解消される遺恨
マーシャルが手を振り上げて〈神佑〉を行使、広範囲に粉塵の嵐を起こす。
「ほな、うちの【粉塵】をお見舞いするわ! どないや!」
サライミがアイテム〈流血の短剣〉を引き抜く。
「てか視界をふさいだぐらいでいい気になるなよ、ガキども! 結局はわたしらが勝つ!」
するとマーシャルの横にカンピオンが立つ。
「奪うのは視界だけじゃないよ! みんな耳がダメになるからふさいで――くらえ〈ブラストソニック〉!!」
カンピオンが突き出した左手の掌から魔法で大音量が噴き出る。〈神佑〉【波】を育てたことで会得した魔法である。
ドッカン!!! 落雷の十倍以上の壊滅的な音が辺りを満たす。
《黄金街》のメンバー全員、激しい耳鳴りに襲われる。
一番音源の近くにいた巨漢のバーホーベンがいきなりひっくり返る。失神していた。
「くっそ!! 耳がナゼか聞こえなくなった!!」
耳を遅れて抑えたハイアムズの肩をシュマッカが叩く。
「時に大きな魔法は使わないでくれよ。視界が悪いので同士討ちになりかねん!」
「はっ? 貴殿は何を言っているのかね! 痛い、ナゼぶつかる?」
よろけたサライミがハイアムズの肩にぶつかったのだ。サライミは顔を真っ青にして小刻みに震えていた。
「てか体の震えが止まらないよ。あ、あんな音初めてだ……」
《黄金街》のメンバーは戦慄する。少女相手だというのに集団戦でこうもあっさり先手を取られるとは想像もしていなかったのだ。
また聞こえていたらリーダー然とする少年の言葉にもドキリとしたであろう。
「祭祀服の男は複数の呪文を同時に使える【二枚舌】、水晶を下げた男はまぼろしを生み出す【幻影】、女性は姿を消す【透明】。そして甲冑大男は特別な剣技が使える【慧剣】という〈神佑〉を使うから距離を開けて戦うように!」
そうウォルヒルは仲間に【鑑定×3】の結果を教えていた。
ペキンパーとジョフォードは少し離れた場所で斬り合いを始める。
数度剣と刀を合わせ、ペキンパーは余裕たっぷりにほほ笑む。
「〈神佑〉では俺の【剣璽】はあんたの【士魂】をスゲー凌駕している! ガハハ、残念だったな! いくぜ〈風雷激発〉!!」
「ぐほぉっ!!」
ペキンパーの【剣璽】による渾身の一撃でジョフォードが跳ね飛ばされる。
が、すぐに転倒したジョフォードは身を起こし、体勢を立て直す。
「ふむ――重く良い一撃だわい! 【剣璽】にちいと憧れるな」
眼帯と耳栓を外したペキンパーは、すでにジョフォードに詰め寄り、剣を繰り出していた。
「やるな、しかし時間がスゲー惜しいのでくたばってくれや!」
が、ペキンパーはいきなりバランスを崩す。ジョフォードに腕を下から上に蹴られていたのだ。
「ぬっ!? なんだと?」
ジョフォードが刀を構えながら、足で蹴りを繰り出す姿勢となる。
「確かに【剣璽】はわしの【士魂】よりちいと良い〈神佑〉だ。だがわしもここ10日前ほどに、主から賜った〈神佑玉〉で【蹴爪】を身につけてな。ますます攻撃力が上がって困っているのだわい!」
ペキンパーは唖然とする。あまりの予想外の言葉に膠着する。
「〈神佑玉〉? 馬鹿なそんなスゲー希少品を――そんなものは高難易度ダンジョンの最下層でなければ手に入らんぞ? 世界で今まで3つしか見つかっていない代物だ」
耳鳴りが続く《黄金街》の前の粉塵が晴れる。
それにショック状態から立ち直ったバーホーベンが即座に反応する。
「おおっ、ようやく視界が開けた! みんなここから確かな反撃に移ろうぞ!」
「おうっ!!」
闘志を高めた4人だったが粉塵のはれた先には身の丈5メートルの者が立っていた。《黄金街》の前にジョミラーが生み出した鋼鉄の巨人が仁王立ちしていたのだ。
半眼のジョミラーが《黄金街》の面々を睨む。その怒りの凄まじさが尋常でないのが《黄金街》らに伝わる。
「あんた達、ウォルヒル様を前にここで傷つけたんですって? 覚悟してください!!」
「はあっ? いったい何を……」
直後《黄金街》らが鉄の巨人の豪快な腕の振りに全員ぶっ飛ばされる。
「ぎゃぁっ~~!!!」
バーホーベン・シュマッカ・ハイアムズ・サライミが残らず左横に5メートル飛ばされ、受け身も取れずに地面を更に3メートル滑った。
凄まじい一撃はS級冒険者パーティを完全に沈黙させる。
ジョフォードの方も決着が尽きそうであった。
刀と蹴りの波状攻撃にペキンパーは完全に翻弄されていたのだ。
膝を正面から蹴られ負傷し、足の脛を強かに撃ち抜かれ、立っていることさえできなくなる。
「こ、こんな~! スゲー強い俺がどうしてこんな一方的に……」
刹那ジョフォードがペキンパーの顔面を蹴り撃つ。
「ブギャァッ!!」
歯をすべて叩き折られたペキンパーが背中から地面に倒れ伏す。
ウォルヒルには5人を成敗した意識はない。むしろダンジョンに入る前に気絶させてあげたので救出した気持ちである。
たった10日〈第三のダンジョン〉で鍛錬したカンピオンとマーシャルがS級冒険者と渡り合えるほど成長していた。そこまで過酷な〈第三のダンジョン〉で《黄金街》とペキンパーが一階層を突破するのは無理であろう。
ウォルヒル一家は数回に分けて、一日30人〈第三のダンジョン〉を体験させているが、誰もが恐るべき速さで成長していたのだ。
ウォルヒルが改めてペキンパーらを見下ろす。なかなかに重傷を負っているようだが、どうにも助ける気になれない。
「さすがにこんな連中を治療する義理はないな」
そう冷たく言い放つのであった。
またこれから書きだめに入ります。よろしくお願いします。




