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《黄金街》、再び

 〈死の森〉に面し、三つのダンジョンがあるパラマウン地方。その南西に広がる無辺な荒野に大量に蠢くものがあった。時刻は夜明け前、空は曇天である。

 何もない荒野を無数の数が蠕動するかのように行進していく。

 荒野を埋め尽くすほどの数が同じ方向に動く光景は圧巻でさえある。

 蠢く者は全てゴブリンであった。身長1メートル弱、緑の肌に顎周り以外に毛のない、牙を持った二足歩行生物。分類的には魔物である。

 そのゴブリンが一心不乱に足を動かしていた。数は4600にも届く。

 中に異様な一団がいた。ゴブリン50匹が木を粗く組んでつくった神輿を担いでいるのだ。

 神輿台に一際大きいゴブリンがふんぞり返っている。冒険者にはゴブリンキングと呼ばれるゴブリンの進化個体だ。身長は3メートルに届く巨躯であった。

 ゴブリンキングが顎をさすりながら暗い双眸を細める。そしてゴブリン語でつぶやく。


「魔王様が復活する。急がねば――」


 その声は誰も聞くことはない。

 ゴブリン達の大移動の真っすぐ進む先には魔力が満ち満ちた場所が存在する。

 それはできたばかりの〈第三のダンジョン〉だ。





 4時間後の昼間、今冒険者の間で話題沸騰の〈第三のダンジョン〉の前に5つの人影があった。

 全身を細工が施された防具と数々のアイテムを身につけており、一見でただ者ではないとわかる。

 首都の冒険者で知らない者がいない存在であった。

 バーホーベン、シュマッカ、ハイアムズ、サライミらパーティ《黄金街》が〈第三のダンジョン〉前に立っていたのだ。若い女性サライミ以外は三十路の男で構成されたS級冒険者パーティである。


「ふふふ、こんなスゲー遠くにグリフォン使ってきたのなんて俺も初めてだぜ。ホリウド王国パラマウン地方エルビス・〈諦めの荒野〉の〈第三のダンジョン〉、確かにスゲー魔力が漂っているな!!」


 《黄金街》の後ろから中年でアイパッチをした男がそうつぶやく。

 剣聖バーホーベンが音を立てて生唾を飲む。


「なんでか知らぬが再び〈第三のダンジョン〉にやってきてしまった。確かに周囲にはとんでもない魔素が漂っている……」


「うむ。時にモンスターの姿がどこにもない。これはいったい?」


 首をかしげる賢者シュマッカ。それに魔導士ハイアムズが同意する


「ナゼなのかね? これほど魔力が溢れかえっているのにコボルドさえいないのかね……」


 パーティ《黄金街》の背後からアイパッチの中年・ペキンパーが声をかける。


「どうした? S級パーティの《黄金街》がビビってんのか?」


 ペキンパーが誇らしげに魔法剣〈ゴッドファーザー〉を抜き放つ。


「おまえらは王国でも最高の〈神佑(スキル)〉保持者だ! それに今、至高の〈神佑(スキル)〉【剣璽】を持つスゲー俺が参加してんだ! 恐れる要素はなにもねえぞ!」


 その言葉に顔を青くしていた《黄金街》達も元気を取り戻す。


「け、結局そうですね! てかSSのペキンパーさんが助っ人だから安心だし!」


「確かにペキンパーさんがいれば例え地獄の底に堕ちたって、なんだかんだで生き残れるだろう!」


 ペキンパーはその露骨なご機嫌取りにも気づかず豪快に笑う。


「ガハハハ、その意気だ! 大船に乗った気持ちで行けよ!!」


 そうはいったがペキンパーは内心では呆れていた。


 まったくだらしねえ! これが国最高のパーティーかよ、情けねえ! さっきからビビり散らしてやがる。


 《黄金街》はここに来てから魔素の高さから完全に尻込みしていたのだ。確かにペキンパーも未経験の環境であるが、冒険者がいちいち臆病風に吹かれていては商売にならないと思う。

 ペキンパーは〈第三のダンジョン〉の入り口を睨む。


「だが確かにこのダンジョンから漂う魔力はただごとじゃねえな…入り口だっていうのにダンジョン深層に相当する緊張感が漂っていやがる」


 見ているうちに心の中にざわめきが起こり、無意識に生唾を飲み込む。


「今日は一階層で様子見が賢明だな。さあ! ちょいと様子を見て公爵に報告しようぜ」  


 《黄金街》とペキンパーはレニハー公爵の依頼で〈第三のダンジョン〉の調査に来ていたのだ。きっかけはウォルヒルが売りさばいた大きな魔石だった。

 あまりの高品質な上に大量に入手したことで、ホリウド王国どころか他国を巻き込む大騒ぎとなったのだ。各国の政府機関・魔法ギルドがこぞってウォルヒルの魔石を求めてホリウド王国に殺到したのである。

 ホリウド王国内でも確保しようと争奪戦が起きた。それを知ったレニハー公爵は旧友でもあるペキンパーを口説いて、入手先であろう〈第三のダンジョン〉の調査を依頼したのだ。

 快諾したペキンパーは《黄金街》に調査の命令を出したが、辞退しようとしたので仕方なく重い腰を上げ、同行することにしたのだ。

 実際現地に来るとペキンパーも〈第三のダンジョン〉がとんでもない場所であるとはわかった

 〈第三のダンジョン〉だけではなく〈死の森〉を調査する予定であったが、そう簡単にいかないだろうとペキンパーも思いだす。

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