。

 改めてあの〈第三のダンジョン〉がモンスター達を発奮させ、一つにまとめる影響を及ぼしているのだろうと思う。〈第三のダンジョン〉はそれほどに異常だった。

 ウォルヒルに気づいたゴブリンらが囲むようににじり寄ってくる。


「好き勝手しやがって……もう許さん!」


 100匹近い怪物がウォルヒルを円で囲むように移動した。そして一斉に一気にウォルヒルに襲い掛かる。


 ルガガガオォォ~!!


 モンスターたちのおぞましい鬨の声が響き渡った途端、ウォルヒルの周囲に四つの【収納】空間が現れる。


「4つに増えた【収納】に死角なしだぜ!」


 四つの【収納】空間が真っ赤な超圧縮放水を噴出する。

 ウォルヒルを囲んだ怪物たちが次々と体を血液で寸断されていく。

 有無を言わさぬ破壊力で【収納】空間がウォルヒルの周囲を一周する間に30匹の首や顔を断ち切った。

 どのモンスターも自分が死んだことさえ気づかずに地面に伏す。

 ウォルヒルの〈ステータス画面〉には、《サブスキル》の項目に【出力調整×2】【収納×4】【鑑定】【範囲拡大】が追加されていたのだ。

 〈第三のダンジョン〉の手前での戦いでレベルが20も上がることで《サブスキル》が増強されていた。

 巨躯のホブゴブリン4匹がモンスターの屍を踏みつぶして、こん棒を手にウォルヒルに押し寄せる。


「ウルガァォォォ~!!」


 殺意と闘志をむき出しに4匹は高い運動能力を示して踊りかかる。人間ではありえないレベルの強靭な筋肉で助走なしに5メートル飛ぶ。

 一撃で人間をひき肉に変えるこん棒を降り下ろす――が超圧縮放水の前には成すすべなく、ホブゴブリン4匹はほぼ同時に真一文字に一気に切断された。自分の飛び出た内臓を見ながら間もなく意識と命を失う。


 村での戦いが始まって5分後、ストリィト邸の扉が強引に外される。

 ストリィト邸の中にウォルヒルが飛び込んだのだ。


「誰か? 誰かいないのか?」


 家の中は暗く人がいない。何の音さえもしない。


「父さん、母さん、ライクー、ジョミラー?」


 ウォルヒルが恐ろしい想像をしたせいで心臓の鼓動が早くなっていた。

 緊張した面持ちで奥の部屋に続く扉を開く。

 すると奥の部屋に4人がいた。父トニスコと母カールライ、弟のライクー、そして奴隷のジョミラーが身を寄せ合って恐怖に震えていた。

 母以外は似たような顔つきをしている。小顔で整った顔貌をしており、青い目をしていた。ただウォルヒルとライク―兄弟の耳は、母と同じで大きくて真ん丸だ。

 ウォルヒルは安堵して、大きく息をつく。


「ああ、よかった。全員無事で――」


 だがよく見るとトニスコは頭から出血している。


「父さん大丈夫? ライク―の発作はどうだい?」


 トニスコは侵入者が自分の息子だとわかると立ち上がった


「ウォル、よくぞ戻ってきたな! 生きていてくれたか」


 母カールライがウォルヒルの肩と太腿の傷に目ざとく気づく。


「また怪我してるじゃないの? 昨日アラン達につけられた以外にも――モンスターにやられたのかい?」


「まあそんなところ。怪我したけど何とか生きている。それよりも早く逃げよう!」


 ライクーが咳をしながら、兄に云う。


「で、でも……コホッ……外に怪物が溢れかえっているよ?」


 ウォルヒルがすすけた顔でニッと微笑む。


「それなら全部片づけたよ!」


「ええっ? 本当でございますか?」


 ジョミラーが驚き、目を丸くする。

 ジョミラーは解答を得るように外に飛び出すと、村のいたるところに怪物たちの切断された死体を目にした。まさに死屍累々である。


「これはいったい!?」


 トニスコらも外に出て驚愕する。


「一体全体どうしてこんなことに?」


 戸惑う家族にウォルヒルは告げる。


「それよりもみんなは早く村を出るんだ! まだ怪物があふれ出てきそうなんだ。〈第三のダンジョン〉がとんでもなく活性化し、地上にまで影響を発し始めているんだ」


 ジョミラーがウォルヒルを見つめる。


「村を捨てるということですか?」


「ここはもうダメだ。住人も全員逃げたというし。ここらはモンスターだらけになる!」


「王都やヘラルドの街を目指すんだね?」


 弟に頷きを返す。


「ああ、僕以外のみんなで行ってくれ!」


 その言葉に家族は仰天する。


「おまえはどこに行こうというんだ?」


 ウォルヒルが迷いのない動作で北を指さす。


「〈死の森〉を乗り越え北の世界樹へ!! それ以外、生き残る道はないんだ!」


 〈死の森〉の向こうには霊峰ラクシェイムがあり、そこの麓に世界樹があるとされていた。世界樹の根本にはあらゆる怪我や病気を癒し、寿命を延ばす聖霊の泉があるという言い伝えがある。

 だが世界樹にたどり着いた者はこの数百年は確認されていない。

 世界樹に近づくほどに凶悪で強靭なモンスターが現れ、〈死の森〉から生きて帰ることができないという。

 ウォルヒルはそこに足を踏み入れようと決心していた。

 そうするしか自分と家族を助け、生き残る道はないと結論を出したのだ。 

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